第47話 気持ち悪いんですけど、割とガチで
「ツ、ツクモさん!? …………よかった……良かったですぅぅぅぅぅぅ!!!」
五体無事な俺の姿を確認したクルリが、俺の胸に思いきりダイブしてくる。
小さな身体の軽い衝撃が心地いい。
あ、イイ匂いする。こんなゴミ貯めなのに、なんかフローラル。
「絶対死んだと思ったのに、ツクモさんの生命力がゴキブリ並みでクルリは嬉しいですぅぅぅぅ」
「喜ぶか、
「じゃあ貶す方にしてあげまちゅね~。ザコニセ勇者さん♥」
「やめい」
俺に新たな性癖を植え付けようとするんじゃない!
「それよりクルリはどうしてこんなところにやって来たんだ?」
「そんなのツクモさんを探しに決まっているじゃないですか!」
偉いでしょ? 可愛いでしょ? といった風に胸を張るクルリ。
「ツクモさんって、聖なる泉に一時間以上沈めたのに生還したじゃないですか? あんなしぶとい人……じゃなくて奇跡を起こす人ですから、もしかしたら生きているんじゃないかと思って――」
そうか、俺の生存を信じて様子を見に来てくれたのか。
なんだかんだ優しいやつだ。
「──ツクモさんの残骸が捨てられたゴミ捨て場の様子を見に来たんです!」
「残骸って言った? 残骸って! 俺、そんなに酷い状態だったの!?」
残骸って、生物に対して使う言葉じゃないよね?
「ゴーダに斬られたのは覚えてるけど、そんな残骸ってほどにはやられてなかったと思うんだけど!?」
「あのゴリラ、こいつはしぶといから念入りにって……」
「念入りに何よ? 結局、俺どんな状態だったの!?」
俺の言葉に、クルリが目を背け口元を手で覆う。
「どんな状態だったかって……そんなの本人を前にして言えるわけが……あれ? というか、あんな残骸の状態から回復したんですか? え、ツクモさん、ちょっと気持ち悪いんですけど、割とガチで」
「ガチで気持ち悪いは傷つくからヤメテ!」
◇
「ほぉ、ツクモさんは異世界人で、異世界から転移する時に天使様から99個の命を貰った…………という頭の病気なんです?」
「そのボケはもういいんだヨ!」
クルリは隙あらば宗教勧誘してくる地雷女ではあるが、今回の件については信用できる相手だと判断した俺は、自分の素性について大まかに語った。
この窮地を脱するためには、クルリの協力が絶対に必要だと俺の勘が告げていたからだ。
――だというのに、何でクルリまでロッテと同じボケをかますんだよ。
「いえ、ボケとかじゃなくて、割とガチでこの人頭おかしいんだなぁ~って思っていますよ?」
「ガチで頭おかしいは傷つくからヤメテ!」
そんな俺を見て、クルリは少し気が抜けたようにクフフと笑う。
メスガキムーヴとはちょっと違う柔らかな表情だった。
「それで、どうしてクルリにそんな話を? 異世界の話、命が99個ある話――それって人に話すのは、かなりリスキーですよね?」
「ああ、そうだ。でも、だからこそ話した。俺を信用してもらうために」
「信用……です?」
「お前が創星教の信者で、王国側に属するエルフだってことは分かっている。その上で、俺に協力して欲しいんだ」
立場上、クルリは俺に表立って協力することは出来ないだろう。
罪人である俺に協力することは、国や創星教を裏切るのと同じ。
だが、ゴーダがのさばるこの現状を、クルリが良く思っていないことは確かだ。
話次第では、きっとクルリは力になってくれる。
「クルリに協力って……ツクモさん何をする気です?」
「んなの決まってるだろ。ロッテとヴリトラを救い出して、あの糞ゴリラをぶっ潰す!」
「そんなの無理に決まってるじゃないですか! あのゴリラにはロッテさんも、ヴリトラさんも敵わなかったんですよ!?」
「ああ、分かってる」
「ゴーダはツクモさんが生きていることを知りません! このままこっそり街を出れば、ツクモさんは助かるんです! なのにっ!」
「だから、分かってるって!」
自分でもガラじゃないってのは分かってる。
「心配してくれるのは嬉しい。けど、決めたんだ」
「ツクモさん……」
「お前に迷惑はかけないよ。……いや、少しは迷惑かけるかもしれないけど。まぁ、だから信用して欲しくて、本当のことを話したってのもあるかな……」
クルリが口元に指を当てて、少し考える素振りをする。
「協力を得るための信用ですか。……確かにツクモさんが頭のご病気だということは信用しましたけど……」
「ご病気じゃねえよ! そして丁寧に言うなよ! 気を遣うなよ!」
逆に居たたまれなくなるだろ!
「ふふふ、冗談ですよ。実は異世界からの迷い子の話は、いくつかの噂や伝承があるのです。それに迷い子は皆、不思議な力を持っていたとか……」
「マジか。そんな話が……」
ロッテは全然知らないって顔してたけどな。
ま、仕方ないか。ロッテは友達居ないからな。四天王の割に情報網が薄いんだろう。
「それで、ツクモさんが私に協力して欲しいことって何です?」
「とにかく情報が欲しい。気になることはいくつかあるんだが、まずロッテとヴリトラはどうなった? 二人とも無事なんだよな!?」
俺は、何よりも一番に気になっていたことをクルリに尋ねる。
「いや勘違いしないでよね。心配してるとかじゃないから! 脱出するにしても、戦うにしても、まず奴隷であるアイツ等が居ないとお話にならないからだからね! 俺、何にもできないんだから!」
「別にクルリはまだ何も言ってませんですけど?」
「う……」
どうやらちょっとフライングツンデレしてしまったらしい。
「ふふ、ツクモさんてやっぱり、単純で、危うくて、でもやっぱり可愛いところありますよね……」
「可愛いとか言うな。お前の方が一兆倍可愛いわ! ムカつくけどな!」
「…………」
「ん? どうした、急に黙って……」
「べ、別に何でもないですよ?」
「なんかちょっと顔赤い?」
「うるさいですね。衛兵に突き出しますよ? この性犯罪者!」
「なんで!?」
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