第46話 過小評価

 普通の生産職からすればふざけてるとしか思われない難易度の依頼が何個も柊の元に届けられた。これは協会や政府が厳選した依頼であり、柊の立場では断るのが難しい依頼である。

 

 幸い蒼唯専用のサイトを立ち上げるという話の交換条件という話でそれらの依頼を引き受けてくれることとなった。

 柊が安心したのも束の間、彼は自分が蒼唯を過小評価していたことに愕然とすることになる。彼は自分ほど蒼唯を評価している人物はいないと思っている。しかしそんな自分の評価すら正当ではなかったのだ。


蒼唯:「どうでした?」


柊:「...完璧だ。依頼主たちもアオっちの商品を絶賛してたぜ」


蒼唯:「今回は可愛さ度外視で造ったですから褒められても微妙です」


柊:「そ、そうか」


 『死毒都市』の再建レベル、つまり概念系アイテムである『逆様の槌』レベルのアイテムを量産した。可愛らしくという制限を外した蒼唯の能力は、チートやバグと言う言葉が適しているだろう。


蒼唯:「これで面倒な注文は取り敢えず終わったです。やっぱり楽しく造れないのは嫌ですね」


柊:「はは、アオっちらしいぜ。じゃあまだ他にも国からの依頼があるって言ったらどうするぜ?」


蒼唯:「勿論、お断りです」


柊:「やっぱりか」


 今回の件は、世界中で大きな反響があった。崩壊都市の何ヵ所かが復興したのだ。『死毒都市』レベルの崩壊都市を抱えてる国は少ないが、都市機能を一部失い住民の多くが住めなくなった都市等は多い。そんな都市を抱える国がこぞって依頼を出してきている。


 それを選ぶ立場にある政府や協会のお偉いさん方は得意気になっていることだろう。一人の傑出した『錬金術師』の登場で日本の外交力が上昇したのだ。

 

 しかしそういったお偉いさん方は一つ勘違いしている。

 立場のある者は国などからの依頼を断るのが難しい場合がある。しかし探索者としての立場も責任も皆無の蒼唯からすれば別に受ける義理もない。お偉いさん方の到底納得し得ない理由で断ってくる。国のためという古臭い文言は蒼唯には通用しない。

 探索者協会がある程度、探索者を制御するために制定したルールも、探索者として活動していない蒼唯を縛ることは出来ないのだ。


―――――――――――――――


 政府が探索者を外交の道具とすることは、これまでも行われてきた。ダンジョンブレイクが発生した際の探索者派遣などがそれに当たる。人助けの側面もあり、尚且つ協会側が定めた指名依頼に関する制度もあるため指名依頼を断り続けることは基本的には難しい。無茶苦茶な依頼であったり、政府の横暴が過ぎればその限りではないが。


 生産職である蒼唯への依頼は命の危険がない。しかも最難関と思われた依頼をあっさりと解決してしまった腕前を思えばどんな依頼も選び放題である。

 そんな勘違いを一部のお偉いさん方がしてしまうのだ。


「断った? 何を?」

「現時点で納品済みの依頼以外の全ての依頼を、齋藤蒼唯が拒否したのでご連絡に参りました」

「ふざけているのか? そんなことが許されると本気で思ってるのか! もう既に承諾を前提に話を進めている案件が何個もある。それを断るとなればどれ程の損害が出るか分かってるのか!」

「齋藤蒼唯はこれ以上の政府からの依頼は基本的に拒否するものと伺っております。残念ながら私では説得できず申し訳ありません」

「国のために働けるというのにか? ペナルティ執行でもしてやろうか!」


 協会が探索者をある程度制御するために制定したルール。それを破った者に与えるペナルティを脅しに使おうと考える役人。


「齋藤蒼唯はダンジョンも協会施設も利用していないためペナルティは意味を成しませんので悪しからず」

「そんな探索者がいるだと。ふざけやがって。お前ら探索者ごときが国の役に立てる機会を与えてやっているんだぞ!」

「言葉には気を付けた方が良いと思いますよ? 特に今は」

「なんだと!」

「申し訳ありませんが、お伝えすることはありませんので帰らせていただきます」

「おい、おい!」


 後にこの会話の音声が流出し、大炎上を引き起こすことになるのだが、まだそれを知らない役人は柊の無礼な態度に怒りを震わせるのだった。

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