ぬいぐるみ編

第19話 ぬいぐるみ

 柊から素材が届けられたので、早速製作に取り掛かる。蒼唯の考える可愛らしさ、それもデザインに依存しない可愛らしさとは何かを考えながら糸や生地などそれぞれの素材に『魔力加工』を施していく。

 蒼唯の主力商品は、布や糸を使った小物類であり普通に造った場合に耐久に難があるモノが多い。『錬金術』でのハンドメイドを初めてすぐの頃、ダンジョンで使うには脆すぎる、と言われて以降耐久面を意識していった結果、たどり着いたのが『魔力加工』である。


「この糸と適合するのはこのくらいの...できたです」


 素材、一つ一つに合った適切な質と量の魔力を混ぜ込むことで、爆発的に耐久性能を上昇させる方法である。


「今回のテーマは、ペットのような『ぬいぐるみ』ですから、それに沿った効果を付与しないとです」


 一緒にダンジョンに行くことを想定した場合必要になるのは、その場に応じて動くことである。


「動力源が持ち主の魔力になるよう設計するですし、『共鳴する魂レゾナンスソウル』を使えば良いです。それに応じて身体が動くように肉付けしてくです」


 『共鳴する魂レゾナンスソウル』は、持ち主の思考を注がれた魔力を通じて感じとり、それに呼応した思考をする疑似脳的なアイテムである。リビングアーマーやゴーレムといったモンスターから入手できる『義魂』を改良したモノであった。


「ペットならずっと一緒にいたいですし、自己修復性能は上げとかないといけないです...いや逆に成長し続けるように設計すれば良いです?」


 探索者が強くなっていったとしてもそれに応じて『ぬいぐるみ』が強くならなければ、一緒に探索し続けることは出来ない。そのため蒼唯が考えたのは食事機能である。


「『時空鞄』の要領で口から色々と入れられるようにして、入れたモノを自身の身体と『合成』てきるようにするです。なら不要なものを処分する機能も欲しいです?」


 高品質な素材をふんだんに使っただけあり、思い付く機能を惜しげもなく付与することができる。楽しい製作である。


「もしこれが好評なら次は『着ぐるみ』に挑戦してみようかです」


 既に『ぬいぐるみ』の概念から外れ気味な気もするが、蒼唯のやる気は上昇中のため良いのだろう


―――――――――――――――


 中学校に入り、探索者登録を済ませたばかりの、桜花沙羅は何気なく『ダンジョンショップ』を見ていると、とても可愛らしい『ぬいぐるみ』が売られているのに気がつく。


「か、可愛い! ...え、一緒に探索できますだって凄い!」


 女子中学生で探索者登録をしている者も少なく、一緒に探索できる友人に心当たりが無かった沙羅には刺さる売り文句であった。


「値段は...結構するけど、買っちゃお!」


 貯めていたお小遣いやお年玉がほぼ無くなる値段だが、それだけ惹き付けられる魅力がこの『ぬいぐるみ』にはあった。

 早速メッセージを送ってみる。


沙羅:「今、売られているクマさんの『ぬいぐるみ』を購入したいんですが」


蒼唯:「ご購入です? さっきサイトにアップしたばっかりでしたけど、早速見つけてくださったです?」


沙羅:「はい! 見た目の可愛らしさと一緒に探索できるって書いてあって買いたいって思いました!」


蒼唯:「ありがとうございますです。注意事項を何点か説明させていただきますが大丈夫ですか?」


沙羅:「はい! お願いします」


蒼唯:「この『ぬいぐるみ』は最初に魔力を注いだ人物を主人と認識するです。間違えて他の人が魔力を注いでしまった場合のリセットは私が行いますのでメッセージで連絡ください」


沙羅:「はい!」


蒼唯:「修理やメンテナンスを行う際も、メッセージください。他に持っていっても良いですが、オーダーメイドで色々と独自の機構を使ってるので他では修理などは難しいかもしれません」


沙羅:「はい!」


蒼唯:「今回はサイトに商品をアップしましたが、基本的にお客様の注文を受けて造る受注生産が基本なので、何か注文がございましたらメッセージで連絡してください」


沙羅:「あ、ありがとうございます!」


 購入手続きを終え、即日『転送便』で送られてきた『ぬいぐるみ』は、沙羅の想像以上の品であった。魔力を注ぐと自ら動きだしたのだが、その1動作1動作がなんとも愛らしい。何より驚いたことは、沙羅の考えを察知しているとしか考えられない動きを連発してくるのだ。


「こ、こんな高性能だったなんて...これであの値段は安すぎるよね?」


 後に聞いた話であるが、この『ぬいぐるみ』は試作品であったためかなり値段を下げたのだと言う。兎に角、これを買えた沙羅の運は凄く良いと言うことであるのだった。

 



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