第45話 自信喪失
蒼唯の名前と顔が全国に公表された。蒼唯としても記者会見までして大々的に公表するとは思っていなかった。蒼唯は全く探索者業界に興味がないが世間の注目度が高い業界であることは理解している。そういった者たちには自分の名前と顔が認知されたことだろう。
現時点でも影響は出ている。『ダンジョンショップ』での蒼唯のアカウントは即座にバレ、様々な注文がメッセージで送られてきている。『ダンジョンショップ』以外からも多数の依頼が来ているようだ。その窓口を買って出た柊から聞いた依頼数は蒼唯の想像の10倍以上であった。
「私って意外に凄かったですね」
「ぬい~」
「まく~」
ぬいぐるみ2匹から今さらかと言うような相槌を打たれる。無自覚であった天才は周囲の反応を受けて自覚する。
「『錬金術師』としての才能ですか...え、と言うことはです」
『錬金術師』としての圧倒的な実力を自覚した途端、とある想像が浮かんできた。それは現実的な想像であった。蒼唯は居ても立ってもいられなくなり初めての客である星蘭に連絡を取る。
蒼唯:「星蘭さん、今少し時間いいです?」
星蘭:「大丈夫だよ? そっちこそ大丈夫なの?」
蒼唯:「問題ないです。取り敢えず『ダンジョンショップ』のメッセージは通知オフにしてるです。両親に言われて家も『認識阻害結界』で覆ってるですし」
一般人に『認識阻害結界』は突破できない。住所がバレて記者や野次馬が殺到しても誰も蒼唯の家を認識できないという奇妙な現象となるだろう。
星蘭:「ならいいけど。それでどうしたの?」
蒼唯:「世間の反応で私には『錬金術師』としての才能が私の想像以上にあることが分かったです」
星蘭:「今自覚したんだ...それで?」
蒼唯:「そしたら急に不安になってきたです」
星蘭:「アオ...」
星蘭は驚いた。蒼唯ほどマイペースで、周囲に流されない者も珍しい。そんな彼女でも今の状況は不安になるのかと。
蒼唯:「だから確認したいです」
星蘭:「うん」
蒼唯:「星蘭さんは私の商品、可愛いと思ってるですよね?」
星蘭:「うん? どう言うこと?」
蒼唯:「私のお客さんは性能3割、可愛さ7割くらいで私の商品を選んでくれてると思ってたです。でも私の造る商品の性能が思ってたより良かったみたいなんです」
星蘭:「そうだね」
蒼唯:「もし星蘭さんたちが、私の商品を可愛さじゃなくて性能だけで選んでたら、私の可愛さへの自信が崩壊するです」
星蘭:「あ、そう」
蒼唯も探索者が態々、性能度外視で可愛さだけで選ぶとは思っていない。しかし専門でもない蒼唯の商品を選ぶ要因として商品の可愛さがあると思っていた。
しかし、自分に『錬金術師』としての圧倒的才能があるとするならば、見た目など関係なしに選ばれていた可能性があるのではないかと思ってしまったのだ。
蒼唯が密かに抱いていた可愛さへの自信の揺らぎ。これは蒼唯にとっては重要な問題である。蒼唯にとっては。
蒼唯:「だから星蘭さんに聞きたいです」
星蘭:「私が初めてメッセージを送ったときは、アオが『錬金術師』の天才だなんて思ってなかったよ? それでもメッセージを送って商品を購入したんだよ」
蒼唯:「星蘭さん」
星蘭:「自信を持ちなよアオ~」
商品を買った切欠は、可愛さであることは間違いない。買い続けた理由は性能の関係であるが、それは蛇足なので話さないが。
蒼唯:「良かったです。もし私の商品の可愛さが足りないってなったら、一から勉強し直さなきゃならんかったです。そうなったら商品造りどころじゃないですよ」
星蘭:「それは良かった。本当に」
世間から認知された伝説の『錬金術師』が自分の言葉により早々に活動休止になられては堪らない。星蘭は安堵するのだった。
蒼唯:「あ、柊さんから聞いてるかもですが、『ダンジョンショップ』を正式に止めて、柊さんが始めるサイト? に移行すると思うです」
星蘭:「そうなんだ」
蒼唯:「これまでの受注生産は基本的に止めて、私が造りたいものを造って売るスタイルに変更する予定です。勿論、星蘭さんたち前からのお客さんからの注文は受けるです」
星蘭:「ああ、柊がアオ専用の会員制のサイトを立ち上げるとか言ってたやつか。依頼とか殺到してるから、受注生産とかにしてるとキリ無くなっちゃうもんね」
蒼唯が受注生産をしていた一番の理由は、客を選ぶためであった。愛をもって商品を買ってくれない人に売りたくないからであった。
しかし客の母数が段違いに増えた影響で、一人一人対応出来なくなってしまった。そのため蒼唯の要望にできる限り応えるためのサイトを柊が立ち上げたのだ。
蒼唯:「サイトのお礼に柊さんがどうしても断れないって持ってきた依頼を何個かやらなきゃならないですけど、まあ内容見たら大したこと無いですから、ささっと終わらせて趣味活を再開するです」
星蘭:「本当にささっと終わらせられるからなアオは」
蒼唯が片手間で終わらせた依頼によって救われた都市が幾つもあるのだが、蒼唯にとってそれは、どうでも良いことであった。
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