第26話 黄昏

 これまで日本で絶対的な地位を保持していた『黄昏』が窮地に立たされている。似合わない搦め手を使い『流星』に注目が集まらないようしているのがその証拠である。

 それは『終末帝』レイドの失敗が原因である。あのレイドで失ったモノは多い。世間は中核メンバーや精鋭が何人か死亡した事による戦力低下を要因にあげているが、『黄昏』で今、一番問題視されているのはギルドマスター桜島英雄さくらじまひでおの不調である。


 『黄昏』は個々に強い者たちが集結してできたギルドであり、それらを束ねている存在がギルドマスターである。そのギルドマスターが揺らぐということは、『黄昏』が揺らぐことを意味するのだ。

 この事を外部に知らせる訳には行かない『黄昏』は徹底的に情報を遮断している。大型レイドを行うとなればギルドマスターを連れていかない訳にもいかない。しかし今の状態の英雄を連れていくことはできない。

 そのため影響力を取り戻すため大掛かりな事をやりたいのに、『黄昏』側は下手に動けない。

 

 このジレンマが『黄昏』の中核メンバーを苛立たせ、情報が降りてこない下のメンバーたちを不安にさせる。

 そういったヤバい雰囲気は外部に伝わってしまうものである。

 

柊:「流石におかしいぜこれは」


星蘭:「あの『黄昏』が搦め手ばかりで本業のダンジョン攻略を疎かにしてるもんね... あなたの情報網で何か分からないの?」


柊:「中核メンバーが徹底的に情報を隠してることはわかった。特攻隊長の健次が死んだときもここまで徹底してなかったのにだぜ? 下手したら英雄に何かあったか?」


星蘭:「あの人に? それは無いでしょ」


柊:「...確かに考えられないな。『終末帝』のレイドでも他のメンバーが苦戦するなか孤軍奮闘してたからな。特にダメージも負ってなかったしな」


星蘭:「まあ健次さんの死もショックでしょうけど、そういう時真っ先に立ち上がるのが英雄さんだしね」


 『黄昏』の絶対的リーダーとしての信頼により、英雄が不調に陥っているなど外部の者は疑わない。そのため決定的な事にはなっていないが、それでも世間の『黄昏』の不信感は徐々に拡大していくのだった。

 

―――――――――――――――


『黄昏』のギルドハウスでは中核メンバー数人が集まり会議をしていた。


「それで? ギルマスは結局どこにいるん? 愛莉か竜也たつやなら知ってるだろ? 副マスなんだし」

かい、ご期待に沿えないようで申し訳ないが、英雄が今、何処にいるのか私にも分からん。唯一言えるのは、いつ戻ってくるか分からないという事実だけだ」

「......それだと困る。......あの人がいないと『黄昏』は」

「その通りだ大地だいち。しかし英雄は必ず戻ってくる。だからこの窮地を何とか乗り切る他ない」


 副ギルドマスターの1人である竜也が周りを鼓舞する。英雄と共に『黄昏』を立ち上げた彼は、英雄がいないとき唯一中核メンバーを纏められる存在といってよい。

 もう1人の副ギルドマスターはと言うと他のメンバーと喧嘩をする始末。


「まったく。愛莉は副マスなのに全然ダメ。英雄様に呆れられてると思う。交代すべき」

「喧しいわ。英雄さまが選んだのは私。六花りっかは選ばれなかったのですよ? それを弁えて発言しなさい」

「なら偉そうにしてないで。英雄様を連れてきて欲しい」

「英雄さまは言いましたわ。今は1人にして欲しいと、なら1人にさせてあげるのが私たちの役目でしょ!」

「言い訳。乙」

「な、なんですって!」

「...愛莉、六花。建設的じゃない話し合いは止めてくれないか?」

「分かりましたわ」

「はーい」


 竜也はため息を吐く。英雄のカリスマに支えらてきたギルドであることは承知していた。竜也自身も英雄に依存している部分はある。それでもここまで脆いとは思ってなかったのだ。

 『終末帝』レイドについてもギルドの被害を考えなければ討伐はできていたのだ。それこそ英雄1人の活躍によって。竜也はそういった部分に今回の原因があると考えていた。


「確かに『黄昏』は英雄のギルドだ。あいつがいなければ始まらない。でも何でもかんでも英雄任せじゃ駄目なことが今回で分かった筈だ。あいつが戻ってきた時に、これ以上失望させないように私たちだけでもできる限りの事をしていこう。それが英雄の考えかもしれない」

「それはギルマスが不調って嘘付いて、俺たちの成長を促そうとしてるってことか?」

「英雄様ならあり得る」

「......がんばる」

「そ、そうですわね。英雄さまならそう言ったことも考えますわよね!」


 中核メンバーたちが奮起した瞬間であった。

 



 

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