第48話 貧乳は人に非ず

「ロッテとヴリトラは捕まったままか……」


 クルリの話によると、ロッテとヴリトラは、ここより上の地下牢に捕らわれているらしい。

 ヴリトラが馬鹿力でいくつかの聖具を破壊した為、今はより厳重に力を封印されているとか。


「ところでクルリさん。二人は……あのゴリラにエロいことをされているのでしょうか?」

「何ですか? 唐突に」

「あのゴリラにエロいことをされているのでしょうか? って聞いてんだよ、コラぁ!」

「情緒不安定ですか!? 急にキレないで下さい。二人ともそっちの意味でも無事ですよ」

「マジか、良かった。俺、ネトラレだけは無理なんだよ」

「何の話ですか」


 あ、なんか美少女に軽蔑の視線向けられるのって、ちょっとクセになりそう。


「でも、確かに変なんですよね。あの糞ゴリラ、ロッテさんとヴリトラさんを、自分の奴隷にしてやるって息巻いてたのに、急に前言撤回して、明日の正午に二人を処刑するって言いだしたんです」

「な!? 処刑?」 

「処刑自体は驚くようなことじゃないです。対罪人である偽勇者を操っていた大悪魔にして魔王軍四天王アスタロッテ。それに、勇者に襲い掛かったドラゴンですよ?」

「くっ、それもそうか……」


 でも、処刑よりも――とクルリは難しい顔をする。


「あのゴリラが前言を撤回したことが気になるんですよね。あれだけ自分の欲望に忠実な糞ゴリラが、男を喜ばすしか能の無いあれだけの無駄肉を目の前、手を出さないなんて……」


 ゴーダがどうして急に考えを変えたのかが分からない――クルリはそう言って首を傾げる。

 それはそうと口の悪いロリシスターだなぁ。

 ゴリラと巨乳に対する敵意が強い。


「ゴリラはともかく、お前巨乳になんか恨みでもあるのか? 確かにロッテやヴリトラと比べると、お前の胸は永遠のゼロ――ぎゃああぁぁぁぁぁ!」


        ◇

 


「へー本当に死なないんですね。ツクモさん、おもしろーーーい」


 軽い音でぱちぱちと手を叩くクルリ。

 これが俺の両目を容赦なく潰した女である。


「その、合コンで興味の無い男から、つまんねー手品を見せられた女子みたいな反応止めてくれない?」


 目が冷たいよクルリちゃん。かぁいいのに。

 死んでも生き返るなんて、そこらの男じゃできない特技なんだぜ?


「ツクモさんが、『貧乳は人にあらず』とか言うからですよ」

「言ってねえよ、そんなん一言も! むしろ、大きいおっぱい小さいおっぱい、みんな違ってみんなイイって思ってるから!」

「え、それはそれで気持ち悪いです」

「どうしろってんだよ!?」


 どっちに転んでも気持ち悪いとか酷すぎる。


「――そんな事より、話の続きをしますよ。クルリもあまり長くはここに居られませんから」


 長時間席を外して、怪しまれたり、捜索されるのは困るとクルリは言う。


「ああ、手短に済ませる。俺も見つかりたくないからな。早速だが、他にも聞きたいことがあるんだけど、いいか?」


 ――ロッテとヴリトラを救い出し、ゴーダを倒す。


 無謀な考えだ。今のところは無策。

 だがゴーダに関して、俺にはいくつか引っかかる点があった。

 それが直接ゴーダを倒すヒントになるかは、まだ分からない。

 だからこそ、どんな取っ掛かりでもいい。クルリの情報からゴーダ攻略の糸口を何とか見つけないと――。

  

「お前の姉ちゃん――先代勇者の仲間、ガルテとルルフィって言ったっけ? 故郷が魔王に襲われたって言ってたけど、あの二人の故郷ってどこにあるんだ?」


 俺の質問の意図が分からないのかクルリが怪訝な顔をするが、すぐに俺の問いに答えてくれる。


「大陸の西端に広がる、深樹界しんじゅかいと呼ばれる森の中ですね。お二人は別種族ですが、故郷が近かったらしくて、勇者パーティに入った後も、地元トークで盛り上がっていたみたいです」

「地元トークって、上京したての大学生かよ」

「ちなみに二人とも、話に夢中になるとなまりが出てきて、何を喋ってるかすら分からなくなるから、姉様はかなりの疎外感を感じていたらしいです」


 何その、あまり聞きたくない勇者パーティのトリビア。


「じゃあ、二人の故郷や、その近くには人間は住んでたりしたのか?」

「人間です? 深樹界に人間の村などは無かったはずですよ。人間では、深樹界の最低ランクの魔物にすら歯が立ちませんから、当然ですね」

「やっぱりな……」


 予想通りの答えだ。

 あと聞きたいのは……。


「ゴーダって、魔王討伐の旅を真面目にやってるのか?」

「そんなのやってるわけないじゃないですか! 王女殿下の話では、勇者の力をいいことに、国のツケで遊んでばかりだそうですよ」

 

 ぷんすか怒っているクルリを眺めながら、俺は今聞いた情報を頭の中で反芻はんすうする。


 ――ガルテ、ルルフィの故郷の近くに人間の町や村は無かった。

 ――ゴーダは魔王討伐の旅を真面目にやる気はない。

 ――ロッテとヴリトラにエロい事をしようとしていたのに、直前で二人の処刑を決めたゴーダ。


 そしてその情報と、この世界に来てから見聞きしたことを照らし合わせながら、俺はゴーダに関してある一つの推論を導き出した。


 そして、もしこの推論が正しいのなら。


「あの口の臭えゴリラ野郎をぶっ潰す、その糸口くらいは掴めたかもしれない……」

「それは本当ですか、ツクモさん!?」


 クルリの暗かった瞳に一筋の希望が宿る。

 俺ごときの言葉でこれだけ喜んでくれるなんてな。

 やっぱ明るく振る舞っていても、その実相当思い詰めていたのかもしれない。

 

「ああ、任せろ。絶対にロッテとヴリトラを救い出す。そんであのゴリラ野郎をぶっ潰してやる!」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る