第43話 勘違い

 帰宅してきたぬいに、柊から送ってもらった映像を見せながら怒る蒼唯。


「行ったら危ない所には行っちゃダメです」

「ぬ、ぬい...」

「危ないかどうかの判断は基本的にはぬいを信じてるですよ。今回、ぬいが『菌ノ庫』を美味しく見えて大丈夫って判断なのかもしれんですけど、ニュースになるくらいの場所です。『菌ノ庫』以外にも危険はあるかもしれないです」

「ぬい」

「まくまく!」

「まっくよもこう言ってるです。反省するです」

「ぬい... ぬい!」


 こんなに早くバレるとは思っていなかったぬい、何とか蒼唯の機嫌を取ろうと持ってきた『菌ノ庫』を一本献上する。


「これが『菌ノ庫』ですか。色々と使えそうですね。これ一本だけです?」

「ぬいぬい!」


 そう問われたぬいは、自身が習得した『茸師』により栽培できることを必死に説明する。すると蒼唯はにっこりと笑い手に持っている『菌ノ庫』をまっくよに渡しながらぬいの頭を撫でる。


「良い子です。そんなに私の顔色を伺わなくていいてす。ちょっと心配で怒っただけですよ。だいたい私が趣味活で好き勝手してるですから、ぬいの勝手を怒るのも忍びないです」

「ぬい~」

「でも心配ですから、もしいつもとは違う場所に行きたくなったら、事前に行っといてくれです」

「ぬい!」


 そんなほっこりとしたやり取りをしている横でまっくよは、


「まっくまく」

「確かに美味しいみたいですね。ちょっと私が食べるには勇気がいる色合いをしてるですけど」

「ぬい!」


 更にほっこりする食べっぷりを見せるのだった。


―――――――――――――――


 柊はこれまで、色々な者から蒼唯について聞かれてきたが、それをのらりくらりと躱してきた。しかし今回はそれも難しそうだ。

 実質的に日本を救ったのは2度目である。しかも今回はほぼ単独で事態を収拾させてしまっている。そんな者の詳細を協会も政府も誰も知らないでは面子に関わる。どうしても詳細を語らせようとしてくるだろう。


「はぁー、気が重いぜ」


 蒼唯に納得してもらうために誠意を持って説得しなければならない。今回の騒動がいかに重大であり、それを解決したぬい、そしてその主人である蒼唯がどれ程の存在となったかを

 説得は難航を極めると思われた。


柊:「と言う訳で、協会側に蒼唯の名前とか諸々を教えろって言われてるぜ」


蒼唯:「別にいいですよ」


柊:「分かってる分かってるんだが...へ?」


蒼唯:「別に構わないですよ。と言うか律儀に私のこと秘密にしてくれてたですね。ありがとうです」


 柊と蒼唯の認識の齟齬が出た。面倒事を嫌う蒼唯は、趣味じゃない依頼に拘束され続けるのが嫌であった。そのため趣味が合いそうにない者に宣伝するのはやめて欲しいと柊たちに頼んでいた。名前が売れることで性能だけに目を付けた輩が大量発生するのを嫌ったのだ。

 しかし協会からの依頼を達成するために製作を依頼されたようなモノは、流石に謎の人物作の装備ですでは通らないと思っていた。役所は信用が大切である。いくら性能が良くても信用のできない人物のモノは難しいだろう。なのでこれまで秘密にしてくれていたとは思いもしなかった。


柊:「じゃあ、言わせてもらうぞ」


蒼唯:「あ、最悪、『ダンジョンショップ』の試用じゃ対応が出来なくなったら、別のサイトなりに移るかもしれねーですからそれだけよろしくです」


柊:「そうか。そういう意味か...もっと早く聞けば良かったぜ」


 名前が売れすぎて趣味じゃない依頼が大量にサイトのメッセージに届けられるようになったら『ダンジョンショップ』を止める。

 昔、蒼唯が言っていたことである。柊や『流星』のギルマス星蘭は、その言葉を探索者業界から引退すると捉えていた。しかし実際はそうでは無かったようだ。


柊:「もしあれなら、アオっち専用のサイトでも造るか?」


蒼唯:「そこまで大事にされても困るです。どうせ造りたいものしか造らないですし。あ、そうです。もし協会に言うなら私のお父さんかお母さんに最初に言って欲しいです」


柊:「齋藤青葉さんと齋藤勇作さんだな?」


蒼唯:「知ってるです?」


柊:「かなり有名な両親だからな。了解した。多分あの2人のことだから、アオっちのヤバさは知ってると思うけど先に伝えとくぜ」


蒼唯:「ヤバさ? 取り敢えずよろしくです」


 こうして、ようやく協会側は蒼唯の名を知ることになる。これ以降、齋藤蒼唯の名前は世界中に広まることとなる。




☆☆☆☆☆


初期構想の名残で蒼唯の名前が秘匿にされすぎていましたが、ようやくです





 

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