第38話 蒼唯の考え
とある日、ぬいとまっくよを連れて散歩をしていると、前に大剣を握りベンチで黄昏ていた男性が同じベンチに座っていた。今度は特に大剣は握っていない。
前回は大剣を握りしめている不審者に驚いてつい声をかけてしまったが、今回は特に用も興味も無いので立ち去ろうとした。しかし男性の方も此方に気が付いていたのか、声を掛けてくる。
「待ってくれ蒼唯ちゃん!」
「.........どちら様です?」
「え、覚えていないかい? この前、剣を見て貰った者だ」
「...ああ。何か用ですか?」
「この前はお礼も中途半端に立ち去ってしまったからね。しっかりとお礼をしようと思って」
「ここで待ってたです? やっぱり不審者適正アリですね。気をつけてくださいです」
「え、あ、うん」
ここまで構うなオーラを垂れ流しているのに話を続けてくる男性。
「そ、それでお礼何だけど――」
「お礼の言葉です?」
「あ、そうだね。この間は本当にありがとう。君のお陰で――」
「確かに受け取ったです。それじゃ!」
「え、ちょっと待って!」
蒼唯としてはお礼など要らないので立ち去って欲しい。しかしこういうタイプは経験上そう言っても簡単には納得してくれない。『ダンジョンショップ』などのネットではメッセージを打ち切るという荒業を使うが、ここは現実、逃走は難しい。
「しっかりと金銭的なお礼をしたい」
「...金を貰うようなことはしてないです」
「そんなことはない! 君のお陰で多くの人が――」
「私は貴方に借りを作りたくないです。もし今、お金を貰ったら、次貴方が私的にはやりたくないことを頼まれても、やらなきゃなと思っちゃうです」
「そんなことはないよ。これは正当なお金なんだ」
「貴方がどう思うか知ったことじゃないです。私は私が正当だと思う額以外の金銭を受け取りたく無いんです」
アイテムの値段が必要最低限なのも、お金が原因で趣味活を好きに出来なくなるのを防ぐためである。所謂、報酬を貰ってるんだから、仕事なんだからしっかりやれという理論を趣味にまで持ち込みたくないのだ。
「...蒼唯ちゃんは何処かギルドには所属しているのかい?」
「してないですし、する気も無いです。私は趣味で『錬金術師』やってるです。これを仕事にするにしても自由にやれなきゃ無理です。そう考えるとギルドは特に無理です」
「君が造りたいモノを好きなだけ造ってくれれば良いと言われてもかい?」
その言葉はかつて星蘭にも言われた言葉である。蒼唯は星蘭に断った時と同じ回答をする。
「それ、知り合いのギルドマスター? やってる人にも言われたですけど、もし誘ってくれた人が好き勝手を許して、その人に免じて他の人も好き勝手を許したとしてです。その人は私の腕を見込んでる訳です。周りもその腕に期待するわけです」
「そうだね」
「私はそれを披露する気がないです。それを誰も咎めないとして、私が好き勝手やる責任は誰が取るです? 私を誘った人が非難の目を向けられるです」
「...そうかもね。でもその人はそうなること覚悟で誘ってるんでしょ? それに君が好き勝手やることで利益も生まれるかもしれない」
「利益が生まれれば、もっと実力を見せて欲しいと思われるかもです。最終的に私は、誘った人の顔を立てるために頼まれた仕事をやっちゃうかもです」
結局、蒼唯は善良なのだ。困ってる人がいれば助けたくなるし、自分のせいで困ってるなら自分がどうにかしたくなってしまう。
しかし善良である以上に拘りも強い。趣味活に支障をきたす程の人助けなどやりたくないのだ。
そして何より探索者とは趣味が合わない。蒼唯と趣味の合うお客さんは探索者の中には少ないのだ。
「それに私は商品には可愛さを最重要視してるです。でも普通の探索者は可愛さなんてものより性能を重視するです。そんな環境でやったって楽しくねーです」
「そうか...」
「まあ、お礼の言葉は受け取っとくです。さようならです」
「ぬい!」
「まくー!」
颯爽と去っていく蒼唯を英雄は止めることなど出来ないのであった。
☆☆☆☆☆
蒼唯が正当な報酬を受け取らずにいる説明回でした。
輝夜視点からの蒼唯の説明とどっちにするか迷った挙げ句、雑に英雄登場させてしまった...
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