第4話・あたしと、ご主人の関係を職場にも広めてあ・げ・る
//SE・朝のアラーム音・スズメの鳴き声(もしくは、朝を連想させる音)
//SE・脚の関節のモーター音・アリエスがタッタッタッと、軽快にアスファルトの道を走る音。
「まったく、ご主人……あたしが作った愛妻のお弁当を持っていかないなんて。ペットのクセに生意気、勤め先の住所はスマホから、この体にデータ送信してあるからバッチリ! よーし、勤め先まで飛ばすぞぅ! ターボ全開! 腰バーニア噴射!」
//SE・ターボの回転音・音速を越えた衝撃音とバーニアの噴射音。
「ご主人の会社が見えてきた、面倒くさいから。このまま、ジャンプして窓から突っ込む! どりゃぁぁ」
//SE・加速するジェット音。
「飛びます、飛びます、空飛ぶメイド」
//SE・窓ガラスが割れる音。
//・(少し間を開けて)
//SE・エレベーターが階に到着した音と・ドアが開く音。
「でへっ、勢いありすぎて、最上階の社長室の窓ガラス、突き破っちゃった……おーい、ご主人、お弁当持ってきてやったぞ。職場のみなさん、いつもペットがお世話になっています……えっ、あたしが誰かって?」
//SE・顔が赤くなるのを表現した。沸騰すると笛が鳴って知らせるケトルの音。
「給湯室の湯沸かしケトルが鳴っていますよぅ……あたしは、そこの席で下を向いてプルプル震えている。ご主人の所有物です……ご主人は、あたしのペットで。あたしはご主人が購入したフレンド・ドールで人間ではなく単なる【モノ】です……説明しても、関係ややこしいですか?」
//SE・ご主人、恥ずかしさのあまり、椅子から立ち上がって部屋から飛び出していく音。
「ご主人、どこへ行くですか? おーい、そっちはトイレですよぅ」
◯会社の女子トイレ、少し広めの個室。
//SE・トイレのドアを軽くノックする音。
「ご主人、この中にいるんでしょう、わかっているんですよ……ドアを開けてください」
//SE・鍵が開く音。
「まったく、恥ずかしくなると。すぐトイレに駆け込むんだから……そんな、ご主人も、か・わ・い・い」
//SE・アリエスが後ろ手にトイレの鍵を掛ける音。
//・アリエスの「密室完成……ふふふっ、これでご主人と二人っきり」の意味深な呟き声。
「ついでですから、ご主人の、生体データを、あたしの体に少しインプットして、もっと分かり合いましょう……ご主人は、自分では気づいていませんが。可愛いんですから……【あたしが男だったら、彼女にしたいくらいです。】もっと、自信を持ちましょう」
//SE・アリエスが、メイド服をめくり上げて、おヘソを露出させる。ゴソゴソ音。
「この上下別々のメイド服、すぐにおヘソが露出できて便利ですね……」
//SE・おヘソの穴から、リードに巻かれた携帯電話の充電コードのようなモノを、おヘソから外に引っ張り出す音。
「さあ、あたしの体の中から引っ張り出したこのスマホの充電コードのようなモノの先を、ご主人のおヘソの穴に……大丈夫、痛くない、痛くない、生体ゲノムのデータをフレンド・ドールの体に送信するだけですから……ふふふっ」
//SE・トイレのドアがノックされる音と、アリエスが鍵を開ける音。
//・ドアの外に立っていた女性社員を見た、アリエスの、あっけらかんとした口調。
「あらっ、ご主人の部署の女性社員の方? 中で変な声が聞こえたから具合でも悪いのかと、心配してノックしてくださったのですか? 大丈夫ですよ、みなさんが想像しているようなコトは、女二人で個室トイレの中でしていませんから」
◯かなり広い、池や遊具が点在する児童公園の芝生広場。
「会社の上司から、早退を認めてもらえて良かったですね……たまには、こんな無意味なサボりも真面目な、ご主人には必要ですよ」
//SE・離れた場所で、子供たちが遊んでいる声。
//・立ち止まったアリエス、いきなり天気予報を告げる、お天気お姉さんのような口調で。
「ピッピッ……局地天気予報です。もうすぐこの地域にカミナリを伴った強烈な雷雨が降ります。ゲリラ的な、通り豪雨にご注意ください……ピッピッ」
//SE・遠くでカミナリが鳴る音。
「ご主人、園内にある、あのガゼボ〈西洋東屋〉まで走りましょう。あたしの計算だとガゼボに入った瞬間に、大きな稲光が光って滝のような、強い雨が降ります」
//SE・芝生の上を二人の女性が走る音。
//SE・逃げ騒ぐ子供の声。ポツポツと降りはじめる雨音──雨音、段々早く激しく。
//SE・稲光の音。滝のような激雨の音。
//・ガゼボに飛び込んだ二人、びしょ濡れ。
「計算ミスったぁ! ご主人の歩幅と、走る速度忘れていたぁ!」
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