文章賞
文章賞は『The New American Dream(作者:古魚)』です。
作品リンク→https://kakuyomu.jp/works/16817330653620760873
○愚弟・評
当作品に関しては、はじめ、内容がマニアックで評価がしづらかったというのが本音です。面白いとは思うけれど、私自身の歴史の知識が豊富ではないこともあり、十全に楽しめている自信がなかったです。
しかし文章賞を選考するにあたって全作品を読み返し、実は一番がよかったのがこちらの作品ではないかという結論になりました。
候補の作品はいくつかありました。
圧倒的に文章が完成されていた『赤ずきんとオオカミくんはハッピーエンドを果たしたい!(作者:加峰椿)』を推したい気持ちが個人的にはありましたが、設定の特殊さに対して理解のしやすさが足りていないと感じました。
『残春(作者:夜咲影哉)』は難しい表現を用いながらも内容が理解しやすく、巧みな文章力が光る力作でした。しかし改行をほとんど用いないストロングスタイルではさすがに目が滑るという結論に。読めば理解しやすい文章なのですが、読むのが一番のハードルになっていました。
抜群の読みやすさでは『世の中いろんなヤツがいる(作者:外套ぜろ)』、キャラの心情の分かりやすさでは『前世ではコミュ症だった俺、漆黒剣聖に転生する。 ~陰キャだった俺とポンコツ元駄女神の異世界セカンドライフ~(錦木れるむ)』や『10年ぶりに再会した幼馴染と、同棲することになった。~失恋したら、可愛くて優しい幼馴染に溺愛される生活が始まった件について~(作者:時雨)』などが挙がりました。
ただ総合的に考えて、キャラの心情だけでなく周囲の状況が理解できる文章までも書くことができていた古魚氏の作品が相応しいと判断いたしました。
キャラが考えていることをべた書きすることは容易ですが、主人公たちの周りで何が起きているのかを理解できるように書くことは難しいです。当作品はいわゆる『美文』『名文』として優れているわけではありません。しかし小説を構成するために必要な文章は必ずしも『美文』である必要はないと考えています。キャラの考えていることがわかり、なにが起きているのかが分かる。たったこれだけのことが難しいのが小説です。それを書けているという点において古魚氏の作品が優れていると判断しました。これが文章だけの賞ならば別の作品が選ばれたかもしれませんが、小説の賞の文章部門としてはこちらの作品が相応しいと思います。
○小山・評
ネット上に存在する架空戦記物の多くはHOI4(Hearts of Iron IV)というゲーム上で起きた実際の第一次~第二次世界大戦のシミュレーションをシナリオとして起こしたものが多い。もしくは、シナリオにすることを目的にプレイしているという方も散見される。
僕自身もこのゲームを所有しており、また架空戦記物も好んでよく読むのだが本作は非常によくできた架空戦記と言える。
大体の架空戦記がドイツをもって第二次世界大戦における欧州戦線を勝ち抜く(幼女戦記などが有名だろう)ものか、日本をもって太平洋戦争における艦隊戦のドラマを描くものが多い。
どの場合も実際の戦争とはIFの展開を追ったものであり、本作においてはアメリカが対日、その他の対応を変えた場合にどうなるかというところに焦点を置いている。
視点国がアメリカの戦記ものはあまり多くないのでその時点で新鮮に読めた。
しかもそれだけではなく本作では国としてのかじ取り役であるトップの視点と、戦争の現場で奮闘する人物たちとの視点をそれぞれの尺度で上手く描き出している。
正直キャラクターの描き方もよくできているのでそちらとも迷ったのだが、一般的な意味で言うカリカチュアされたキャラクターとしてではなく、人間性がよく書けているというタイプのキャラクターの巧さだったため、それを表現している文章力を評価して文章賞とさせていただいた。
彼らが戦争というものとどう向き合っているのか、この戦線はどこへと終着するのか。
新たな解釈で描かれるアメリカの夢をみなさんもぜひ御覧じあれ。
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