第33話 とある勘違い

 どうやら『逆様の槌あべこべハンマー』は役に立ったらしい。柊が嬉しそうに報告のメッセージを送って来たことでそれを知った蒼唯。何でもかなりの大仕事が『逆様の槌』のお陰で成功したらしい。

 その際、柊から『逆様の槌』はもう造れないのかという質問があった。それと共に『反転』に似たスキルを持ったモンスターの素材が送られてきた。


柊:「どうだぜ?」


蒼唯:「さっき送られてきた素材でやってみたですけど中々、難しいです」


柊:「そうなのか」


蒼唯:「効果を強化しすぎると、付与したアイテム自体がその効果に耐えられなくなっちゃうです。他にも色々と問題はあるですけど。造るのは取り敢えず今は無理です」


柊:「そうか...」


 ユニーク品である『逆様の槌』であっても三回で消滅する程なのだ。並みの装備品では難しい。


蒼唯:「でも『逆様の槌』が役に立ったなら良かったです。あれは本来、世に出す予定じゃなかったですし」


柊:「本当に役に立ったぜ。それで今回の使用料なんだが...」


 ここで柊が言い淀む。『逆様の槌』のお陰で得た利益が大きすぎるのだ。素直に渡して受け取ってくれる蒼唯ではない。それこそ前に蒼唯が『反転槌』を購入した代金+αを請求されて終わるだろう。と思っていたところ、さらに予想外の提案を蒼唯はしてきた。


蒼唯:「あれは別に非売品ですし、特に料金は要らないです」


柊:「いやいや、それは流石にこっちが困るぜ」


蒼唯:「こっちもあれで金は取れんです...ならまた『反転槌』みたいな面白い商品が手に入ったら優先的に売って欲しいです」


柊:「いや、それは勿論だぜ。でも」


蒼唯:「じゃあそれでよろしくです!」


柊:「ちょっと待ってくれ――」



 やり取りが長引きそうだと思った蒼唯は一方的にやり取りを終了する。

 

「ぬいぬい!」

「ぬい、お疲れです。今は柊さんとメッセージやってたです」

「ぬい?」


 ぬいが構って欲しそうに蒼唯にすり寄る。


「ちょっと待っててくれです。今、アイテムの整理をしてた途中です」


 柊からのメッセージにより中断していた整理を再開する。製作したアイテムを箱詰めしていく。詰め終わった箱にラベルを貼って終了である。。箱にラベルを貼った蒼唯は、ぬいに向き直る。


「よし、終了です。何するです?」

「...ぬい?」

「あ、これです。これは分かりやすいようにラベルを貼ってるです。ここには...『概念系アイテム』って書いてあるです。読めるです」

「ぬーい」

「まあ難しいですね。これは造ったですけど売れないのを集めてるです。この前柊さんがぴったりな名前を言ったですから採用したです」

「ぬい?」

「これらは性能は面白いですけど、無理に性能を高めたせいで1、2回使うと壊れちゃうです。私的に使うと壊れちゃうモノは売りたくないですから非売品です」


 蒼唯的には折角売った商品は長く使って欲しい。それに正常に使用してるのに数度で壊れるなど不良品も良いところだ。

 こういった時、蒼唯の意見と探索者の意見は正反対となる。探索者目線では使い捨てに見合うアイテムならば気にしないだろう。蒼唯はそれが気に入らない。簡単に言えば趣味じゃないのだ。


「『逆様』。さっきかなり良いハンマーに効果付与してみたですけど...はぁー」

「ぬい?」

「これ解析してみたらです...1回使ったら壊れるっぽいです。ダメダメです私」

「...ぬい」

「もっと『錬金術』が上手ければ壊れないですかね?」


 趣味に生きる蒼唯は趣味じゃない使い捨ての『概念系アイテム』は売らないと決意する。

 しかし蒼唯は気付いていない。彼女の『錬金術』が下手なためアイテムが壊れるのではなく、『錬金術』が上手すぎるため、ユニーク品レベルでも数度で壊れてしまう程に凶悪な効果を造り出せてしまうという事実に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る