第2話 時空鞄

 星蘭からの無茶振りを何とか完遂し、転送便で星蘭の元に送った蒼唯。眠い目を擦りつつ、1本余分に造っておいたポーションをがぶ飲みする。


「はー、疲れた身体にはポーションです。エナドリの数倍は効くです。これで美味しければ最高ですけど、そもそも材料の薬草が苦すぎるです。誰か美味しいポーションを開発しないもんですか」


 ポーションの効果を高めるため試行錯誤している者はいれど、ポーションの美味しいを求め試行錯誤してるような人物は中々いないだろう。


「さてと元気になったところでメッセージを確認するです...あ、雁木がんぎさんからメッセージが来てるです、なになに...」


雁木:「時空鞄が壊れてしまった。修理を頼みたい」


 メッセージを見ると前に蒼唯の力作『時空鞄 ver.クマ』の修理依頼であった。


蒼唯:「壊れちゃったんですか? もし損傷が激しそうなら別のと交換も可能です。今ならver. ライオンとver.シャチがありますけど」


 修理依頼は珍しくない。特に時空鞄は構造が複雑な分壊れやすい。手間暇を掛けて頑丈に造ってはいるが、ダンジョンに持っていくなどの用途で使用すると不意に壊れることが多いのである。

 そのため蒼唯としては珍しく時空鞄は予備を作り置きしていたりする。同じものを造り続けるのは好きではないため、バラエティーに富んではいるが。


雁木:「シンプルな鞄はないか?」


蒼唯:「シンプルです? ライオンに比べてシャチの方がシンプルなデザインですけど」


雁木:「...そうか。なら愛着があるから修理でお願いする」


蒼唯:「分かりましたです。少し時間掛かるかもですが、できるだけ迅速に修理しますね」


雁木:「よろしくお願いする」


 そんなやり取りをした後、転送便で送られてきた『時空鞄 ver.クマ』の修理に取り掛かるのだった。


「何か大型の動物に引っ掻かれたような壊れですね。何か所々焦げてるです?」


―――――――――――――――


 時空鞄を送り終えた雁木はため息を吐く。残念ながら可愛らしい時空鞄からの卒業はならないらしい。

 かといって蒼唯以外の者の時空鞄を使おうとは思わない。


「雁木さん! この前はすみませんでした。俺がへましたせいで、雁木さんの大切な時空鞄を壊してしまって」

「いや、いい。あれが盾になったお陰でお前に怪我が無かったなら良かった。それに制作者に頼んだら直ぐに直るそうだ。だから気にするな」

「ほ、ほんとですか! 時空鞄を造るってだけで激ヤバなのにあんな状態の時空鞄を直せるなんて...その制作者って何者なんすか?」

「.........」

「す、すいません! 重大機密ってやつですね。すいません。失礼します!」


 そういい部下が部屋から出ていった。残された雁木は自嘲気味に呟く。


「俺だってよく分からないさ。限界知らずの収納量、時間が停止してると勘違いするほどの保存力、そして『雷虎』の一撃を防ぐ頑丈さ。そんな物を造り出せる錬金術師が何者なのかなんてな。唯一分かってるのはセンスが独特ってだけだ」


 至るところにクマがあしらわれた時空鞄を所持しているため『クマの雁木』という渾名を付けられた彼が知っていることはそのくらいなのである。


 


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