第53話 どさくさに紛れてオタ山って言うな

「――こうして僕は学校に行かなくなりました。めでたしめでたし」


 俺のドキッ、赤裸々せきらら初恋ばなしに、ロッテとヴリトラも、クルリやぱろみも、そしてゴーダでさえ黙り込む。


「……? 笑ってくれていいよ?」

「「「「「――笑えるか!!!」」」」」

 

 全員からハモってツッコまれた。


「――俺は如月達に騙された後、ずっとひきこもってた。あらゆることから逃げ続けた。だからこそ分かるんだ」


 俺はパロミデスを真っすぐに見つめ、信念とも言えるべき言葉を伝える。


「逃げて逃げて、逃げた先は、たとえ命があったとしても……何にもねえぞ。不安と恐怖だけだ。お前は自国の民にそんな運命を押し付ける気か?」


 俺の言葉にパロミデスが困惑する。


「ツクモ様…………えっと、格好つけてらっしゃるところ悪いのですが、過去の話が痛々し過ぎて、どう受け止めたらいいのか……」


 痛々しいって言うな。


「難しく考えるな。お前は自国の民が、俺みたいな人間になってもいいのか――って聞いているんだよ」

「あっ……それは絶対に嫌ですね」

「言い方!」


 人はすぐに命さえあればとか言う。

 けど、命があるだけで他に何にもない奴だっている。


 俺がそうだったなんて大それたことを言うつもりはない。

 俺なんてちょっとつまづいただけで、立ち上がるのが嫌になっちまった甘ちゃんだ。


「でも、俺程度でも、学校行かずに部屋に籠っている時は、本当に苦しかった。何も悪いことをしていないのに逃げ隠れしている自分に腹が立った。情けなかった」

「オタ山……」

「おい、ロッテ。どさくさに紛れてオタ山って言うな」

 

 ロッテのやつ、ちょっと如月に似てるからトラウマに来るんだよ!


「とにかく! そこのゴリラにひれ伏すってことは、国民全員がゴリラの家畜になるようなもんだろ」


 そんな生き方は、俺のひきこもり時代なんかより、もっとずっと苦しいはずだ。


「それでも、お前の言う通り、死ぬよりはマシだって言うやつも沢山居るだろうよ。けどな――――少なくとも俺は! そんなの死んでも御免だね!」


 これで、伝えるべきことは伝えたつもりだ。あとはどう転がるか。

 そして、俺の話が終わった後、真っ先に動いたのはゴーダだった。


「好き勝手に言ってくれるじゃねえか、このクソガキがぁぁぁ!」


 怒り狂ったように叫ぶゴリラ。

 けど、俺の長話をずっと黙って聞いててくれたらしい。

 ゴリラにもいいところがあるのかもしれん。

 

「確かによぉ、魔王を倒す前に遊び過ぎちまったかもしれねえ。けど、パロミデスよ、約束してやる。俺の言うことをよ~く聞いてりゃ、魔王くらい倒してやる。だから、馬鹿みたいな考えは捨てて――」

「いーや、お前は絶対に魔王と戦わない」


 自信満々なゴリラトークを、サクッとぶった切る。

 そして、淡々と新事実をぶつけてやる。


「だってお前、新たな魔王って奴の仲間だろ」

「………………な、なっ何を根拠に言ってやがりゅ!?」


 一瞬の思考停止。そこからの圧倒的動揺。分かりやすい反応だ。

 ってか噛むなよ。ゴリラが噛んでも可愛くねえぞ。


「根拠ならあるぞ。まず、ガルテとルルフィの故郷が魔王に襲われたってこと自体おかしいんだよ」


 この世界に来て、見聞きした話と照らし合わせていくだけで、おかしな点はすぐに見つかった。


「人間以外の種族との戦闘には消極的だった魔王軍が、わざわざ辺境の、人間の住んでいない土地を襲った? それも魔王自ら? で、ゴリラ勇者様がタイミングよくやって来て? 故郷を救って欲しけりゃ奴隷になれ?」

「あっ……」


 ガルテが小さな声を上げる。

 俺が言いたいことに気付いたのだろう。


「そうだ。そんな偶然あってたまるかって話だよな。ってことはだ、考えられる可能性はただ一つ。そこのゴリラと新たな魔王ってのはグルなんだ。全部、自作自演だったんだよ!」

「て、てめぇ……」

「ガルテとルルフィが、自分と人異の契約をせざるを得ない状況を作ったんだろ。その新たな魔王って奴と結託してさ」


 この可能性しか考えられない。

 このゴリラと新たな魔王は通じている。


「仲間なんだから魔王討伐なんてするわけがないよな。いや……仲間ってのも違うか。ゴーダ……お前、魔王の手下だろ?」


「…………」  


「お前、昨日まではロッテとヴリトラを奴隷にしてやるって息巻いてたのに、突然、処刑を決めたらしいな」

「それがどうした? そんな危険分子をさっさと処刑するのは当然だろ」

「魔王にそう命令されただけだろ? ロッテとヴリトラは危険だから余計なことはせずに早く殺せって。じゃなきゃ、お前みたいなしつけのなってない発情ゴリラが自分の欲望を我慢するはずがない」


 続けて俺はガルテとルルフィに確認する。


「誰か、先代の勇者と魔王の最後を見たやつは居るか?」


 二人ともそろって首を振る。


「勇者マリベルは、私たちが戦いに巻き込まれないように決戦の場から離れるように言ったの。他にもあの場に残ったものは居なかったと思う。ゴーダもとっくに姿を隠していたから」


 やっぱりな。相打ちになったとされている、先代の勇者と魔王の最後は誰も見ていない。


「これは俺の推測なんだが……でもまぁ、ちょっと確信してる。おいゴリラ、てめぇ、新たな魔王ってやつと結託して、先代の勇者と魔王を殺しただろ?」

「――っ!?」


 引きつるような、声にならない声を上げたのはクルリ。


「で、お前は勇者の座を、もう一人は新たな魔王の座をちゃっかり奪った……」


 ゴーダは何も答えない。

 だが、ゴーダの沈黙が答えだと誰もが気付く。


「…………くくく、く、うははははははははははははは! そうだ、そうだぜ、そうなんだよぉぉぉぉ! 俺だ、俺様だぁ! あの糞ムカつくエルフをぶっ殺したのは俺様だ!」

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