第3話・名前は、ご主人に決められるよりも、先に自分で決めてあ・げ・る

「さてと、服も着たコトだし……これからどうしようか? えっ、自己紹介する。ご主人の名前? そんなの1ミリも興味無い、あなたの名前なんて知ったこっちゃない……それより、あたしの名前を先に……あたしの名前は?  あ、あれ? 転生する前の記憶が消えている、あたし誰?」


//SE・何かを計算しているような電子音。そして、チーンとレジスターが開くような音。


「こりゃ、困った……転生すると。記憶がリセットされるのか、頭の中が空っぽだ。こうなったら、自分の名前は自分で決めてやる……ご主人、あんた星座は? なに座生れ? ふ~ん、牡羊座なの。それじゃあ、あたしの名前は【アリエス】というコトで決定! なによ、その不思議そうな顔は……これからは、あたしのコトは、アリエスさまと呼びなさい」


//SE・時計の秒針が進む音(経過する時間)


「じゃあ、次はご主人と、あたしの立場を確認しようか……帰宅したら、アリエスさまがご主人の心と癒やしてあ・げ・る……今日はもう遅いから、スリープモードにして。ご主人とあたしの立場の確認は、また明日ご主人が仕事から疲れて帰ってきてから」


//SE・寝具を敷く音。


「なに、勝手に布団敷いて自分だけ寝ようとしているの? はぁぁ? あたしが寝る場所は押し入れ? ふざけるな! あたしは未来から来た青いロボットか! 押し入れに寝るのは、あなた! 今日からご主人は押し入れで、就寝するの」


//SE・押し入れの戸を開く音。


「さあ、入った入った。今日からココが、ご主人が寝起きをする場所だよ……床に敷いた布団にはあたしが寝る」


//SE・布ずれ・服を脱いで脱衣する音。


「えっ、なんで眠るのに着ているモノを脱いで裸になっているのかって……だって、あたし、ご主人の所有物でモノですから……ご主人が、あたしに下着のパンツを穿かせる時は……恥ずかしがって目を閉じないで。あたしの顔と体をしっかり見ながらパンツ穿かせてくださいね」


//・アリエス、少し意地悪そうな、からかっているような口調で。


「いいんですよぅ夜中、押し入れから抜け出してきて、女の子が裸で眠っている布団の中に忍び込んできても……元々、この体は心と体を癒すフレンド・ドールなんですから」



◯ご主人のアパートの部屋(朝)


//SE・スズメの鳴き声・朝を告げるアラーム音。


//SE・台所のマナ板の上で、何かを包丁で刻む音・揚げ物を揚げる油の音。


「おはよう、ご主人……朝食用意したからね。焼き肉に、トンカツに、ハムエッグとお味噌汁にサラダと納豆……そんなに食べられないって? 朝から揚げ物の匂いで胸やけした? しかたがないなぁ、晩ごはんは朝食の残りで決定!」


//SE・徴発するように、腰の関節モーターを左右に動かす機械音。


「なに、驚いた顔で、あたしのお尻見ているんですか……女の子の裸エプロンが、そんなに珍しいんですか? 顔真っ赤にしちゃって、ご主人可愛い。いいんですよぅ、近くに来てイタズラしても。ほれほれ、あたしはご主人の所有物ですから」


//SE・ふたたび、腰の関節モーターを左右に動かす機械音。


「なにもしないんですか? つまらない人ですねぇ……ご主人の立ち位置は、仕事から帰ってきてから。今日も混んだ電車に揺られて行ってらっしゃい♬」


//SE・朝の出勤、登校時の爽やかな雑踏音・電車の音・駅のホーム音。


//SE・ご主人の会社内のガヤ音、固定電話の受信音。


//SE・就業時間終了を告げるチャイム・帰宅する人たちの疲れた感じの足音・カラスの鳴き声。



◯ご主人のアパート


//SE・部屋のドアが開く音。疲れてベットに倒れる音。


「お帰りなさい、ご主人……ベットにダイブで、お疲れのようですね。えっ、今日も会社の上司から小言を言われたから慰めて欲しいって、よしよしナデナデ……この着ているメイド服ですか? 通販で買ったんですよ。もちろん、支払いはご主人の口座からです……いいじゃないですか、この体の支払いも給料日の口座からの分割払いなんだから……気にしない、気にしない」


//・アリエス、ご主人の耳元で囁くように。


「ご主人とあたしの、立場の確認ですけれど……ご主人は、あたしの【ペット】と言うことでいいですか? なんですか、その怪訝けげんそうな顔は、いいんですよ【奴隷どれい】とか。【下僕げぼく】の扱いにしても……ペットの扱いの方でいい。よろしい、きょうから、ご主人はあたしのペットです。お風呂にします? 食事にします? それとも、あ・た・し」


//SE・お風呂場、反響する室内音。シャワーの水音。


//SE・バスルームのドアが開く音。


//・アリエス、バスタオルを裸体に巻いた姿の声で。


「ご主人、お体洗いましょうか? ご主人はペットなんだから、キレイにしないとね」


//SE・バスタブのお湯の中に慌てて沈む水音。息の気泡が水面に浮かぶ音。


「わぁ、ウブな男子学生みたいな絵に描いた反応……女同士なんだから、あたしは気にしていませんよ……ふふっ、どのくらいの時間を潜っていられるかなぁ」


//SE・秒針が進む音。水中から勢い良く人間が飛び出す水音。


//SE・女性のハァハァした呼吸音。


「ダメですよぅ、そんなんじゃ。潜水の世界記録には、ほど遠いですよ……別に世界記録なんて目指していない? えっ! ご主人と言ったかと思ったら。ペットと言ったりして、あたしの行動が意味不明ですか……仕方がないでしょう、転生した魂がこのドール体に入って。バグが発生しているんですから……【クセ強っ女子】というコトで」


//・エリアル、少しからかっているような、距離が近い囁き口調で。


「お風呂から出たら、ご主人は夕食食べて、押し入れへ入って寝てください。あたしは裸になって布団で寝ますから……いいんですよぅ、夜中にあたしの布団の中に忍び込んできても。ドールプログラムに従って心と体を癒やしてあげますから。メンタルとフィジカルの、いろいろな方法で」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る