第36話 愛玩用のペットってのかな
ヴリトラの酸っぱい
俺たち勇者一行は、ついに第三新王都ガラティアに到着したのだが――。
「なぁ、王女様。どうしてこんな風に変装しなきゃいけないんだ? 俺たち勇者一行だろ? もっと歓迎されると思って、昨日から前髪ばかり気にしてたんだけど?」
俺たちはフードを深めに被り、周囲に気取られないように街の大通りを進む。
「前髪より、その下と、首から上を気にした方がいいんじゃないの?」
と、ロッテ。
「顔だよね? それ顔のことだよね!? ってか顔はいくら気にしても直らないから、せめて髪だけでも気にしてるんだろうが!」
って言わせるなよ、悲しくなる。
「そっか、そうだよね……ツクモかわいそう」
「ご主人様、かわいそう」
「ツクモ様、かわいそうですね」
「そんな風に皆さんで可哀想って言ったら、本当に可哀想じゃないですか」
「こいつら……」
上から、毒・竜・狂・姫の順番でディスられた。
「ツクモ様、申し訳ありません。今はまだ新たな勇者様が見つかった事を、国民には内密にして頂きたいのです」
「なんで?」
「それは……もうすぐ魔王軍に対抗するべく、大規模な反攻作戦が予定されているのですが、その際に行われる式典において、ツクモ様を大々的に紹介して部隊の士気を向上させたいと――それが国王陛下のお考えなのです」
「お、おおおおお、おおおおおおお」
テンション上がってきた。
国王に紹介されて、国民に勇者として紹介されるなんて、異世界転生の王道、一大イベントだ!
ついにここまで来ちゃったよ! ついにって言うか、俺ほとんど何にも苦労してないけど!
お城で『立てよ国民!』とか言っちゃうわけだ!
「こんなのを勇者って大々的に紹介しちゃって大丈夫? 国民絶望しない?」
「ロッテ《どれい》が、こんなのって言うなよ」
俺だって頑張って生きてるんだから。
「国民に挨拶はいいとして……でも、王都って割にはお城が見えないな。ていうか、第三新王都って何? 考えた人エヴァ好きなの?」
「それはお恥ずかしい話なのですが……」
パロミデス王女の話によると――。
王都パラミティアが魔王軍に陥落させられた後、人類は南下し、城塞都市グリティスを第二王都として軍の再編を行ったが、そこも半年前に陥落。
さらに追い立てられた人類は、大陸南方に位置するここガラティアまで下らざるを得なかったらしい。
ガラティアは元々は旧王国時代に建てられた砦を中心に作られた普通の街でしかなく……当然お城どころか、現状は大量の移住者の衣食住の確保でさえ苦労するとの事だった。
「聞けば聞くほど切羽詰まってるな……」
そう考えると、この前まで滞在していたエトラスの街は、ずいぶん余裕があったのだと分かる。
街の周りには農村地帯が広がっていたし、自給自足が成立していたのだろう。
戦時中の田舎の農村の強みと言ったところか?
「エトラスは創星教信者の街ですから。信じる者は救われる。信者にとっては、死も空腹も、恐怖の対象ではないのですよツクモ様」
「クルリさん、普通に心を読むの止めてくれる? てか、その話聞く限り、創星教の信者そのものが俺にとっては恐怖の対象でしかないんだけど!?」
すると、ロッテがポンと手を叩き「あーそっか」と声を上げる。
「創星教の聖都ヒューミストって、王都より北かぁ。魔王軍に聖都潰されたから、エトラスに創星教信者が大挙してきて……それであの街、あんな悲惨なことに……」
「悲惨とは何ですか、悲惨とは!? 私たちは、勢威を持ってエトラスの街を乗っ取り――ではなく共に歩む道を切り開いただけですよ?」
「乗っ取ってんじゃねえか!?」
あと、何となくだけど誠意の字が違うような気がする。
「ともかく、避難民による人口が上昇した上に、農業も盛んじゃないような、この第三新王都ガラティアは、現状酷く困窮してるってことか……」
王女の説明を受けた後だと、納得いく点が街の中にいくつもあった。
一番人通りが多いはずの日中なのに人通りが少ない。商店のようなものはいくつか目に入るが、明らかに数が少ないし、商品も豊富とは言えない。
衛生環境も良さそうには見えないし、それになにより――。
「妙にガラの悪い連中が多いな……」
見渡すとすぐに見つかる。
店の商品を脅して奪う傭兵グループ。
酒場の料金を踏み倒して、店主を足蹴にしている
「おいおい、俺たちはお国のために戦う軍人様だぜ。そんな俺たちに護ってもらうだけの愚図がよお、生意気にも金をとろうってのか? ああん!」
と、アニメや漫画でしか聞いたことのないやり取りまで、
「あの方たちは冒険者や傭兵ですね。お恥ずかしい話ですが、国王の命で大陸中から腕に覚えのある者を集めているのです。正直、王国の正規兵だけでは、魔王軍相手にはどうにもならないので……」
「だから、多少の素行の悪さには目を
「…………」
パロミデス王女は答えない。
国王の命令に異を唱えることは出来ない。だが、素直に受け入れることもできないといった感じだ。
「……でも、国王の命令だろうと……一介の冒険者が従わないのは仕方ないよな」
「ツクモ様、何を……?」
俺は被っていたフードを投げ捨て、酒場のマスターを足蹴にしている冒険者風の
「おい、そこの
「んだと……このクソガキ。俺を誰だと思ってやがる。シャドウリザード使いのバーナビーとは俺様のことだぞ!」
「シャドウリザード使いのバーナビー!? …………糞だっさ」
「て、てめぇ!」
バーナビーとやらが怒りのままにジャラリとその手に持った鎖を引く。すると、なんと自身の影から黒い闇を
人間ひとりなら軽々と丸呑みしてしまいそうな大きさのソレに、俺は一瞬たじろぐが、所詮はトカゲ。
俺の
と、ふと……気になるモノがあった。
男の手にもう一本の鎖が握られていたからだ。
鎖の先は、男の影に沈んでいる。
……もう一匹、何かを隠していやがるのか?
「何だよ、出し惜しみかよ。もう一本の鎖の先の魔物も出しておいた方が良いぜ。負けた時に、あの時は本気じゃなかったとか言われたらたまらねえからよ」
「あ? ああ、こっちか? こっちはそういうのじゃねえんだよ……」
下品な声で笑う馬面バーナビー。
「愛玩用のペットってのかな。へへ、まぁいいか。オメエ見るからに弱そうだし、30秒で似顔絵描けそうな顔だし、どうせ童貞だろ? 冥途の土産にいいもん見せてやるよ」
「だれが30秒童貞だコノヤロー! ……って、なんだ? 何なんだよ……それは」
馬面バーナビーがもう一本の鎖を陰から引き揚げたその時。
影から出てきた鎖に繋がれたソレを見て、俺は絶句する。
「人間の……女の子?」
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