第18話 さっきから魔女裁判のやり口!

 ――俺とロッテは人異の契約を交わした主従関係である。


 そう説明されたクルリは、しばらく考え込んでから創星教の教義について語り始めた。


「――人異の契約は創星主様が我ら人間に与えて下さった神聖な力。悪魔ロッテ、お前がその力の支配下にあるというのであれば、クルリがぶっ殺……浄化する必要はありません」


 クルリ・クルックーと名乗ったこの少女は、この世界で最もメジャーな宗教。

 創星教の大神官なのだという。


『数ある種族の中で人間こそが最も創星主からの寵愛ちょうあいたまわった種族であり、人間が他種族より力で劣っているのは創星主からの愛の試練である』


 ――というのが創星教の教義らしい。


 結構、危険な思想な気もするが……今はお口チャック。

 滔々とうとうと教義について語っているクルリに、変に口を挟んだらマジで五秒でしょされそう予感がするから。


「悪魔族は、我々創星教が最も忌むべき存在です。いえ、創星主様が我々人間に与えて下さった、乗り越えるべき最大の試練なのです」


「おいロッテ。お前ら悪魔って創星教(?)の人たちに何かしたのかよ? めっちゃ嫌われてんぞ?」


「何もしてないわよ! でも何故か目の敵にされるのよ。悪魔って自由主義だから、あんまり創星主とか興味ない奴が多いんだけど、それなのに創星主から貰った力が強力なのが気に入らないみたい」


「あーだから〝悪魔は創星主が敢えて作った試練〟ってことになってんのか……」


 創星主を崇拝する自分たちが最弱で、崇拝しない悪魔が最強クラスってんだから納得いかないのも無理はないかもな。


 なんか創星教っての自体、最弱設定にされた人間が、その事実から目を背けるための理論武装するために作った宗教に見えてきた。


 ……マジで人間辛いな。


「そこ、無駄口を叩かない!!!」

「「は、はいっ!」」


 クルリに注意されて、つい返事してしまった。

 なんか、ちっちゃいんだけど、美人教師に怒られてるみたいでちょっとドキドキするな。

 

「――じゃなくて、おい何でロッテまで返事してんだよ。お前、大悪魔なんだろ? こんなちっちゃい子、本気出せば何てことないだろ?」

「うっさいわよ、この世間知らず! 創星教の信者って本当におっかないんだからね!」 


 小声でガクブルするロッテ。

 まぁ、あの自爆魔法が怖いんだろうな。

 その気持ちはよく分かるぞ。


「ツクモさんと言いましたね」

「お、おうよ」


 クルリが俺を値踏みするように、つま先から頭の先まで視線を動かす。


「あなたがそこの悪魔との間に人為の契約を結んだと言うのであれば、それは創星主様の試練をあなたが乗り越えたという証明となります」


「ふむ、なるほど」


「なので、クルリはこれ以上あなた達を害することはしません。街の人たちも新たな英雄の誕生としてあなたを歓迎してくれるでしょう」


「おお」


 ガチで殺す気で襲ってきたやつらに歓迎されてもあまり嬉しくないけどな。


「ただし、人異の契約の話が本当であれば――の話ですがね」


「なっ、まだ疑ってるのかよ! ほら、ロッテの胸元に契約の紋章があるだろ!」


「確かにそこの悪魔の身体には契約の紋章あるようです。ですが、高位悪魔と人異の契約を結んだ人間の話など聞いたことがありません」


 まじか、高位種族と人異の契約をした人間は過去に居たってロッテは言っていたが、高位の悪魔と契約した奴はいないのか。


「ですので、そこの悪魔が何かしらの方法で契約の紋章を偽造している可能性も否定できないのです」


「ロッテが紋章を偽造した上で、俺を使い魔にして操っているって言いたいのか」


 本当に疑り深い奴だな……。


「なので提案があります。ツクモさん自身の行動で無実を証明して欲しいのです」


「俺の行動で無実を証明って……どうやって」


「創星教には古代より悪魔の使いを見分ける方法が伝えられています。これをご覧ください」


 クルリは懐から銀色の燭台を取り出す。


「これは創星の燭台。この燭台に灯された炎には聖なる力が宿り、魔の者以外を燃やすことは無いのです」


「へえ、不思議だな。で、俺がその炎で火傷しなければ信じてくれるってわけだな」


「ええ、そうです。では、魔法で燭台に火を灯して……熱っつ! では、この炎に手をかざしてください」


「ちょっと待てや! 今、お前、熱いって言っただろ! 言ったよね!」


「イッテナイデスヨ?」


「じゃあ、ちょっとその手見せてみろよ! 絶対ちょっと赤くなってるだろ!」

「では、この炎に手をかざしてください」

「リピートすんなや!」


 駄目だ、会話する気がない。

 都合の悪いことはとことん見て見ぬ振りするつもりだな。


「ちゃっちゃと、手ぇかざしなさいよ。火くらい鼻摘まんで息止めてれば我慢できるでしょ?」

「嫌いなもん食うときのやり方じゃ、人類は火を克服できねえんだよ!」


 くそっ、ロッテめ、話が長くて飽きたのか欠伸あくびしてやがる。

 この騒動の原因が自分だって自覚してんのか?


「なぁ、クルリさん? その燭台以外に俺の無実を証明する方法は無いのかな?」

「それなら、エトラスの街の近くに創星の湖があるんですけど……」


「ほうほう」


「悪魔の使いは重りをつけて水に沈めても悪魔の力で浮かんでくると言われています。なので、水から浮かんで来たら有罪。沈んだままなら無罪という――」


「――さっきから魔女裁判のやり口!」


 それ中世の魔女裁判じゃん! 

 浮かんで来たら有罪で死刑。沈んだままなら無罪だけど死ぬ。

 どっちに転んでも死刑の裁判だよね!


「大丈夫ですよ。聖なる水ですから。悪魔の力に侵されていなければ死んだりしません」

「さっき、聖なる炎で『熱っつ』って言ってたやつが信用できるか!」


 俺が必死にツッコミを入れていると、再びロッテが退屈そうな声を上げる。


「ちゃっちゃと、沈んできなさいよ。水くらい鼻摘まんで息止めてれば我慢できるでしょ?」


「さっきと同じセリフなのに、ちょっと内容が嚙み合ってるのがムカつくな!」

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