第7話 最後は爆死します

 ――風呂上り、アスタロッテに畳ませておいたジャージに袖を通す。


「風呂から上ったら、女の子が畳んでくれた服が置いてあるって最高だなぁ。悪魔娘だけど」


 あれだけ犬に噛みつかれ穴だらけだったジャージに損傷はなかった。

 これはアスタロッテがつくろってくれたというわけではなく《残機99》の能力の仕様らしい。


「服が破れたり、汚れたりしたら一回死ねば綺麗になるのか。洗濯要らずだな、このチート能力」


 服を綺麗にするために死ぬとか、普通にあり得ないけど。


 命の数は無限じゃない。

 実際、たった半日で俺の命の残機は七十四まで減ってしまった。

 文字通り『いのちだいじに』で、節約しないとだ。


 それはそうと、なんかジャージが肌に触れてるところがピリピリするような気がするな……うーん、気のせいか?


「あ、ご主人様。お風呂あがりました? ご命令通りお食事できてますよ」

「おー、まさか命令通り素直に作って待っているとは意外だったな」


 風呂上がりの俺を笑顔で迎えてくれアスタロッテ。

 テーブルには見たことのない、でも普通に美味しそうに見える料理の数々が並んでいる。


「おおお、これが夢にまで見た女子の手料理!」

「泣くほど!?」


 泣くほどなんだよ。

 お前には分かるまい。


『俺ってもしかして、このまま一生彼女も出来ないで死んでいくのかな』みたいな恐怖に苛まれながら生きている非モテ男子の苦しみなんて。


「しかもめちゃくちゃ美味そうじゃん。お前って料理まで出来んの? すげえじゃん!」


「ふ、ふふん、まぁね。超上級悪魔のアスタロッテ様の手に掛かればこんなもの、お茶の子さいさいよ!」


「お茶の子さいさいって……ワードセンスお婆ちゃんか」


 それにしても料理褒められてめっちゃ嬉しそうにしてるな。

 何だチョロインか?

 

「それはそうと、風呂の時はあんなに反抗的だったのに、妙に素直だな……なんか怪しくないか?」


 わざとらしいくらいにニコニコしているアスタロッテ。

 その頬が少しヒクついている。


「まさかお前、食事に毒とか入れてないだろうな」

「そ、そんな滅相もない。私がご主人様のご飯に毒なんて入れるはずがないじゃないですかー。えへへ」


 う、噓くせえ。


「契約に誓って嘘はついてないな?」

「契約に誓って毒なんて入れてませんよ」


 アスタロッテの紋章が光る。

 うーん。嘘はついていないようだな……。


 悪口を言ったりと結構ゆるい契約みたいだが、しっかりと命令すると胸元の紋章が光り、それによって一切逆らったり、嘘を吐いたりできなくなることだけは間違いなさそうだからな。


 俺は怪しく思いながらも、ロッテと共に木製のテーブルに着く。


「ところで、もし俺の命令に逆らおうとしたら、お前ってどうなるの?」


 その言葉に、顔を真っ青にしたアスタロッテは涙ぐみながら素直に答える。


「死にます……全身の穴という穴から、身体中の血液を噴出して、最後は爆死します」

「何で爆死!?」


 いくらなんでもグロすぎるだろ。


「人間と悪魔との〝人異の契約〟なんだからそれくらい当然でしょ! 人異の契約は、互いの力の差が大きければ大きいほど、契約を反故ほごにした時の代償が大きくなるんだから。アンタそんなことも知らないの?」


「いや、まったく。っていうか、その人異の契約? ってのも初耳なんだが」


「うそ、人異の契約を知らない? 人間族なら誰もが持っている、創星主そうせいしゅに与えられた特有恩恵なのに?」


「人異の契約に創星主、特有恩恵?」


 困ったな。異世界だけあって、当たり前のように俺の知らない単語がポンポン飛び出してくる。

 この調子で、毎度毎度驚かれるのも面倒だな。


 こいつにだけは俺の素性を話しておくか……。


 俺が異世界から来たことはあまり話したくはなかったが、こいつはもう俺に逆らえないわけだし、危険性はないだろう。


「実は俺、異世界から来たんだよ。だから、そういうこの世界の常識は知らないんだ……って、何だよその顔は」


「いや、ご主人様。異世界から来たとか言っちゃう痛い系……いや、可哀そうな人だったんだなと思って……」


「痛くも可哀そうでもないわ! 本当に異世界から来たんだよ!」


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