菌ノ庫編
第39話 菌ノ庫
世界中でダンジョンブレイクの発生率は上昇し続けている。しかしその殆どが探索者たちの迅速な対応により被害は最小限に留められている。逆に言えば迅速に対応が出来なかったものほど、被害は拡大してしまう。
ダンジョンブレイクは、モンスターがダンジョン外に出現し出すが、基本的にそのダンジョンの上層に生息しているモノから順番に出てくる。稀に順番など関係なくボス級のモンスターが最初から出てくることもあるが、そう言った場合対応が遅れ被害は甚大になりやすい。
今回、日本で発生したダンジョンブレイクもその類いであった。
ニュースキャスター:『探索者協会の会見では、茸型モンスターが多く見られるダンジョンであり、普段あまり探索者が近寄らないため発見が遅れたと説明しています。発見したのは協会の職員であり、一週間前に定期確認を行った際はダンジョンブレイクの予兆は確認できていなかったようです。尚、ダンジョンブレイクが発生した周囲は『
コメンテーター:『『菌ノ庫』が繁殖させる茸は、『魔力喰らい』や『生気吸い』など生物に寄生して成長するモノが多く、尚且つ、一度寄生されれば現在の手段では中々治療は難しいです。ですので絶対に発生した場所には近づかないように気をつけて下さい!』
蒼唯たちがテレビを見ていると臨時ニュースが流れてきた。普段は探索者関連のニュースなど気にも止めないが、今回は少し気になる点があった。
「ここ、隣町ですね」
「ぬい?」
「まく?」
「ここから凄く近いってことです。まっくよは兎も角、ぬいは近づかないように気を付けるです!」
茸に可愛さを感じる系女子じゃない蒼唯は、『菌ノ庫』についてはよく知らないが、臨時ニュースとして流れる程の事態が発生しているのだろう。
蒼唯との散歩でしか外に出ない引きこもり猫のまっくよは良いが、ほぼ毎日ダンジョン探索にいく活発犬のぬいには注意しておかないと危険である。
「ぬい!」
「本当に分かってるです? 何ですその顔? お腹でも空いたです?」
「まく~」
「ぬいぬい!!」
「...よくわからないですけど、気を付けろです」
ぬいの視線はダンジョン周辺に生えていた茸に釘付けになっていたのを蒼唯は、見逃してしまっていたのだった。
―――――――――――――――
植物型モンスターによるダンジョンブレイク。自由に動き回るモンスターたちに比べ、移動能力がほぼ無いモンスターが多いため、ダンジョンブレイクなど発生しないという慢心が確かにあった。
さらに最悪な事にダンジョン外に出現した大本の『菌ノ庫』は特異種であった。
『菌ノ庫』などの茸型モンスターを倒す場合、消毒や炎などが対策として存在する。発見した職員たちが協会支部にあった装備を使い『菌ノ庫』や周りの茸たちの駆除に乗り出した所、周りの茸たちは駆除出来たものの『菌ノ庫』は全くの無傷であった。
しかも『菌ノ庫』がその後、『消毒耐性』や『火炎耐性』が備わっている茸たちを繁殖させ出したため、協会が所有する装備ではどうにもならなくなってしまった。
「下手な対応をすれば事態が悪化する! 今、対応が可能な高位探索者に要請している。勝手な行動は慎め!」
「職員はマニュアルに従って行動しただけです。繁殖力の高い『菌ノ庫』を放っておけばどうなるか分かるでしょう。失敗した結果だけを見て叱咤するのはやめて頂きたい!」
しかし協会側はまだ慢心していた。たかが茸。火炎魔法の使い手を召集すれば問題無いだろうと。
そして耳を疑う。日本でも有数の火炎魔法の使い手である『魔導師』の炎でも『菌ノ庫』は焼却出来ず、その『魔導師』は茸まみれで何とか帰還したという報告が届けられたのだ。
国内有数の火炎魔法にすら『耐性』がある茸を繁殖し、自身もそれ以上の『耐性』を保有する『菌ノ庫』という化物を生み出してしまったのだ。
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