第17話 母親
蒼唯が『即死遮断』を星蘭に納品してから幾日か経過した頃、お得意様からほぼ一斉にメッセージがとんでくる。その内容はみんな殆ど同じで要約すると『即死遮断』のアイテムを買いたいということらしい。
「柊さんが何か公表するとか何とか言ってたのはこれです? 何か宣伝でもしてくれたですか?」
星蘭に納品する際は、時間がなく既製品に『即死遮断』を付与する形で、蒼唯的には不本意であった。そのためそういった注文が来ても良いように手造りのワッペンを日々作成していた蒼唯。一人一人の好みを聞き、動物形ワッペンに『即死遮断』を付与するのだった。
雁木:「シンプルなモノを...」
蒼唯:「分かってるです。シンプルなクマですね。任せてくださいです」
雁木:「...それで頼む」
その際、何人かに『即死魔法』以外にも遮断できるのか聞かれたので、遮断したいものをしっかりと解析できれば可能で有ることを伝えたら、各々解析に必要なアイテムをプレゼントされ、『遮断』アイテムの製造を依頼された。そのため現在はそれらの製作に奮闘していた。
学校が終わり家に帰ってきた蒼唯は、珍しく家の中に人の気配を感じた。中に入るとスーツ姿のいかにもキャリアウーマンな女性がリビングで寛いでいた。その女性は、仕事のため離れて暮らしている母親の
「珍しいですね母さん。どうしたです?」
「3ヶ月ぶりかしら? どう? 元気にやってる?」
「特に不調ではないですね。母さんはどうてす?」
「最近は仕事に追われて久しぶりに休暇を取れたわ。その代わり勇作さんはデスマーチ中」
「...それは仕方ないです」
暗に父親に仕事を押し付けてきたと言う母親に呆れつつも、家庭内のパワーバランスは変わっていないことに安堵する。
「それで何で帰ってきたです?」
「何よ。自分の家に帰ってきたらいけないの? 仕事でいつもひとりぼっちにさせてる娘の顔を見に来ちゃだめ?」
「別に構わないですけど、母さんがそんな理由で時間掛けて帰ってくるとは思えんですね。まだ父さんも一緒なら考えられたですけど」
「まあそうね」
青葉の表情が変わる。
「蒼唯、『即死遮断』って分かるわよね?」
「母さんもその話です? もしかして柊さんから聞いたです?」
「はぁー、そうよ。世間に公表する前にって、協会本部に『即死遮断』の概要を説明しに来たの」
「そうなんですか」
「あなた、今『即死遮断』がどういう扱いに成ってるか分かってる?」
「扱い? はぁ! もしかして協会本部でも話題に成ってるです私のワッペン」
「ワッペン?」
「何人かに『即死遮断』付与した動物形のワッペンを売ったですけど、もうそこまで話題に成ってるですか」
蒼唯の反応から『即死遮断』が世間にどれほどの影響を与えているか理解してないことを理解する青葉。
「...違うわ。話題に上がってるのは『流星』が使ってた方よ」
「えぇ...あっちです? あっちは不本意な方です」
「得てして、人生とはそういうものよ...まあ良いわ。大体の事情は理解できたわ」
「結局、母さんは何しに帰ってきたです?」
「あなたの近況を聞きに来たのよ、本当に」
「あれ? 本当っぽいです」
「だからそう言ってるでしょ?」
まさか青葉がそんなに娘想いだったとはと驚く蒼唯だった。
その日は遅くまで最近の近況報告という名の蒼唯の趣味活自慢大会が行われるのだった。
―――――――――――――――
趣味活自慢大会が終わり、蒼唯が眠った後、青葉はスマホのメッセージアプリを開く。
青葉:「やっぱり蒼唯だったわ」
勇作:「そっかー」
青葉:「それに他にも色々やってるみたいね。相変わらずダンジョン業界に微塵も興味は無さそうだったけれど」
勇作:「そっかー。それは直接聞くとして...どうする?」
青葉:「上に言って、開発部門にあの子が所属して伸び伸びやれるとは想像出来ないわね」
勇作:「報告したら出世間違いなしだろうけどね」
青葉:「そんな下らないことと娘を比べるまでもないわ...とでも私に言わせたいの?」
勇作:「たまには家族にデレる君もみたいけどね」
青葉:「....今日はこっちに泊まるから」
勇作:「仕事は僕らで何とでもなるし、何日かそっちに居てもいいよ?」
青葉:「明日には戻るから」
勇作:「りょーかい」
青葉はアプリを閉じ、明日は早起きして朝食を作ろうと考えながら就寝するのだった。
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