第6話 女の子の部屋って初めてだから、落ち着かなくって
「ああああうううう。イヤだ、いやだよぉ」
「あーいい湯だな。おーい、これジャグジーとか出来ないのか? その魔法で空気をブワーみたいな」
「なんで、どうして、あの時ちゃんと死んだはずなのに……なんで生き返って……ひぐっ、ぐすっ」
「アスタロッテさんや、ちょっとお湯がヌルくなってきたんだけど。ちゃんとしろよな」
「この…………」
泣きながらも、ぐぬぬと憤怒の表情を浮かべるアスタロッテ。
「――そうですかご主人様、ヌルいですか。そうですか。じゃあこのまま温度2000度くらいに上げましょうね、ご主人様!」
「泣きながら風呂を溶鉱炉にしようとすんな!」
ていうか、コイツやろうと思えばこの場を溶鉱炉に変えることもできるのか……マジでおっかねえな。
ま、今は俺に逆らえないから怖くないけどな。ふはははは。
「さっきまでの温度をキープするように。それと、あとで背中でも流してもらおうかな~」
「くっ、この調子に乗って……」
異世界に来て早々いい奴隷を手に入れたものである。
ご主人様たる俺のために、浴槽の横に正座して甲斐甲斐しく風呂の温度を調節してくれているのは、超上級悪魔(自称)のアスタロッテ。
何が良いって、自分から言い出した〝人異の契約〟とやらで俺に絶対服従なのが実に素晴らしい。
しかもエロイ。
顔も可愛いし、ボディはわがままだし、服は露出魔だし。
「そんな嫌そうな顔するなよ」
「するわよ! 何でこのアスタロッテ様が見ず知らずの男がお風呂入ってる姿を見てなきゃいけないのよ!」
「だって、お前が一緒に居たいって言うから」
「言ってない! お湯の温度調整なんて繊細な魔力操作はさすがに近くじゃないとできないの! だから嫌だって言ったのに、アンタが無理やり」
「アンタじゃなくてご主人様な」
ぴしゃりと言い放つと、アスタロッテの胸元の紋章が怪しく光り――
「くっ……ご、ご主人さま……ああああああ。何で、なんでよぉぉぉ」
やはり俺が命令を下すと、あの紋章が光ってアスタロッテは俺の言うことを聞くしかなくなるらしい。
「何で私が……私、魔王軍の大幹部なのに。四天王なのにぃぃぃ。どうしてこんな、こーーーーんな、三十秒で似顔絵が描けそうな、造形の浅いパッとしない男の使い魔にされるなんてぇぇぇぇ」
「失礼な! 人をモブ顔みたいに言うんじゃねえ!」
絶対服従の割には悪口が酷い。
それに、そこまで号泣されると、
「ってか、この世界にもやっぱり魔王とか居るのか。しかもお前が幹部で四天王って…………四天王ってワードセンス古くね? 名乗ってて恥ずかしくない?」
「余計なお世話よ!」
にしても魔王か。魔王……いい響きだ。
ふはは、王道異世界ファンタジーって感じでワクワクするな。
「で、異世界ファンタジーなのは分かったけど……何で、魔王軍四天王が居る遺跡の中にこんな風呂があるんだ?」
そう言いながら俺は周囲を見回す。
清潔感のある白い壁に、広々とした陶器製の浴槽。
備え付けの棚には、石鹸だけでなく、造花の置物が飾ってあって……まぁ、全体的に可愛らしい風呂場だった。
「てかさ、アスタロッテ。ここ、可愛くね? 何のための隠し部屋なんだ?」
俺はお湯でちゃぷちゃぷ遊びながら問いかける。
「答えたくないです、ご主人様」
「答えなさい、奴隷さん」
すると胸の紋章が怪しく光り――以下略。
「くっ……わかり……ました。ご、主人様……」
毒虫と苦虫両方を噛み潰したかのような顔で俺の質問に答え始めるアスタロッテ。
絶対服従。実に便利である。
「ここは表向きは遺跡だけど、実際は私の家なの。だから私の居住空間があるの、何か文句でも?」
「いや、文句はないけど……じゃあ何で、外観はあんなおどろおどろしい遺跡風なんだよ」
「だって、人間の冒険者を迎え撃つのに、魔王軍の四天王が森の中の可愛らしい一軒家に住んでたら格好がつかないじゃない」
「意外と仕事熱心なんだな、お前……」
だから祭壇の裏の階段を降りたら、急に女の子らしい生活感のある居住空間に出たのか。
なるほど、なるほど。そうか、ここはコイツの家なのか……悪魔なのに可愛い趣味してんな。
「ところでご主人様。さっきから何をキョロキョロしているんですか?」
「いや、女の子の部屋って初めてだから、落ち着かなくって……」
「部屋どころか、無理やりお風呂にまで入ってるくせに今更何言ってんのよ!」
「いや、疲れたしひとっ風呂浴びたいなと思ったから」
「うわーん、頑張って働いて建てたマイホームだったのに。まだローン20年残ってるのに~。こんな中身も見た目もパッとしないザコ人間を招待するために建てたんじゃないのに~」
「絶対服従ってわりには、結構悪口言うのな!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます