第14話 耐性

 星蘭と柊から共同でとある商品の注文が飛び込んできた。しかし注文された商品の詳細が蒼唯の理解が及んでいるモノではなかったため、難色を示していたのだが、星蘭と柊が最大限製作に協力すると言うので渋々承諾した。


「『即死耐性』ですか...よく分からんです」


 『即死』という概念も『耐性』という概念もよく理解できていない蒼唯は、柊に頼んで色々なモノを届けて貰うことになった。そのモノが全て揃ったのでまずは解析から始める事となった。


「やっぱり『耐性』は、特定のモノだけ通さないフィルターのようなイメージですね。...そのイメージだと『打撃耐性』だとか『刺突耐性』とかの説明がつかんですけど」


 蒼唯の推測では『耐性』とひと括りに言っても、そのメカニズムは幾つかの系統があるようだ。ただ何れのメカニズムでも装備者自身がそのモノの耐性を得てそのモノに対して強く成るわけではない。その効果を弱めるように作用するという方が正しいだろう。

 柊から取り寄せた『即死耐性』が付与されたアイテムを解析しても、基本的なメカニズムは変わらなかった。そこで1つ疑問に思うのは、完全に通さないようにはなぜ出来ないのかという点であった。既存の品を幾つも解析したが、どれも意図したかの如くフィルターに隙間があるように感じた。


「...やっぱりよく分からんです」


 『耐性』に焦点を当てて解析することが無かったため、気づいていなかったがこれまで蒼唯が造っていた『耐性』が付与された商品にも隙間があったのかもしれない。


「取り敢えず、この隙間を塞いでみるです」


 不良なのか仕様なのか、空いていなければいけないのか、空いてない方が良いのか。それを調べるためフィルターにある隙間を塞いでみることにする。イメージするのは『耐性』の強化である。


 隙間が塞がれていく。隙間が完全に塞がれば効果も『耐性』から変化するのだろうか。そんな事を考えていた蒼唯だったが隙間が完全に塞がれる直前に危険を察知し強化を中断する。


「...なる程です。これは安易に塞げないです」


 蒼唯はおおよそ『耐性』の隙間の理由を把握する。『耐性』の隙間を塞ぐ行為というのは、例えばマスクのウイルスをカットするために、呼吸するために必要な最低限の通気性すら奪う行為に似ている。

 いくら対象を防いでもそれに類する必要なモノまで防いでしまっては意味がない。つまり『耐性』の隙間は必要な機構と言える。


「...何かを犠牲にするか、何かで補う必要があるです。というか『即死』を防ぐことによる弊害ってなんです?」


 息苦しさを我慢するか、呼吸を代替する何かがあれば完璧な密閉マスクを使うことはできるだろう。それを『即死耐性』に当てはめて考えたとき、『即死』をフィルタリングする上で必要なため隙間を空けざるを得ない部分とは何であろうか。


「隙間を塞いで色々と調べるしか無さそうです」


 こうして蒼唯の『即死耐性』の解析は数日間にも渡って行われるのだった。


―――――――――――――――


蒼唯:「...ということでです、『即死』と『回復』は似たような機構が存在するみたいなんです」


星蘭:「へ、へぇ~」


蒼唯:「興味無いならいいですけど、何が言いたいかと言えば、『即死耐性』の効果を高めようとすると、『回復魔法』などの作用が減衰しちゃうです」


星蘭:「それは...ちょっと厳しいね」


蒼唯:「やっぱりそうですか。そこら辺は私には分からん領域なので聞いてみたです」


星蘭:「そっか。やっぱりアオでも難しいのか」


蒼唯:「そうですね。解析してみて『耐性』の不合理さを実感したです」


星蘭:「そっか...ならしょうがないね」


 蒼唯が長時間解析した結果、『耐性』を完璧にするにはリスクを取るしか無いという結論に至ったのであれば、しょうがない。星蘭はそう考えるしかなかった。


蒼唯:「本当にしょうがなかったです。なので完璧な『即死耐性』は諦めて『即死遮断』を付与したアイテムを造ったです」


星蘭:「そっか...はい?」


蒼唯:「その結果、ちょっと値段が高くなっちゃったです。すみませんです」


星蘭:「それは全然いいんだけど、『即死遮断』って?」


蒼唯:「効果の名前です。名前の通り『即死魔法』だけを完全に遮断するです」


星蘭:「それは出来ないって話じゃなかった?」


 先程の会話の流れ的にそれをするには相応のリスクが伴うという話であった筈だ。


蒼唯:「『耐性』を強化してくと出来なかったので、別のメカニズムを開発したです」


星蘭:「その『即死遮断』にデメリットとかは?」


蒼唯:「『耐性』は対象と類似するモノなら減衰させてたですけど、『遮断』は対象以外には効果が無いです」


星蘭:「そ、そっか~」


 星蘭は理解しようとするのを放棄した。星蘭は蒼唯を適正に評価していると思っていた。しかしまさか『耐性』のメカニズムをおおよそ解明し、『即死耐性』を強化した場合のデメリットを見つけ、そういったデメリットが全く無い、新しい機構を開発する。こんな芸当をたった数日でやれるほどの化物だとまでは考えていなかったのだ。


蒼唯:「取り敢えずサンプルを送るです。OKなら連絡してくださいです。注文分用意するです」


星蘭:「りょーかい」




 

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