第2話 この世の男子高校生はすべからくエロ猿なんだよ

「足が着くはずの川底に沈んでいくキミの姿にその場にいた誰もが思わず笑いを――」


「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!」


「なんで、何でだよ。俺、S―1グランプリ優勝じゃなかったのかよ? 『カッコいい死に様グランプリ』で選ばれたんだろ?」


「え、何勘違いしてるの? S―1グランプリってのは『笑える死に様グランプリ』のことよ?」


「コンプライアンスどんだけだよ、お前ら!」


「いや、天界のコンプライアンスって昭和で止まってるからさ~」


「知らねえよ!」


「だって、天界って娯楽少ないのよ。だから、キミの死に様面白過ぎて大バズリ中なのよ! 死に様動画にアップしたら二十四時間で二百万再生突破したからね!」


「人の死に様を娯楽として消費してんなよ!」


 ってか、死に様動画って何だよ。

 ……ツッコむ気力さえなくす不謹慎さだな、むしろ一周回って観てみたくなったわ。


「まぁまぁ、でもそのお陰でキミは選ばれた。これからキミを待つのは異世界チート無双なんだから!」

「…………マジで?」


 異世界。チート。無双。

 それは……正直そそられる響きだ。


「マジのマジよ。嬉しいでしょ? 十六年も生きて、彼女どころか女の子と手を繋いだこともない。あのまま何となく生き続けても一生童貞だったキミにとって、こんなに心躍る話は無いでしょう?」


 確かに……何度も夢見た異世界転生。

 しかも、ご丁寧にチート能力も付けてくれるとか言ってるし。これは美味しい話かもしれない。


「……あれ? 俺あのまま生きてても一生童貞だったの?」


 もう死んだ身だけど、知りたくなかった。泣きそう。

 てか、可哀そうに……みたいに肩を叩くんじゃねえよ。


 あわれみの顔をヤメロ。この痴女天使。



        ◇


「まぁ、もう死んじまったしな。いきなりでビビったけど、異世界か……悪い話じゃないかもな。でもいいのかよ、こんなオモシロ死に様男を選んで」


 正直、俺は何の取り得もない、ただの高校生だぞ。


「魔王と戦ったりとかするんじゃないのか? もっと強そうなやつとか選んだ方が良いんじゃね?」

「その点は問題なし。むしろ、ここ数年でキミは一番期待の新人だと断言できるわ」

「うそ……俺が期待の新人?」


 もしかして、俺には自分でも気づいていない才能が?

 地球では本来の力を発揮できなかっただけで、魔力の親和性が高いとか、何か異世界で役に立つユニークスキル持ちだったりするのか?


「キミみたいに面白い人材、異世界に送り込んだら絶対バズると思うのよね!」

「…………ちょっと待て。バズるって何だ?」

「いやだから、転生動画で配信するのよ。死に様動画と並んで天界で大人気の映像コンテンツね。何しろ天界って娯楽が少ないからさ」


 死に様動画だけに飽き足らず!?


「動画バズらせるための異世界転生って、動機が不純すぎるだろ!?」


 何なの? 俺、お前らに娯楽を提供するために異世界に行くの?


「動画バズらせる前に、バグってるお前らの頭をどうにかしろや!」


「仕方ないじゃない。私たち天使にもノルマがあるのよ。おもしろ人間を見つけて異世界に送って神を喜ばせなきゃいけないの」


「ノルマって何? お前ら天使って営業職なの?」


「だからお兄さん、サクッとチート能力選んじゃって。異世界行っちゃいましょうよ。絶対、今の何倍も稼げるようになるからさ♪」


「キャバクラのスカウトみたいな誘い方すんな!」


 あと、おもしろ人間で悪かったな!


「ちなみに異世界行くの断ったら、キミの来世ミミズね。その次はおけら。最後はあめんぼね」

「シンプルに脅迫! ってか最後って何だよ! アメンボの先は!? 俺の魂、滅せられんの!?」


 くっそー。

 可愛い顔してえげつない。


「要するに選択の余地は無いってことじゃねえかよ」


 やっと気づいたか、って顔でムフフ笑いしてやがる。

 この痴女天使マジ殴りてえ……と言いたいところだが、


「いいぜ。異世界でも何でも行ってやろうじゃねえか!」

「あら、意外に素直」

「まぁな。どうせ死んだ身だ。しかも、選択肢は無いような物。だったら、ここでウジウジ悩んだって時間の無駄。スマートじゃねえだろ」


 ――と、『やれやれ仕方ないからやってやるよ』という感じで言ってみたが、実はすでに俺の心は夏休み目前のわくわく小学生ばりにテンションが上がっていた。


 だって俺、異世界転生物のアニメとか大好きだもの。

 なんだったら、悪役令嬢にだってなりたいくらいだからネ!


 というわけで、夢にまで見た異世界転生が俺を待っているというなら、行かないという選択肢はないのである。

 ただ、こんな騙し討ちみたいなやり方は気に食わないが。


「ご期待通りバズってやるよ! チート無双して、魔王ぶっ倒して、俺だけのハーレム建設してやるよ!」

「よっ、さすが男子高校生! 思考が単純エロ猿!」

「この世の男子高校生はすべからくエロ猿なんだよ。覚えておけ!」


 そんな小競り合いをしばらく続けた後――


 ちゃっちゃと転生準備しますかと、天使が取り出したのは一枚の紙と十面のサイコロが二つ。


「というわけで、キミの能力はこのサイコロで決めてもらうわ。一発勝負よ。出た目に応じたチート能力があなたのものになるの」

「へえ、サイコロか……ずいぶんとアナログなんだな」


 前に動画で見たTRPGってやつみたいだ。

 いいね、サイコロ振ってキャラメイク。雰囲気がある。それに、ちょっとやってみたかったんだよなTRPG。

 友達居ないからできなかったけど。


「アナログがお気に召さないなら、スマホのアプリで決めることもできるけど、そっちの方が良い? 簡単ワンタッチでキャラメイク」

「やめろ、せっかくの雰囲気が台無しになるだろ!」


 スマホを取り出した天使をすぐさま静止した俺は、感触を確かめるように二つのサイコロを握り締める。


「こういうのはさっさと済ませるに限るんだよ。あくまで確立、運の世界。あーだこーだ考えたって運命は変わらねえからな!」


 なんてちょっと格好つけながら、俺は二つのサイコロを床に転がす。


「――へえ、面白いの目が出たわね」


 出た目は9と9。

 俺は女神の広げた紙から、その出目に対応する能力を探す。


「……これが俺の能力……《残機99》。何だこりゃ?」

「その名のとおりよ。今この時から、山田ツクモ、キミの命は一つではなく、99個となった」

「99の命? なるほど、だから《残機99》ってか……」


 ゲーム脳とラノベ脳のダブル所持者である俺は、すぐさまその《残機99》の意味と、その有用性を理解する。


「おもしれえ。回数制限があるとはいえ、復活や不死ってのは異世界転生物における王道チート能力」


 目に浮かぶようだぜ。

 死ぬ度に、失敗の原因を探り、最適解を導き出し、絶体絶命の困難を乗り越えていく俺様の雄姿。


 おいおいおいおい、なんか格好良いじゃねえの。


「なるほど《残機99》か。頭脳派の俺に打って付けのチート能力じゃねえか」


 これならやれる。やってやる。

 良いことなんて何一つない人生だった。けど、これからの俺は違う。

この《残機99》を駆使して異世界で一発逆転だ!


「見てろよ。悪魔っ子とか、ドラゴン娘とか、金髪ロリとか、くっころ騎士とか侍らせて、楽しく愉快な異世界生活始めてやるからなーーーっ!」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る