第15話 公表と発表

 星蘭からのチェックを通過した蒼唯は『即死遮断』を付与したアイテムを発注分生産し、無事送り届け終わった。


「それにしても、前にポーションを50個注文してて、今回も大量に注文して、星蘭さんってお金持ちです」


 そういえば星蘭が今回の『即死遮断』を何に使うのか聞き忘れた蒼唯。聞き忘れというより興味もないのだが。


「そこに所属してる輝夜も将来安定ですね」


 そう言いつつも、星蘭からの勧誘はやんわり断っている蒼唯。今のところどこかに所属してまで『錬金術』で製作したいとは思っていない。自由気ままに出来るのが良いということもある。

 そんな事を考えていると、柊からメッセージが届く。大仕事が終わったばかりだけに、直ぐに別の仕事の話かと身構える。


柊:「『即死遮断』の件、礼を言うぜ」


蒼唯:「別に気にしないでくれです。『耐性』の不合理さを感じられて勉強になったです」


柊:「星蘭から聞いたが『耐性』にそんな穴が有ったとは知らなかったぜ。そこから『遮断』を造っちまうアオっちは流石だが」


蒼唯:「どうもです。それで今日は何の御用です? また仕事の話ですか?」


 しかし柊から出てきたのは全く別の話であった。


柊:「そうじゃなくてだな、今後、『耐性』の仕組みや『遮断』について公表する気は有るかと思ってな」


蒼唯:「公表も何も柊さんにも、それこそ星蘭さんにも話してるですよ?」


柊:「流石に俺らもアオっちから聞いた話を我が物顔で他人に話したりしないぞ」


蒼唯:「そうです? ...まあ『耐性』の話なんてしても面白くもないですからね」


柊:「そういう話じゃ無いけどな...」


 蒼唯は理解していないが、今回の『終末帝』レイドが成功すれば、その立役者は間違いなく蒼唯となる。そこで『耐性』や『遮断』について蒼唯の名前で公表すれば、大注目間違いなしだろう。

 それを蒼唯が望むかどうかが問題なのだが、蒼唯は自分の名前が不特定多数の人に知られる事を好む性格をしていない。


蒼唯:「もう柊さんたちに話した事について私がどうこう言うことじゃないです。話題に出すなり出さないなり好きにしてくれです」


柊:「分かったぜ」


 蒼唯の許可を取った柊は、蒼唯の名前は伏せつつ『耐性』の仕組みについて公表する事とした。それらが世間に出回った結果、『耐性』を強化して『完全耐性』や『無効化』を造り出そうとしていた研究グループは、絶望することとなる。

 『即死』の対策をより強化して臨むことを考えていた『黄昏』サイドにもその絶望は伝染していった。これによって世間は日本のダンジョン業界の停滞を予感していた。



 しかしその数日後、予想だにしなかった出来事が起こる。『流星』が『終末帝』レイドの生配信の告知を発表したのだ。

 その告知を受けた世間の反応は冷たい。『黄昏』が失敗し、その対策として有力候補であった『耐性』の強化も頭打ちであるとの発表があり、誰が見ても『流星』に成功の可能性が有るようには思えないのだ。

 まだギルド間で連合を組む等であれば希望もあったが、『流星』の発表では来馬柊が運営する商業ギルドの幾つかの支援を受けるのみであった。これては『黄昏』の二の舞、それどころか更に悲惨な事が起きるだろう。


 ダンジョン協会や他のギルド、視聴者たちからもレイドの中止を呼び掛けられたが、『流星』はその発表を撤回することは無いのであった。

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