第42話 衝撃映像

 『菌ノ庫』の特異種の繁殖力は協会の想定を遥かに越えていた。そのため刻一刻と危険区域が拡大していく現状に協会は焦りを見せていた。

 周囲の様子を観察するため設置した『ダンジョンカメラ』に胞子が寄生しないことから、機械などでの『菌ノ庫』討伐も考えられたが、探索者側から『炎帝』の火炎魔法への耐性を獲得できるほどの適応進化が出来る『菌ノ庫』だけに、下手な対策をすれば相手を強化しかねないと反発があった。


 探索者は胞子結界を突破出来ず、他の手段も決め手に欠ける状態。『死毒都市』の再来と呼ばれる事態に対策本部は絶望感すら漂っていた。

 そんな時、『商会連合』が行っている『ダンジョンカメラ』ての生配信で、現在の状況確認を行おうと配信ページを開いた者が驚きの声を上げる。

 

「え、うわ!」

「何だ! どうした? 『菌ノ庫』に何か動きが...な!」


 生配信の映像は、胞子結界に阻まれあまり鮮明では無かった。しかしその胞子が霧散していく。そんな異常事態の中心には犬らしき物体が見える。

 犬の首にはテイマー等がモンスターに付ける識別章が付けられていた。


「あ、あれは...」

「あれが何か知っているのか?」

「最近、度々話題となっている『ぬいぐるみ』てすよ」

「...ふざけてるのか?」

「いえ、本当に『ぬいぐるみ』型のモンスターが単独でダンジョンを攻略していると話題になってまして」

「そうなのか、すまない」


 いきなりの『ぬいぐるみ』発言はふざけているようにしか見えなかったが、ここら辺では『ぬいぐるみ少女』と並びそこそこ有名な存在である。

 そんな存在がなぜ『菌ノ庫』ダンジョン付近で胞子を霧散しているのかは疑問だが。


「...『ダンジョンカメラ』を移動させろ。取り敢えず『菌ノ庫』の様子を確認する!」

「はい!」


 遠隔操作で協会が設置した『ダンジョンカメラ』を動かしていく。ライブ映像でそれを確認していく職員たちだったがそこには驚愕の映像が映されていた。


「『菌ノ庫』どころか茸一本生えてません」

「なん...だと? さっきの『ぬいぐるみ』が?」

「詳細は分かりませんがおそらく」

「あの『ぬいぐるみ』の主人に確認を取れるか?」

「...いえ、あの『ぬいぐるみ』の主人が誰なのかは現在分かっておりません。おそらく例の『死毒都市』で浄化アイテムを造った『錬金術師』の作品であると推察されているのみです」

「またか!」


 最近、話題となる騒動の殆どに関係している例の『錬金術師』の存在。協会側からアクセスが出来ない存在である。

 

「『商会連合』の来馬柊氏に確認を取れ! 彼ならあの『錬金術師』と連絡が取れるだろう」

「分かりました!」

「今後の対策は上と相談するが、取り敢えず現場の調査班を編成しといてくれ」

「はい」


 対策本部が慌ただしく動き出す。しかし先程まで漂っていた絶望感は霧散していた。


―――――――――――――――


 協会側からの問い合わせを受けて状況を把握した柊は、取り敢えず配信映像を確認する。

 するとやはり前に見せられた『ぬいぐるみ』のぬいが胞子を霧散しているのが確認できた。


「流石だぜアオっち...問題はこれがアオっちの指示かどうかだな」


 普通ならあり得ないことだが、ぬいの独断専行であった場合、蒼唯に確認したところで詳細は分からない。少し考えた柊は、蒼唯にメッセージでぬいが映り込んでいる動画の切り抜き映像を送ることにした。


柊:「アオっち、この映像ってぬいか分かるか? ニュースとかでやってる『菌ノ庫』ダンジョンの映像なんだが」


蒼唯:「ちょっと待ってくれです...これはぬいですね。危険だから近付くなって言ってたのにです」


柊:「やっぱりか...」


 やはり蒼唯は関与していなかったようであった。


蒼唯:「あ、ちょうど今、ぬいが帰ってきたです。教えてくれてありがとうございますです」


柊:「あ、ああ」


 その後、柊は蒼唯から茸狩り感覚でぬいが現地に行ってしまったこと。ぬいが『茸師』という茸を支配するスキルを習得していること。そのスキルで『菌ノ庫』を数本持ち帰っていること等、衝撃の事実をさらっと伝えられ放心することになる。

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