第32話 協会と政府

 死毒都市が聖なる都市へと変貌した影響は凄まじい。未だに調査段階であるが問題がなければ多くの者がそこに移住したがるだろう。

 それだけではなく世界中から問い合わせが殺到している。『聖気』が充満している都市など世界中で類を見ない事態である。莫大な富をもたらす可能性に満ちた都市である。しかし問題もあった。


 その問題について政府の役人と協会の職員が会議をしていた。


「ですから、死毒に犯された段階で多くの土地の所有権は『豪商』来馬柊と彼が率いるギルドの集合体『商会連合』及び天使司率いる『聖域』に移っています」

「それでもダンジョン周りの土地があるだろう?」

「そこだけですからね。しかも彼処は我々協会の持ち物です。死んだ土地を早々に売り払ったのはあなた方政府でしょう?」

「では...来馬から土地を没収するのは? 元の所有者へ返還するとの名目で」

「既に来馬氏自らその方向で動いています。返還というよりも貸し出しですが」

「貸し出し? それならば――」

「元々そこに住んでいた住人たちへは『聖都』と化した土地を格安で貸し出す。買い戻すとなれば膨大な値段となりますし、元の住人たちは、死んだ土地を買い取ってもらう際に来馬氏にはかなり恩義を抱いています。結界を張った天使司は言わずもがな。...住人たちを説得するのは難しいでしょう」


 死んだ都市であった死毒都市。再建できる可能性があるのは探索者だけであった。しかし誰もそこを再建できるとは思わず、それを再建することで得られるリターンにリスクが見合わないと諦めた。

 そこに名乗りを上げたのが来馬柊と天使司であり、土地の扱いに困っていた国も地方公共団体も、おおよその土地の所有権を譲渡してしまった。莫大な寄付金の代わりに。

 まさかそんな死んだ都市が聖に満ち溢れた都市へと生まれ変わる等、誰も思わなかったのだ。それも一瞬で。


「死毒が消えるのと、都市が再建されるのにもう少しタイムラグがあれば、色々とやりようはありましたが、死毒都市が『聖都』へ一瞬で変貌した。これでは対策も取れません。勿論、色々と理由を付けて貴殿方政府が土地を没収することは可能です。探索者と言えど個人が国には逆らえませんから」

「では――」

「それを行った後、またダンジョンブレイクが起こり、死地が発生した場合彼らは再建に協力してくれますか? それどころか都市再建という大仕事を達成した報酬の多くを勝手に没収した場合、他の探索者はどう思うでしょう」

「それは...」


 ダンジョンブレイクが発生した際、身を削る探索者の報酬が没収される。それが世間に知られれば誰も命を懸けてダンジョンブレイクを防ごうとは思わないだろう。

 

「来馬氏は此方の都合も汲んでくれる方です。此方がお願いすれば外交に使うことも許して下さるでしょう。ですが、この前のようにさも自分たちの手柄のように探索者の活躍を外交に利用されるのは協会側としても看過できません」

「あれは...情報の行き違いがあっただけで...」

「今回の件は、我々協会もあなた方政府も関与していません。来馬氏と天使氏、そしてアイテムの製作者の手柄です。それを踏まえた対応をお願い致します」


 とある大手ギルドがさも政府直属のギルドのように語られた事があった。今回も政府の指示を受けた探索者が等と言われては困るのだ。


「それです。アイテムの製作者というのは誰か判明したのですか?」

「それについては鋭意調査中となります」

「困りますね。探索者の管理は協会の重要な責務でしょうに。そんな有能な人材すら把握できていないとは...」

「仰る通りです」

「兎に角、いち早く製作者を見つけてくださいね!」


 何一つとして有益な事が決まらない会議は終了するのだった。


―――――――――――――――


 会議を終えた協会職員たちの話題は当然のように『聖都』関連である。


「やっぱり『聖女』さまですよね...記者会見で初めて見ましたけど最高でしたよ」

「今や世界の『聖女』ですもんね」

「それを言うなら来馬さんの先見の明は凄いですよね。しかも自分の利益ばかり追求する人じゃないし!」


 協会職員の中には、元探索者や探索者に憧れている者が一定数いるため、協会職員というよりファン的な会話が多くなる。


「でもそれ以上に気になるのはやっぱりあのアイテムの製作者ですよね...アイテムの詳細はよく知りませんけど『聖女』さまが、アイテムのお陰だって言ったんですよ?」

「...あの規模の現象を引き起こせるアイテムを製作って意味分からないですけどね。『即死遮断』とかの製作者と同一人物説が濃厚らしいですし」

「もし実在するならTHE職人って感じの人ですよ絶対!」

「逆に『黄昏』の英雄さま的なイケメンかもね...齋藤部長はどう思いますか?」

「うーん、もしかしたら可愛らしい女の子かもね」

「えー、それは無いでしょ!」

「そうそう」

「そうかなー?」


 そんな製作者の予想を話ながら帰るのだった。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る