第38話 語尾に『ザコ勇者さん♥』って付けて欲しいと?

「 ――大切にしないと許さないから!」


 放課後の教室、クラスの気の強い女子に呼び出された俺は、何故か怒りをぶつけられた。

 俺に怒りをぶつける女子の隣で、別の女子がしゃくり上げるようにずっと泣いている。

 訳が分からず呆然としている俺の手には、泣いている女子が作った、可愛らしいカメのぬいぐるみが握られていた。 


 ――これは夢か……懐かしいな。


 小学生の時、何の気の迷いか『クリスマスのプレゼント交換会をしよう』と担任が言い出した。

 プレゼントなんてどうしたものかと悩んだが、何とか苦労して手作りの双六すごろくのようなものを作って持って行ったのを覚えている。


 そして当日――。

 みんなで輪になって、曲に合わせてプレゼントを隣の子に渡していく。

 曲が止まった時、手に持っていたプレゼントを貰えるというルール。


 そして、俺の小さな手に握られているカメのぬいぐるみが、俺が貰うことになったプレゼントだった。

 何のことは無い、それだけの話。俺は何も悪いことなんてしていない。

 なのに……放課後呼び出されてキレられた。泣かれた。


 その時は訳が分からなかったが、後で冷静になって理解した。


 あの泣いていた女子は、クラスの好きな男子に手作りのぬいぐるみを贈りたかったのだ。

 だが、丹精込めて作ったぬいぐるみが俺の手に渡った。

 

 だから、泣いた。

 だから、キレた。


『そのぬいぐるみは、お前なんかの為に作ったものじゃない』

『仕方ないからくれてやるけど、大切にしなかったら許さない』


 要するに、そういうことだ。


 ……。

 …………。

 ………………知らねえよ。馬鹿じゃねえの? 


 クラスメイト40人くらい居るんだぞ。それなのに好きな男子にプレゼントが渡ると思ってる方がおかしいだろうが!


 ていうか、せめて俺じゃなければ良かったのか? 

 女友達だったら『〇〇くんにはあげられなかったけど、大事にしてね~』って笑いならが納得したってか? 

 俺だから泣いたのか? 俺が泣くほど嫌だったのか?


 そりゃ、俺なんて格好良くねえよ。自分で分かってる。

 どうせクラスで一番足が速い奴とか、チャラついてるカッコいい奴とか、気の利く優しい奴とかが好きなんだろうよ。

 俺はそれのどれでもねえよ。

 でも、真面目に生きてんだよ!

 真面目に生きてるやつが、こうやって踏みつけにされるのはおかしくないか?

 

 うちのクソ親父だってそうだ。

 いい年して、家に大した金も入れずに、服とか髪に金かけてチャラチャラしやがって。

 顔は確かにイケメンかも知れねえ。女の扱いも上手いのかもしれねえ。

 でも、おかしいだろ、あんな不真面目不誠実が服を着て歩いてるみたいなおっさんがモテるなんて。


 ――すると、夢が暗転する。


 気が付くと、俺は自宅のボロアパートで一人立っていた。

 すぐに気付く、これはあの日の夜だ。


 もうすぐ、玄関のドアが開く。

 そしてあの糞野郎が顔を覗かせてこう言うんだ。


「おっ、ツクモ帰ってたのか。紹介するわ、お前の新しい母さんだ」

「――七人目って、いい加減に懲りろや! テメエは七つの大罪でも目指してんのかぁぁぁぁぁっ!!!」



        ◇


「――テメエは七つの大罪でも目指してんのかぁぁぁぁぁっ!!!」

「朝からうっさいわよ、ツクモ!」


 と、ロッテにお玉で頭を叩かれる。

 何でお玉? ってか、寝起きから毒属性付与お玉は止めて欲しい。


「七つの大罪目指してるのはアンタでしょ! 憤怒、嫉妬、強欲、怠惰、傲慢、暴食、色欲――食って呑んで、イケメンに嫉妬して、でも努力はキライで、そのくせハーレムとか言ってるし」

「ご主人様……憤怒以外、コンプリートしてる……」

「ツクモさんの場合は、憤怒も、気が弱くて他人に怒れないだけって感じですよね……あ、いい意味でですよ。いい意味で!」


 扉から入ってきたクルリが自然に会話に交じり、自然に俺をディスる。

 何で朝からクルリが部屋に……ってそうか、ここは王女様に案内して貰った砦の中にある客室だったな。

 クルリは別室だったが、すぐ近くに部屋を用意して貰ったとか、昨日言っていた。  


「クルリ、『いい意味で』って付ければいいと思ってんだろ」

「つけない方が興奮するです? ストレートになじられる方がお好みで? しかも、語尾に『ザコ勇者さん♥』って付けて欲しいと?」


「性癖の捏造反対!!!」 


 クルリのやつめ、俺が創星教に入る気がないと分かってから、ずっと当たりが強いな。

 いつの間にか呼び方も、〝ツクモ様〟から〝ツクモさん〟に変わってるし。

 このまま悪化していったら〝ツクモwww〟に呼び方が変わるのも時間の問題な気がする。


 ったく、俺はメスガキが好きってわけじゃないぞ。

 ……嫌いでもないけど。


「ところでツクモさん。実は扉の隙間にこんなものが……」


 先程までとは打って変わって、真面目な顔で何かメモの様なものを差し出すクルリ。そこに書かれていたのは――


『――命が惜しければ今すぐ去れ。お前は勇者ではない』


「なんだこれ?」


 乱雑に破られた一枚のメモ用紙。急いで書いたのか、字もずいぶんと雑だ。

 するとヴリトラがメモに顔を寄せ、その匂いを嗅ぎ始める。


「……くんくん……女の、匂いがする……」

「お前は犬か何かなのか?」

「うへへ……私はご主人様の……牝犬……ですよ?」

「そういう意味じゃねえよ」

 

 照れた様子でモジモジするヴリトラ。だがすぐに――


「うふふふふふ、人の夫にラヴレターとか……早く見つけて喉笛嚙み千切らないと……」


 犬は犬でも狂犬だった。


「ていうか、どう見てもラヴレターじゃないから殺すなよ」


 いや、ラヴレターだったら殺してもいいってわけじゃないが。


「ふむ、それにしても扉に脅迫状とは……ずいぶんと古典的だな」


 一人呟く俺の横から、ロッテが脅迫状を覗き込みながら言う。


「ねえねえ、これってさ、今日ツクモが勇者として王様に紹介されると困るやつがいるってこと?」

「きっと、そうなのでしょうね。だから『田舎に帰ってママのおっぱいでもチューチューしてなボーイ』――と脅迫してきたと」

「そんな昔の洋画みたいなセリフ回しじゃないだろ」


 と、冗談はさておき、この犯人の要求は、今日行われる式典には出ずにこの街を去れってことか……。


 そう今日はついに、魔王軍に対する反攻作戦のための式典が行われる日――。

 要するに、国王から国民に対して、この俺、山田ツクモが新たなる勇者として紹介される日なのだ。


「これは、俺を脅威に感じている魔王軍からのメッセージ……」

「ツクモを脅威に感じてるやつなんて、魔王軍には居ないと思うけど」 

「俺を脅威に思ってなくとも、ロッテとヴリトラを脅威に思っている可能性はあるだろ!」


 俺の台詞に、ロッテとクルリだけでなく、ヴリトラまでちょっと残念そうな顔をする。


「仮にも私たちのご主人様なんだから、自分は脅威にならないって、あっさり認めないでよ」



 ────────────────


 どうも作者です。

 冒頭のエピソードは誰の物とは言いませんが実話です。


 同情するなら☆☆☆をくれ!

 あとフォローとかで応援してくれると嬉しいです。


 お話の方も、少し真面目な展開ですね。

 あくまでコメディ中心作品なので、お硬くなりすぎないよう、お笑い要素を忘れないように頑張ります。

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