第7話 女の戦い
『流星』の本拠地に珍しい客が来ていた。日本の探索者ギルドの中でも長年トップギルドとして君臨している『黄昏』の2人の副ギルドマスターが1人、
「それで天下の『黄昏』の副ギルドマスター様が何のようですか?」
「まず『地獄龍』レイドおめでとうと言っておきますわ。『黄昏』からすれば大したレイドではないとはいえ、同じ日本のギルドとして祝福して差し上げますわ」
「ふふふ」
「何かおかしかったかしら?」
「いえ、それが副ギルドマスターとしてのギルドの戦力把握だとすれば、『流星』がトップを取る日も近そうですね」
「な、何ですって!」
実際『流星』と『黄昏』に絶対的な差はない。とある要因もあり過去にあった差は埋まってきている。それが分かっているからこそ愛莉は嫌味を言うし、星蘭はその嫌味を気にしないのだ。
「本題に入りましょ? 暇じゃないですよねお互い」
「こほん、まあいいでしょう。本題に入らせていただきますわ。日本のダンジョン業界が更なる発展をするためにも『流星』が抱えている錬金術師を公表なさい」
「はぁ? あぁーそういうこと。何だと思ったら...」
「『流星』の躍進に『蒼の錬金術師』という存在が関与しているのは分かっているわ。その能力が『黄昏』に合わされば更なる躍進に繋がる。そうなれば日本が世界1のダンジョン大国となるのよ?」
「...もしその『蒼の錬金術師』を抱えていたとして、それを『黄昏』に渡す? 冗談じゃない。私たちにメリットの1つもない話ね!」
「世界1のダンジョン大国という名誉、それがメリットよ? ...まあいいわ。考えておくことね」
言いたいことだけ言い残し愛莉は帰っていった。
残された星蘭にちょうど近くにいたギルド職員が話し掛ける。
「星蘭さま?」
「はぁー、やられた。愛莉め...」
筒井から見れば特に何かをやられた様子は無かったが、星蘭目線ではそうではないようだった。
「いつも通りの会話だったと思いますが?」
「...あいつ、わざと私を怒らすような言い回しして来てたよ。興奮させてあわよくば、言質を取ろうとしてた」
「言質ですか?」
「『流星』が『蒼の錬金術師』を抱えてないってこと」
「言質を取られると不味いんですか?」
「『黄昏』が『蒼の錬金術師』を勧誘しても文句は言えないでしょ。『流星』所属じゃないんだから。多分、『蒼の錬金術師』を抱えてないって目星つけて一番私が感情的になりやすいあのバカ愛莉を送ってきたんだ。...これで向こうに『蒼の錬金術師』がフリーだって確信されたかも」
「いつも通りのやり取りのように感じましたが」
「あんなんでも『黄昏』の副ギルドマスターだからね...はぁー油断した。あの様子だと『蒼の錬金術師』の正体まではたどり着いてないかな?」
やり取りを頻繁にしている『流星』のメンバーも殆どが『蒼の錬金術師』の正体を知らない。星蘭も知らないメンバーと話す際は蒼唯のことを『蒼の錬金術師』と言うように気を付けている。それほど徹底していてもやはりバレてしまうものなのだろう。
「唯一救いなのは、あの子は『黄昏』の王道スタイルはそんなに好きじゃ無いことだけだな。オーソドックスな強化でも十分凄いから『黄昏』側は問題ないだろうけど」
独創的な蒼唯とオーソドックスな物を好む『黄昏』では決定的に異なる。客として『黄昏』を扱うことはあっても『黄昏』に所属することは無いだろうと思うくらいには相性は悪いだろう。
とはいえ『黄昏』のマンパワーを使えば蒼唯まで辿り着くことはそう難しくないように思えるのだった。
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