第45話 紙袋被せりゃ犯れねえこともねえだろ!
「魔王が復活した今、魔王を倒せるのは勇者であるゴーダ様だけ。もし彼が、我々を見捨てたら……人類に残された道は絶滅しかないのです」
自分だって納得なんてしていない。それでも王族として、国と国民を守るためにはどんな恥辱にだって耐えてみせる。
クルリを説得するパロミデスの瞳がそう物語っていた。
「で、でも、そいつが勇者だなんて……」
「事実です。実際、ゴーダ様はガルテとルルフィの故郷を襲った新たな魔王を二度も退けているのです」
「そんな……」
聞きたくなかった事実にクルリの顔が失意に染まる。
「勇者様の持つ聖剣アークは、この世界で唯一魔王に傷をつけられる武器。そして、聖剣アークは使い手を選ぶのは知っていますね」
無言でうなずくクルリ。
「先代勇者マリベルが亡くなってから五年。その間に人類はここまで生存区域を減らしてしまった。でもやっと、聖剣に選ばれし勇者様が再び現れたのです」
――今、勇者様を失うわけにはいかない。分かってくださいクルリ。
最後にそう言われたクルリは、何も言えなくなってしまう。
そりゃそうだよな。
勇者不在のたった五年で、人類の生存地域は一割に減った。
しかも魔王は勇者しか倒せない。
そんな縛りプレイが課されてる世界じゃ、どんなクズ勇者だろうと、そいつに
「つーわけだ、分かったかな? 理解できたかな? 人生諦める準備は整ったかな? なぁ、偽勇者のツクモくん」
手錠を掛けられまともに身動きすら取れない俺に、容赦なく剣を突き付けるゴリラ。
「それにしてもお前、あの森からよく出られたな。しかも、野犬にあれだけやられておいて……関心するぜ。しぶとさだけなら勇者レベルだなぁオイ!」
「ツクモっ!?」
「ご、ご主人様……に、逃げて!」
ロッテとヴリトラが叫ぶ。
いやいや、そんなん言われたって、周りは兵士に囲まれてるし、手錠は掛けられてるし、目の前のゴリラには剣付きつけられてるし。
どうやって逃げろと?
「何だお前、逃げてえのか……? じゃあ、鬼ごっこでもするかぁ?」
ゴーダの剣が俺に掛けられた手錠の鎖を斬る。
「お前……何考えて……」
「ルールは簡単だぜぇ。もしお前が俺から無事に逃げられたら命は助けてやる」
「何が助けてやるだ……どうせ逃がす気なんかねえんだろ」
このゴリラの身体能力は、さっき天井が崩落した時に確認した。はっきり言って化け物だ。
だというのに、頼りのロッテとヴリトラはまともに動けない。
そんな状況で、写真と動画を撮るしか能の無い俺が逃げられるはずがない。
「逃がす気なんかない? そんなことはねえよ。何だったら、俺はお前を追いかけないし、城の者にも手を出さないように命令してもいい」
「何を言って……」
「あ? 邪魔しねえからどこへなりと逃げていいって言ってんだよ。ただし……」
俺に向けられていた剣が、ゆっくりと違う方向へと向かう。その先に居るのは、
「お前が逃げたら、そこの悪魔と竜の女は殺すけどなぁ……」
「なっ!?」
「くはははははは、いい顔だなぁオイ! そうだ、ただ殺すのも勿体ねえし散々遊んだ後にするか。異種族女なんて気持ち悪くて仕方ねえが、両方ともイイ身体してやがるしな……まぁ紙袋被せりゃ
「て、てめえ……」
ゲスだな。
力を持ったゲスってのは、ここまで手に負えないモノなのか……。
「どうした? さっさと逃げろよ? あんなのただの奴隷だろ? 異種族女なんか死んだって何でもないだろ? ああん? 何とか言えよ、この
「…………ぇよ……」
「あん? よく聞こえねえな?」
「うるせえよゴリラ、近寄んな。てめぇの口、バナナ臭えんだよ!」
「いい覚悟じゃねえか。……じゃあ望み通り、死ね」
次の瞬間、
熱した鍋を触ってしまった時の焼けるような痛み。
その何千倍もの衝撃が、身体と魂を分断する。
ゴトリと音が聞こえる。
それは自分の頭が床に当たる音だった。
指先一つ動かせない。今の身体の
ただ何となく――上半身と下半身が〝紙一重でしか繋がっていない〟そんな気がした。
「ツクモーーーっ!!!」
ロッテ、お前何泣いてんだよ。俺が死なないって知ってるだろ?
……いや、ダメか? 生き返ったとしても、目の前にはゴリラが居る。
例え俺の命が複数あったとしても、このゴリラのことだ。生き返った俺に少し驚いて、次に笑って、最後には〝俺を死ぬまで殺して〟終わりだろう。
「ご主人様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」
死にかけの聴覚を
次に、いくつもの金属がねじ切れ、破砕したような音が聞こえた。
ヴリトラだった。
もう動かせない視界の端。ネックレスやら腕輪やら、いくつかの聖具を破壊したヴリトラが暗黒を
「なっ!? あれだけの聖具をコイツ!」
驚き戸惑うゴーダ。慌てて聖剣を構えるが、直後、ヴリトラの口腔から放たれた最強最大のドラゴンブレスに全身を焼かれる。
「ぐぉあああああ」
「は、はは。すっげぇ……さすが……おれの奴隷……だ……」
ゴーダの身体を貫き、砦の壁を破壊し、遥か彼方までを貫く闇の閃光。
黒炎に焼き尽くされ苦痛に叫び続けるゴーダ。
だが俺は、その姿に違和感を覚える。
「……ゴホッ……おかし…………い」
――叫び続ける? あの巨大な岩山でさえ飴細工のように溶かしてみせた、ヴリトラのブレスを喰らって……叫び続けている?
「ぐあああぁぁぁぁぁぁ……痛い痛い、死んじゃうよォォォ…………なんてな。くくく、くはははは!」
闇の中、高笑いを始めたゴーダ。
その毛深い剛腕が聖剣を振るう。すると、ヴリトラ渾身のドラゴンブレスが、まるでか細いロウソクの火のように瞬く間に消え去る。
「――っ、ぅぐッ!」
直後、ゴーダの聖剣がヴリトラの腹を易々と貫いた。
黒き竜の美しい相貌が激痛に歪む。
口から溢れ出るのは大量の血。
その信じられない光景に、ヴリトラの血ってちゃんと紅かったんだな――なんて場違いな思考が浮かぶ。
「不思議かぁ~? 竜族の特有恩恵――最強のドラゴンブレスが効かないの何でだろ~ってか?」
けたけた笑いながらヴリトラを蹴飛ばし、その身体から剣を抜くゴーダ。
驚異の
邪魔者は居なくなったと聖剣を肩に乗せるゴーダ。
――だが次の瞬間、ゴーダの野太い腕に紫の液体がべちゃりと掛かった。
「油断したわね。0.1ミリグラムでクジラとか殺す猛毒よ。上手く力が使えなくったって、じっくり練り上げれば、これくらいの毒は作れるんだから。さぁ、苦しみ藻掻いて死んじゃえ、このゴリラ」
ドヤ顔で、勝利宣言しているのは、我がアホ奴隷のアスタロッテ。
だが、正直嫌な予感しかしない。
「ほぉ、そいつは凄い毒だな。でもよぉ……今話してただろ? ドラゴンブレスが俺に効かないのはなんでだろ~ってよ。何でドラゴンのブレスが効かねえのに――」
ゴーダロッテの元にゆっくりと近づき、聖剣を振り上げ、
「――自分の毒なら効くなんて、クソおもしれえ錯覚してんだよ!!!」
聖剣の腹でロッテの背中を叩きつける。
勢いよく床に叩きつけられるロッテ。その表情は、自分の毒が効かなかったことに対する驚きと痛みで混乱していた。
「これで分かっただろ! 俺には異種族の特有恩恵は何一つ効かねえんだよぉぉぉ!」
「……特有、恩恵が…………効か……ない……?」
「聖剣アークには、その種族の特有恩恵の力を最大限に引き出す力があるんだぜ。この意味が分かるかぁ、兄弟?」
死に体の俺の頭を掴み、汚ねえドヤ顔で語り始めるゴリラ。
ていうか、俺はてめえの兄弟じゃねえよ。どうしたらゴリラと人間の兄弟が生まれんだよ、このゴリラ野郎。
「人間の特有恩恵は〝人異の契約〟――それは異種族相手に、絶対順守の契約を結ばせる力。まぁ簡単に言えば、異種族を従わせる力だ……」
その怪力で、俺の身体を片手で宙づりにしたゴーダが続ける。
「異種族を従わせる力を最大まで引き出せる俺様にはなぁ――――あらゆる異種族の特有恩恵を無効化できる力があるんだよ!!!」
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