第3話:あたしが戦う理由〜人類の尊厳? 違うよ、食べるためだよ。
「未成年者がなんだってぇぇぇッ!」
あたしは戦車に乗って、ステンレスのゴキブリを
アパートの家賃も学校の授業料も無料だった。けれど食べる為には、お金が必要だ。
働かざるもの食うべからず。そんな格言が、前の世界にはあったっけ。
「生きてくのって辛いわよねぇ」
レイナに同意を求めたが、彼女は冷たい微笑で「敵を殲滅して、みんなでお船に帰艦するわよ」と戦場のリーダーっぽいセリフを吐いた。
そういう意味ではないのだが……照準モニターはゴキの油でベタベタだ。脚みたいなのも貼りついてる……うわぁ、動いてるよ、見たくもない!
六号戦車は一旦「こいつら敵!」とモニターに表示されるコンソールでグループ指定してやると、あとは勝手に敵認定して砲撃する。
その後のモニター画面は敵の状態を人間が知るためだけの存在となる。
だから見なくてもいい。
「六号ちゃん、ゆうしゅぅぅっ」
グガガガガッ!
ゴキのレーザーが装甲板を跳ねた。車体がくるくる二回転、三回転、土煙に覆われながら止まった。
「アリス!」
操縦桿を握ったまま気を失っている。
「あたしが操縦を代わるから、アリスを引っ張り上げるの手伝って!」
最前部の操縦手座席──円形の壕の中で動かなくなった金髪碧眼の美少女を、レイナと一緒に「よいしょ」と引っ張り上げた。ちっちゃい躰でとても軽い。あどけない顔だ。ほっぺもぷにぷにしていて肌もきめ細かい。
「わたしも、お姉さまたちと同じ戦災孤児なんですぅ」
アリスとはじめて会った日の夜。
三人が新型の六号へ配属となり、ガレージで少しだけ夜更かしした。
彼女はとつとつと身の上を語った。
もちろん、異世界から転移してきたわけじゃない。正真正銘、本当の戦災孤児だ。両親は、ともに他界していた。
だから「クルーは家族だよ」と答えた。目を輝かせていた。
「こんなキモい連中なんか蹴散らして、あたしたちの潜水艦へ帰ろうね」
額にキスをしてからリクライニングモードにした砲手席へ寝かせる。
「んで、どこまで走ったらいいわけ?」
車長席に戻ったレイナから命令を待つ。
「対岸のポイントへ向かうわ。そこで
「
会話中も六号の滑空砲は自動迎撃モードになっていて、急速接近する全てを敵として砲撃していた。ある意味、この戦車もゴキ軍団と同じ自律型ドローンみたいなものだ。
そんな死屍累々、ゴキの屍をキャタピラで踏みつけながらの時速80キロ。
普段は強気の我が車長さまも美しい黒髪を車内に引っ込め、六号の分厚い天蓋を閉めた。
「レイナ、自分の目で目視確認はしないのぉ?」
アクセルを踏み込みながら後部座席へ尋ねる。
「冗談言わないで」
頬を膨らませて睨まれた。
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コンビニのバイトからクリーニング屋の受付まで色々やった。
でも、脳裏をよぎるのは元の世界の、だらけた生活。
朝は遅刻寸前まで思いっきり寝て、朝食はパンを咥えてダッシュ。授業中はこっそりパック牛乳をストローで吸いあげ、お昼はクラスメイトと一緒にお弁当のツツき合い。放課後は部活で汗かいてコーラをがぶ飲み、帰宅してから夕飯……なんか食べてばっかりの青春だわね。
あたしの一念が通じたか、ミリタリー・エリア──軍事施設での仕事にありつけた。
政府の偉い人にコネが出来たら、帰れるチャンスもあるんじゃ無かろうかと。動機は単純だった。
最初は食堂の皿洗い。
そこの壁に貼られたポスターで「戦車」の存在を知った。
『占領されている僕らの大地を取り返そう!』
そんなキャッチフレーズで戦車乗りを募集していた。
あたしは、原付の免許を持っていた。原付だって車には違いなかろうと──だって戦車乗りになれば『お日様』の下に出られるんだよ!
「「あー、あなた!!!」」
教習所の初日。
驚いたね。ふたりで顔を見合わせ同じ声をあげた。
そこにいたのは前の世界の同級生だった。
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「んなろぉぉぉッ!」
突撃してくるゴキ軍団を蹴散らし、砲撃し、粘り気のある体液でどろどろになりながらも六号戦車は疾走する。時速80キロ。いくら俊敏な脚でも追い付くまい。
ところがである!
ゴキたちは空を飛んで──あの忌まわしき記憶の中にある『黒いG』とおなじ、背中の装甲板の下半分が横にスライドして羽になった。さらに、その羽下に仕込まれたジェットで突進してきたのだ。
「空を飛ぶなんて反則だーっ!」
数十、数百匹のステンレス色のゴキブリが轟音をたてながら体当たりしてきた。
ガンガンと外から金槌で叩くような音が車内に響く。六号の複合装甲もこれではいつまで保つかわからない。
「穴が空いたら……」
あたしの不安を聞き漏らさず、レイナが「ここにいる3人ともレイプされるわ」と呟いた。
そうなったらアリスだけは守ろう。そして……レイナを囮にして逃げよう。
閃光ッ!
グガガガンッ!!!
車体が一瞬浮き上がりキャタピラが空回りする。エンジンが異常な音をたてた。操縦席の車外モニターは土煙で何も見えなくなる。
「レーザー?」
空飛ぶステンレスのゴキブリたちがレーザー攻撃をかけてきた!
滑空砲で反撃しながら、とにかく走り続ける。前が見えないまま「あーッ、あーッ、」叫びながらアクセルを踏んだ。広い土砂の大地だから木にぶつかったりは無い……はず?
「止まっちゃだめよ」
レイナが声を荒げる。
わかってますよ、車長さん。止まれって言われたって止まるもんですか。
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