第39話 ロッテは女教師コス、ヴリトラは女医コス

 結局、どこの誰が出したのかも分からない脅迫状に屈するという選択肢はなく、俺たちは侍女たちに案内されるまま式典の会場へと向かうことにする。


「皆様、お召し物のご用意がありますので、ツクモ様はこちらへ。ロッテ様、ヴリトラ様は、あちらの侍女の後へお願いします」


 部屋付きの侍女頭が俺たちに声をかけてくれる。


「あ、俺は堅苦しいのは苦手だからこのままでいいよ。その代わり、ロッテとヴリトラを綺麗にしてやってくれると嬉しい」

「ちょ、ツクモ、いきなり何言ってんのよ」

「っ…………」(←嬉しくて倒れそうになっている)


 まぁ、勇者の奴隷がみすぼらしい服を着てたら格好つかないしな。


「というわけで、ロッテは女教師コス、ヴリトラは女医コスでお願いします」

「結局そういうオチか!」

「うおっ、指先でチョンてすんな! 服の上からでもピリッとして痛いんだよ!」


 ったく、ロッテのやつめ、俺のお茶目な冗談が通じないとは。

 と、クルリが俺の袖をくいくいと引っ張る。その上目遣いが破壊力高い。

 

「ツクモさん、ツクモさん。じゃあ、この絶世の美少女なクルリちゃんにはどんな服が似合うと思います?」

「囚人服と手錠と牢屋?」

「何でです!?」

「いや、いつか詐欺罪とかで逮捕されそうなんだもん、お前」


 頂きシスターくるりちゃん逮捕、とかニュースになりそう。


「申し訳ありません。クルリ様はお召し変えの前に、パロミデス皇女殿下からお話があるそうなので、皇女殿下の私室へお向かい下さい」

「皇女殿下が……?」


 お姫様に呼ばれることがよほど珍しいのか、クルリは訝しげな表情を浮かべて客間を後にする。

 ロッテとヴリトラも着替えのため部屋を出る。


 ――こうして俺たちは一旦バラけて式典会場へと向かうこととなるのだった。



        ◇


「――って、何で俺が捕まってんのじゃぁぁぁぁ!!!」


 前髪気にしながら侍女さん達に着いていったら、突然現れた兵士たちに手錠を掛けられてあっという間に国王の前に転がされた件。


「つーか、何でお前らまで捕まっとるんじゃぁぁぁ!!! お前ら、最強の悪魔と邪竜じゃなかったんかい!?」


「仕方ないでしょーが! アンタが可愛くしてもらえとか言うから……結構その気で行ったら、さらっとこれハメられちゃったんだから!」


 ロッテが指差すのは創星教のマークの入った首輪……と腕輪とネックレスと、アンクレットと指輪と……なんか沢山付けられてるな。

 ヴリトラも同様だ。


「これ全部、人間が作った異種族の力を奪う聖具なの! 一個、二個だったら平気だけど、これだけ着けられちゃうと――」

「性具?」

「アンタ、右ストレートでぶっとばすわよ!」


 お茶目なジョークも通じんのか。


お笑いそっち方面も調教してやらんといかんようだな」


 まぁ、アッチ方面も調教なんてしたことないけど……毒で身体触れないし。 


「そっち方面も調教って……ああああ、あなた、神聖な法廷で何の話をしているんですか!?」


 エロい話だと思ったのか、顔を真っ赤にして怒っているのはパロミデス王女。


「なんだよ王女様、そんなに慌てて……あ、調教とかそういうのに興味ある系の人?」

「な、なななな、だ、誰が調教なんて! 不敬罪で死刑にしますよ!!!」


 反応が過剰だな。余計に怪しいぞ。

 ……いや、でもそんな事よりさっき聞き逃せないことを言われたような。


「――ちょっと待って、さっき法廷って言った? 法廷って何!?」


 確かに周囲を見渡すと、物々しい。

 兵士には囲まれてるし、ロッテ達は力を制御されて身動き取れないし、王様はあの裁判官がカンカン鳴らすハンマーみたいなの持ってるし。


「これより裁判を始める」


 王様(白髭じじい)がハンマーをカンカンしながら、淡々と告げるし。


「だから人の話聞けよ! 何? 誰の何の裁判なの!?」

「この裁判は、被告ヤマダツクモが偽の勇者を騙り、人心を惑わした罪。更には、悪魔ロッテのしもべであるという疑いによるものです」


 パロミデスが冷たく言い放つ。


「俺はロッテのしもべじゃねえ! あっ、クルリ! お前、そんなところで黙ってないで俺の無実を証言してくれよ!」


 パロミデスの影に隠れてうつむいているクルリを見つけた俺は、彼女に助けを求める。

 だが、クルリは俺の方を見ようともせずにパロミデスの後ろに隠れてしまう。


「クルリ……?」

「シスタークルリに助けを求めても無駄です。彼女は既にあなたが偽の勇者であると証言していますから」

「なっ!?」


 そんなわけがない。

 裏表が激しい奴だってのは重々承知している。

 だけど、あれだけツクモ様、ツクモ様と熱心に宗教勧誘してきたクルリが、ここに来て急にそんな真逆のことを言い出すなんて……とてもじゃないが信じられない。


 もしクルリが本当に俺を騙すつもりだったのなら、あんな申し訳なさそうな顔で陰に隠れるわけがない。

 

『――簡単に騙されちゃって、ちょーウケるんですけど。今どんな気分ですかぁ? ザコ勇者さん♥』


 とか言って、真っ先に唾の一つも吐きかけて来るに違いないのだ! たぶん。


「ていうか裁判って俺はどうしたらいいんだよ!? ……弁護士は? 裁判官は? この国、法律はどうなってんのよ!?」


 玉座に座っている国王がカンカンハンマー持ってるけど、それって本来、裁判官が持つやつじゃないの?

 なんか欠伸あくびしながら、肩叩きに使ってるけど? 俺の命運がかかってるってのに緊張感無さすぎだろ、国王!


「この国の法を決めるのも、国を動かすのも、犯罪者を裁くのも、全ては国王の権限によって行われます」

「ちったあ、三権分立しろよ!!!」


 完全なる独裁国家じゃねえか!


「――パロミデス。偽勇者の罪状を読み上げなさい」


 国王のその言葉に、パロミデスは静かに頷く。


「罪状って……俺は何もしてねえよ! 第一、勇者だって俺が名乗ったわけじゃねえし! 周りの奴らが勝手に勇者の再来だ~って騒ぎだしたんだよ!」

「ですが、エトラスの夜のお店で『俺は勇者ツクモ様じゃ~ひゃっほおおおおい! シャンパンタワー入れちゃうぞォォォ!』と調子に乗っていた。と街の顔役からの証言も取れています」

「調子に乗ってすみませんでしたぁぁぁぁ!!!」


 街中がちやほやしてくれるから、そのムーヴに全力で乗っかっただけなんだよぉぉ! 嘘ついたのは悪かったけど、許してくれよぉぉ。

 ていうか、顔役ってあの自爆扇動ジジイか!? あのジジイ今度会ったら、ひげ全部まとめてガムテープで脱毛してやる!


「ってちょっと待てよ。根本的に、何で俺が偽物だって決めつけるんだよ! 大悪魔と邪竜と人異の契約交わしてんだぞ! 凄いだろ、伝説だろ。だったら本当に勇者かもしれないじゃん!」

「本物の勇者様は、既に聖剣アークを手に魔王討伐の旅に向かわれています」


「…………早く言ってよ、それ」

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