第3話 商人と逆鱗
『ダンジョンショップ』でハンドメイド職人的なことをしている蒼唯だが、そういった存在はあまり多くない。どちらかといえばダンジョンのドロップ品やダンジョン素材などを売買する場ということが多い。
更に言えばドロップ品もダンジョン素材も、ダンジョンを管理しているダンジョン協会に売る、もしくはオークションに掛けるのが主流であり、態々ネット販売すると言うことは、訳アリ商品である可能性が高い。
「凄いです『ウィンディーネの清水』と『サラマンダーの尻尾』がこんな安いです。お買い得です!」
普通よりも値段が低いのは、品質が悪かったり損傷が激しかったりなどの理由が考えられる。そのため普通の人はそういった怪しげなモノに手は出さないのだが、逆に蒼唯はそういった怪しげな商品ばかりに手を出してしまう。
だからといって蒼唯が買い物下手かと言えばそんなことは無い。
「清水の濃度は薄いですけど、『抽出』すればかなり使えそうです。尻尾も損傷が酷くて素材としては難しいですけど、魔力残量が多いですから触媒としてはもってこいです」
『錬金術師』である蒼唯にとって、ダンジョン素材は無限の可能性を秘めていると言っても過言ではない。一般人が買っても損するような商品を力業で得に持っていく能力が蒼唯にあると言える。
「さてさて、他にはどんなのが...あ
他の掘り出し物を探そうとした蒼唯の元にメッセージが届く。蒼唯に色々な素材を融通してくれる柊という男性である。
柊:「アオっち! 面白い素材が手に入ったんだがいるかい? 今ならなんと抽出済みの『ウィンディーネの清水』と『サラマンダーの尻尾』を触媒にして造った『火鼠衣』でいいぜ!」
蒼唯:「なんで私の買い物履歴を柊さんが知ってるです?」
柊:「なんの事だい!」
蒼唯:「別にいいですけど、それより面白い素材ってなんです?」
柊:「『地獄龍の逆鱗』だ。つい先日『流星』の連中が討伐したばかりの新鮮な鱗だぜ!」
蒼唯:「確かに面白そうです。それで交換をお願いするですけど、私の方がお得な気がするです」
柊:「毎度アリ! まあ俺っちのとこにあっても誰かに売るくらいしか使い道無いもんだしな」
蒼唯:「不要な取引はしない柊さんにしては珍しいです。私は嬉しいから良いですけど」
柊:「まあこういうこともあるってね。それじゃあいつも通り送っとくからよろしく!」
柊とのメッセージを終了した蒼唯は、直ぐ様『ウィンディーネの清水』の『抽出』と『火鼠衣』の製作を始めた。
―――――――――――――――
世界でも有数の商業系ギルドの長、来馬柊。彼の活動を横でずっと見ていた副ギルドマスターの女性は、柊のとても珍しい行動に微笑みを浮かべていた。
「それにしても柊、貴方が尽力するくらい『蒼の錬金術師』さんは素晴らしいのかしら?」
「安奈、聞かなくても良いことは聞くな。他の誰よりも彼女が逆鱗を使いこなせる。あるべき場所にあるべき物を。うちの信念だろ?」
「そうね。それに貴方の事ですもの損はしてないんでしょ?」
「勿論! 『清水』と『火鼠衣』も彼女の造ったモノならそれだけで元が取れる。それに交渉次第なら『逆鱗』を使ったアイテムも売ってくれるだろ?」
「貴方が大金を使って『逆鱗』を競り落としたとき、ギルドの子たち凄い反応だったわよ」
『地獄龍』というモンスターの素材は扱いが難しい事で知られている。下手に扱えば呪いに掛かってしまう厄介な素材なのだ。その『地獄龍』の素材で最も扱いが難しいのが『逆鱗』なのだ。逆に言えばしっかりと扱えれば一番希少なのだが。
「まあアオっちの存在を知らないとそうなるのも分かるな。だがアオっちと『流星』の星蘭は繋がってるからな。静観してると地獄龍装備を『流星』で独占され、一つも手に入れられなくなる危険性もある」
「レイドを成功させたギルドの特権ね」
「そんなことになったら俺っちたちは赤っ恥だからな!」
「『蒼の錬金術師』さんのご厚意に期待するってことね。不確定なモノを信じるなんて本当に珍しいわね。ふふ」
他の者との交渉ではNOと言わせないために色々と画策する柊が、そういうことをしないでいる。それだけ『蒼の錬金術師』に気を遣っているのだろう。『豪商』と呼ばれる男が。
「...さて無駄話はそこまでだ。やることは腐るほどあるからな!」
「はーい、分かりました」
優しい目線に耐えかねた柊は強制的に話を切り上げるのだった。
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