第14話 俺は奴隷商じゃねーーーっ!

「いやーロッテ。偶然馬車が通りかかってくれて助かったな~」


「……」


「しかも、無料ただで乗せてくれるなんてラッキーだな。ロッテの日頃の行いが良いからじゃないか?」


「…………」


「もうすぐエトラスの街に着くらしいぞ。本来なら一週間くらいかかる道のりらしいけど、こんなに早く着けるのも全部アスタロッテ様のお陰だな~」


「…………ぐすん」


「だから、もう昔のことは聞かないからぁぁぁ、ゴメンってぇぇぇぇ」


 この通り謝るから、すみっこで泣きながら体育座りするのやめてくれ。


 馬車に乗せてもらった昨日からずっとこの調子だぞ、今朝も起きた途端に悲鳴を上げるし……さすがに怖すぎるだろ。


 ていうか、あんな森の中でひっそりと暮らしていたのも、呪毒体質のせいだったんだろうな。

 仲間に遠ざけられていたのもあるだろうけど、もしかしたら迷惑かけないように自分から距離を置いていたとか?


 ――なんて考えていると、


「おい、兄ちゃんたち。見えてきたぞ、あれがエトラスの街だぜ」


 御者のおっさんが威勢よく声を上げる。


「おおおおお、やっとこさ見えてきたな。俺の英雄譚が始まる舞台が!」


 ロッテが封印されていた遺跡をってか二日。

 やっと見えてきた街に俺は期待を膨らませる。

 ってか、一番近い街でもこれだけ時間が掛るんだな。

 さすがファンタジー世界。


 迷いの森を抜けた後、偶然通りかかった行商のおっさんに馬車に乗せてもらえなかったらと思うとぞっとする。


「最初の街かぁ。楽しみだ。楽しみすぎるぜ~」


 ロッテの話を聞いてからというものわくわくが止まらない。

 俺様の奴隷であるこのアスタロッテは、見た目こそ頭の軽い痴女でしかないが、魔王軍の幹部。

 四天王(ダサい)の一角らしいからな。


「ふふ、ふははははは。新たな英雄の誕生を、恐れ敬う町の人間が目に浮かぶようだぜ!」


「何が英雄よ。あああああ、どうしてこんなことに。夢じゃなかったのコレ。……こんなの絶対悪い夢だと思ったのに、目が覚めても覚めない悪夢って何? 何なの!」


 ああ、だから今朝起きた後、悲鳴上げてたのか。

 この体育座りは、過去のトラウマだけじゃなくて俺のせいでもあったのね。


「目が覚めても覚めないなら、それは現実っていうんじゃないか?」

「そんな現実いやぁぁぁ。私ってなんて不幸なのぉぉぉ」


 叫ぶロッテ。

 さすがに呆れるしかない俺。

 そんな俺たちを見ていた行商のおっちゃんが一言。


「なぁ、兄ちゃん。その若さで奴隷商とか……田舎の両親も悲しんでると思うぜ」


「俺は奴隷商じゃねーーーっ!」 


 ひどい勘違いだ。


「ロッテ、お前も叫ぶのやめろ! おっさんが、あの若さで奴隷商とか世も末だな……みたいな顔でこっち見てるから!」


 一応、ロッテには正体がバレないように深めにローブをかぶせている。

 が、こんなに騒がれたら街に入る前に正体がバレて大騒ぎになってしまう。


 ロッテの正体をバラすのは冒険者ギルドの中と決めていた。

 それも人が一番集まっている時間帯。


 その理由はもちろん、俺が英雄として目立つために!


「とにかく、おっさん。俺は奴隷商じゃないから! こいつも……まぁ、俺の冒険の仲間みたいなもんだよ。だから気にしないでくれ」


「冒険の……仲間? じゃあ、兄ちゃんたちは冒険者なのかい?」


「まぁね。その卵っていうか……未来の英雄ってやつかな」


「そうか冒険者……か。こんなご時世に、まだ若いのになぁ……」


 しみじみ呟くおっちゃん。


 こんなご時世……どういう意味だ? 

 いや考えるまでも無いか。

 何しろ魔王軍と戦争中らしいからな。


 ただでさえ、情勢不安なのに冒険者とくれば危険度は一般人の比ではないのだろう。 


「危険な仕事だが一山当てたときはでかいしな。とにかく頑張んな。エトラスの冒険者ギルドは街に入ってまっすぐ行った先だからよ」

「うっす」


 ――そんな会話から十分後。


 俺たちはエトラスの街、唯一の冒険者ギルドの前に到着した。

 

「さあ、ついに冒険者ギルドだ」


 この地から、山田ツクモ様の偉業、覇道、ハーレム道が開かれるのだ。


「ふはははは。俺の(ロッテの)力に驚き騒めく有象無象の冒険者たちの顔が目に浮かぶようだぜ~」


 と、肩を鳴らしながら、俺はロッテを引き連れ冒険者ギルドの門戸を開く。



 ――そう。この時の俺たちはまだ知らなかったのだ。

 ――この直後に起こる、身も凍るようなあの惨劇を……


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