第36話 クマの雁木

 現在は覇権を取り戻しているが、『黄昏』一強時代を揺るがした『流星』の快進撃。この影響は大きかった。これまでよりも活発にレイドを行うギルドが国内で増加したのだ。

 その例にもれず『クマの雁木』率いる『臥竜』も国内でも難関と言われているレイドに挑戦していた。


『時空龍』クロック。直接的な能力は龍種の中でもそこまで高く無いが、自身を早くする『加速クイック』や此方側の行動を遅くする『遅延スロー』など多くの『時空魔法』を使ってくる。ダメージを負わせても『巻き戻しリワインド』で回復と龍種でも特別面倒な性能をしているモンスターである。


 しかも質が悪いことに、追い詰めたと思えば、必殺の『時間封鎖タイムロック』を使ってくる。これはボスフィールド全体を範囲とした攻撃で、フィールド内にいる者全てを時間の牢獄に囚われ続けると言われている。過去に成す術無く、この魔法の餌食となり消えていったギルドが何個もあった程である。

 そんなこともあり『時空龍』クロックはこれまで放置されてきた。こいつがいるダンジョンは階層型のダンジョンでは無く、倒さずとも特に不利益と成らないのも攻略されなかった所以である。


 そんなボスに挑戦した雁木率いる『臥竜』。彼らも日本でトップクラスのギルドだけあり、『加速』や『遅延』をものともせず、着実にダメージを負わせていく。『巻き戻し』も使わせる隙を与えず確実に追い込む。

 『時空龍』クロックの攻略法として考えられたのは、『時空魔法』は発動に時間の掛かる魔法の代表であるため、発動前に潰す。これである。


【ナカナカ、ヤルナ! ダガ――】

「は! うるせーんだよ蜥蜴の分際で!」

「そうだそうだ。全くよ...これまで誰も攻略できてないって聞いてたが、思ったより楽な相手だなおい!」

「モンスターが喋れるのには驚いたがな!」

「おい、お前ら! 最後まで気を抜くな」


 最早、詰めの段階である。『時空魔法』を発動する事できずただやられ続けるクロック。ここから『時間封鎖』なんて大規模魔法を発動させるへまをする余地もない。完全に勝ったと確信した。


【オロカモノドモガ! 『ディレイマジック』ハツドウ】

「『遅延魔法ディレイマジック』...ヤバい! 総員たい――」


 『遅延魔法』とは事前に発動しておいた魔法を任意タイミングで発動するため待機させておくモノである。本来、待機させておける時間は数十秒から数分が限度である。戦闘開始から30分近く経っているため、端からそんな可能性を排除していたが、『時空龍』クロックは『名付きネームド』のモンスターである。その優秀さが『臥竜』そしてこれまで散っていったギルドの誤算であった。


【シネ『タイムロック』!】


 『時間封鎖』が発動する。フィールド内にいる限り、この攻撃に全ての存在が晒される。ほぼ全ての存在が時間の牢獄に囚われる。動けるのは発動した『時空龍』クロックと、


【ナ、ナゼダ! ナゼウゴケル!】

「それは俺が聞きたいが...おそらくこれのお陰だろ。 まさかここまでのモノとは思わなかったがな!」

【『タイムバッグ時空鞄』ダト! ソレガワレノ『タイムマジック時空魔法』ヲ、チョウエツシテルトイウノカ!】

「...さて『遅延魔法』でもう魔力も残って無さそうだ! おい、覚悟は出来てるんだろうな!」

【ヤ、ヤメローーー!】


 『時空龍』クロックは討伐された。時間の牢獄に囚われていたメンバーもクロックの討伐直後解き放たれたので、犠牲者は出なかった。

 クロックのドロップ品は世界でも最高品質と称えられた『時空鞄』であった。しかしそれを入手した雁木の背中にはこれまで通りクマの『時空鞄』が背負われていたので、「『クマの雁木』は伊達じゃない!」と再認識されることになるのだった。

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