第58話 国宝の剣が、ポキッと逝きました~

「こいつはどんな物理攻撃も効かない身体と、どんな特有恩恵も効かない身体の、その両方を手に入れたんだよ!」 


 俺が伝えると、ロッテはやっとのことで「それってもしかしてヤバイ?」と現状を認識する。


「やっと気づいたか、マヌケなアスタロッテ! それと、今の俺は四天王でも、六魔将軍でもない」

「え? 六魔将軍からも降格して、八戦鬼になっちゃったの!? うそ、かわいそう……」

「違うわぼけぇ! このギルガメウス様が、新たな魔王になったんだよ!」

「なっ!?」


 やっぱりこいつが新たな魔王……。

 ゴーダを操り、先代の勇者と魔王を亡き者とし、その両方の力を手に入れようと画策した諸悪の根源。


「かの魔王はぶっ殺した! 今の俺には物理攻撃も、魔法も効かない。ついに、このギルガメウス様が、地上最強の生物となったのだ!」


 そう高らかに断言するギルガメウス。

 そして――そこから暴風のようなギルガメウスの猛攻が始まった。


 満腹ロッテがあふれる魔力で毒魔法を放つが、ギルガメウスには全く効果がないようだった。

 次に、ロッテはオリハルコンの巨体に全力で拳を叩きつける。だが、あのゴーダを圧倒した拳でさえギルガメウスには傷一つ付かない。

 逆に「いったーーーい」と、ロッテが赤くなった手をフーフーしている。


 ヴリトラの攻撃も同様だった。

 ブレスも強靭な肉体から放たれる連続攻撃もギルガメウスには何らダメージを与えることが出来ていない。


 物理攻撃に関しては、パワーアップしたロッテさえ素で超えるヴリトラ。

 だが、そんな彼女でもギルガメウスの巨体を押し留めることは出来ても、ダメージを与えることは困難なようだった。


 逆に、ギルガメウスの攻撃は二人を確実に追い詰めていく。


 自在に動く長い首がら繰り出される鞭のような攻撃と岩石を打ち出す魔法の連携。ロッテとヴリトラなら、それくらいどうにかなりそうな気もするが――。


「こっちの魔力のガードをあっさり貫通してくるんだけど!? 何なのコイツ!」

「わ、私の鱗も…あ、あんまり役に立たない……みたい」


 特有恩恵無効化のせいで、ロッテの魔力ガードもヴリトラの鱗も、ギルガメウスの攻撃には霧散してしまうようだった。


 クルリやパロミデスも参戦してくれてはいるが、元々ロッテ達と比べれば戦闘力では劣る二人だ。

 正直期待は出来ない。

 それ以上に期待できない俺が言うようなことではないけどな。


「いやぁぁぁぁ、ツクモぉォォォ。どうしたらいいのぉぉ!? こいつ滅茶苦茶強くなってるんですけどォォォ! 毒が全然効かないの。ねぇ、私もう森に帰っていい?」


「ご主人様、わたしも……ちょっと疲れてきた。眠い~。添い寝して~」


「力を封じる聖具、いくらつけても無効化されますぅ~」


「ああああああああ、国宝の剣が、ポキッと逝きました~。ああああ、やっぱり人間って無能ですーーーー」


 これは……まぁまぁ、阿鼻叫喚だな。


「もう駄目そうだし、降参でもするか?」

「ちょっとツクモぉぉぉ! アンタだけ何で離れたところで見てるだけなのよォォォ」

「じゃあ逆に聞くけど、俺に何ができると? ひきこもり童貞のオタ山に何ができると?」

「なんなのその、前向きなネガティブ!」


 だって仕方ないじゃん。俺なんてただの日本の男子高校生やぞ。

 そんな俺に……いや待て、よくよく考えれば俺は現代日本人。

 ちょっとばかし学校をお休みしちゃったりしてはいたが、ファンタジー世界の住人達よりは、知識に一日の長があるのは間違いない。


 ならば、俺の武器は知恵だ! アイデアだ! 作戦だ!


「ヴリトラ! 何がなんでもギルガメウスの口を開けさせろ!」


 咄嗟に思いついた作戦。

 成功するかは分からないが、考えなしに突撃しているよりいくらかはマシだろう。


「で、でも、ご主人様……こいつ硬くって」

「そこを何とか! 上手くいったら一つだけ何でも言うこと聞いてやるから!」

「な、何でも! ……………………わかったがんばる、あの亀ぶっ殺す!」


 長い沈黙の後、何を妄想したのかヴリトラの瞳に殺意の波動が生まれる。

 卑猥ひわいよこしまな波動も感じるが背に腹は代えられない。


「馬鹿め、また物理攻撃か。それは効かないとまだ解らないの――」

「うるさい、だまれ」


 ヴリトラの大きく振りかぶった渾身の右ストレートがギルガメウスのボディに突き刺さる。

 その足元にはクレーターが生まれ、ギルガメウスの巨体が軽く宙に浮く。 


「浮いた!? まじか……」

「せーの、もう一回!!!」


 浮いた状態のギルガメウスを、真下から押し上げる形でヴリトラの更なる攻撃が襲う。

 足が地に付いていないせいで、うまく反撃することが出来ないギルガメウス。 

 その隙に、ギルガメウスの眼前へとヴリトラが飛ぶ。


「お口、開けな……さい!」

「ぐあっ!」


 強烈なアッパーがギルガメウスのあごにを突き上げた。

 ダメージがあるかは分からない。ただ、あまりの衝撃でギルガメウスの口が開く。


「ロッテ、今だ!」

「そういうことね、ツクモ! おーけー!」 

 

 俺の言いたいことを瞬時に理解したロッテが、渾身の毒魔法をギルガメウスの口の中にぶち込む。


「これでどーだ! オリハルコンだか、特有恩恵無効だか知らねえが、腹の中まではコーティング出来てねえだろ!」


 だが――。


「くくくくく、くははははは。残念だったなぁ。俺は内臓まで特有恩恵無効のオリハルコンで覆われてるんだよ!」

「ツクモォォォ! 全然効いてないじゃない! 全然効いてないんですけどぉぉ!!!」


 希望が絶望に反転したショックで、ロッテが泣きながらギルガメウスに向かってに毒魔法を撃ちまくる。


「ちょ、馬鹿やめろ! こっちにまで飛んできてんだよ! 味方まで殺す気かぁぁぁぁ!」

「馬鹿な女だ。俺に毒魔法は効かないってのに、それじゃ味方に攻撃しているようなものだぞ。――っと、危ねえ」


 見境なく連射されるロッテの毒魔法に、ギルガメウスがうっとうしそうに顔を背ける。

 その光景を見た時、俺は違和感を覚えた。


 そして――確信に近い希望を見つける。


 もし、この仮説が正しいのだとしたら、あのチート亀を倒せるかもしれねぇ。


「いいかお前ら、今から俺が指揮を執る! 俺の言う通りに動け! ロッテ、ヴリトラ、クルリは作戦を伝えるからこっちに来い!」

「え、ツクモ様……私は?」

「パロミは時間稼ぎ」

「ちょぉぉぉ、殺す気ですかぁぁぁ!? 私、剣折れてるんですけどォォォ!?」


 ――と泣き叫びながらも、責任感なのかヤケクソなのか、ギルガメウスに特攻していくパロミ。健闘を祈る。


 パロミが時間稼ぎをしてくれている間に、ロッテ、ヴリトラ、クルリが俺の元へと集まってくる。


「じゃあ、あの亀野郎をぶっ倒す作戦を伝えるぞ――」


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