第18話 噂

 『流星』が『終末帝』を倒せたのは『即死遮断』という効果を付与されたアイテムがあったからだ。これは『流星』のメンバーを含めて全員の共通認識である。今回のレイドで一番注目されているのはそれを造った錬金術師である。

 だが、『即死遮断』を開発した錬金術師は『流星』の所属ではない、という噂がレイド終了後からよく聞かれるようになった。それは『流星』に注目が集まらないように、誰かが流した噂である。しかしその噂が『流星』側から否定されることは無かったため、この噂は真実であると皆に認知されてしまうのだった。


柊:「噂を流してるのは『黄昏』の下部ギルドだな。かなり巧妙にやってるみたいだぜ」


星蘭:「...やっぱり。かといって噂を否定するのは悪手でしょ?」


柊:「そうだな。俺っち含め何人かはアオっちの正体を知ってるからな。そんな状況で嘘をついた事が周り回ってアオっちの耳に入ったらヤバいぜ」


星蘭:「だよね。なら黙っとくしかないか」


柊:「『流星』がレイドをクリアした事実は変わらない。星蘭たちが優勢だってことは自覚しとけよ。奴らは自分たちがアオっちを獲得する確率を減らしてまで噂を流してるんだからな」


星蘭:「分かってるわよ」


 王道を行く『黄昏』が搦め手を使ってきたと言うことは、それだけ『黄昏』が追い詰められていることを示している。実際の戦力差はそれなりに開きがある。その差を一人の生産職が埋められるというのも馬鹿げた話だが。

 『黄昏』が蒼唯を獲得しようとするならば、取るべき戦略は正攻法しかない。それこそ通常に行っているスカウトなどだ。本来、世間が蒼唯は『流星』所属だと勘違いしていた方がなにかと都合が良い。勧誘しようとするライバルは減るし、蒼唯が『黄昏』所属となれば『流星』は世間を騙していたと批判を受けるだろう。


 そういった利点を捨ててまで、今の『流星』の勢いを削ぎに来た。『黄昏』側が劣勢に追い込まれていると感じている証拠であった。


―――――――――――――――


 蒼唯は考えていた。自身のハンドメイドが今より進歩するための方法を。母親は言っていた。蒼唯渾身のワッペンよりも既製品を使ったアイテムの方が注目されていると。


「やはりここはより可愛らしいデザインの追及をするです? それとももっと素材に拘るべきです?」


 そのため色々と改善案を考えるのだが、一番の問題点に気がつく。


「そもそも、デザインとかを細かく注文してくる人がいないです。唯一デザインに注文をしてくれる雁木さんも、シンプルとかノーマルなとかであんまりです」


 蒼唯の客はデザインに拘らない人が多く、蒼唯はデザインの流行等に疎いのだ。


「...となると一朝一夕で何とかなるとも思えんですね。となると素材ですか...」


 確かにこれまで蒼唯は、素材が悪くとも技術力でカバーしていた部分がある。性能面で文句を言われたことはないが、確かに高品質な素材が使われていた方が、客も買いたがるのではないか。

 この前の『遮断』アイテムフィーバーで懐が暖かい今なら、値段を気にせず素材に拘れるのではと蒼唯は考えるのであった。


「ならやっぱり、柊さんに相談してみるかです」


蒼唯:「柊さんの商会で高品質な布とか糸とかないです?」


柊:「...あるぜ? 何か造るのかアオっち」


蒼唯:「まだ決まってないですけど」


柊:「わかった。なら決まったら教えてくれよ。それにあった最高品質の素材を用意するぜ」


蒼唯:「助かるです」


 メッセージを終えた蒼唯は、その日中何を造るか考えた。その結果『ぬいぐるみ』を造ることにするのだった。



 

 

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