第2話・はじめまして、ご主人……あなたの所有物になってあ・げ・る

//SE・車のブレーキ音と、人間にぶつかった衝突音。


//SE・ヒューンと何かが空中を舞ったような間抜けな効果音。


//SE・道に落ちていたバナナの皮で、滑って後頭部を強打する音。


//SE・救急車のサイレン音。


//・少し笑えるアリエスの声で。


アリエス「転生だァァァァ」



◯アパート・ご主人(女性)の部屋


//SE・電子機械音(電子的な心音とか点滅音)


//・機械的に両目が開く音。


//・アリエス(まだ、名称未明)目覚めた声の感じで。


アリエス「う~ん? んっ? ここドコ、なんか暗くてせまい場所……体、動かない……あたし、いったい?」


//SE・ダンボール箱の包装用粘着テープをカッターで切って、箱を開ける音。


//・フタを開けた箱の中を覗き込む、見知らね女の顔にいぶかしがった口調でアリエス。


「誰この女? あたし、棺桶かんおけみたいな長方形のダンボール箱の中に、緩衝材かんしょうざいと一緒に入れられている?? ち、ちょっとなに人の顔、撫で回しているのよ……キモっ女」


//SE・ダンボール箱の中から緩衝材や、発泡スチロールの梱包材を出す音。


「ちょっと、なにやっているの? あたしをダンボール箱の中から出すつもり……なにか言ったらどう。もしかして、あたしの声、聞こえてない? ここ知らない女の部屋?」


//・箱から引っ張り出されて、床に仰向けの裸体で横たわるアリエス。首だけ横を向いていて、全身を映す姿見鏡で、自分の状態が確認できた。

(アリエス、自分の裸体姿に戸惑い気味の口調で)


「全身を映す姿見鏡に、床に仰向けで横たわって。顔だけ鏡の方を向いて映っている、この女の体……なんか変じゃない? メカ線みたいなのが付いている、腕とか股関節とか、太モモとか、オッパイの周囲に……あたし、こんな顔していたっけ?」


//SE・(回想)車のブレーキ音・空中を舞う間抜けな効果音。


「思い出した、あたし歩きスマホで、赤信号に変わっていた横断歩道を気づかずに、渡っていて……横道から走ってきた自動車に跳ね飛ばされたんだった」


//SE・バナナの皮で滑って転倒、後頭部を強打する音・救急車のサイレン音。


「元々、身体能力が高かったから体操選手のように空中回転して、着地した地点に運悪く。落ちていたバナナの皮でスベって後頭部を強打して、病院に搬送中に亡くなって……転生? 現世の変な人形の体の中に?」


//・アリエス(まだ正式名は登録されていない)の裸体を撫で回す購入者の女性。


「なに、さっきから人の体を撫で回しているのよ! このキモっ女! あんた誰?」


//SE・起動スイッチがオンした音。


//SE・アリエスが上体を起こす機械電子音。


//・アリエス、少し不機嫌そうな口調で女に向かって。


「いったい、あなた本当に誰なの? ここどこ? なに、驚いた顔しているのよ……えっ、起動スイッチ入れてないのに勝手に動いた? 起動スイッチって何?」


//SE・ガサガサと床に散らかった緩衝材や梱包材を掻き分ける音。


「なによ、その分厚い小冊? ちょっと、こっちによこしなさいよ! 『フレンド・ドール取り扱いマニュアル』?」


//SE・分厚い取説マニュアルをめくる音。


「ふ~ん『フレンド・ドールは、購入後に自由なカスタマイズが可能で……あなたの心と体を癒やす、その他の機能も充実しています……』もしかして、これってエッチなコトも可能な別オプションの装備も……ほら、ここに図解で説明が。最初から、お友だち目的なドールなら……こんな細部形状は必要無いよね」


//SE・アリエスの購入者がショックで、何かに当たる音。


「なに、腰抜かしてショック受けた顔しているのよ。はは~ん、もしかして知らずに、この転生して魂が入った体を購入した? ほら、この分厚い取説のここんところ……よく読んでみっ」


//SE・パラパラと分厚い説明書をめくる音。


「これって、よくあるパターンなのよね……本当は別用途の玩具を、マッサージ器って登録しておかないと、販売許可が降りないみたいな……さてと」


//・アリエス、からかうような口調で。


「どうする? 開封しちゃったから返品は難しいとは思うけれど……あなたは買ったスマホの画面保護シール剥がす派? 剥がさない派? ふ~ん、剥がす派かぁ。だったら、このドール体の肝心かんじんな箇所に貼られている保護シール、あなたの手で楽しみながら剥がしてみる? 恥ずかしいから自分の手では剥がせないって、しょーがないなぁ」


//SE・ペリッペリッと保護シールを、肝心な箇所から剥がす音。〈肝心な箇所がドコなのかは、視聴者の想像に委ねます〉


「は~い、これで返品は完全にできなくなりましたぁ、あたしはあなたの所有物になりましたぁ」


//SE・準備運動をしているみたいな、機械の関節が動く電子音。


「腕の関節ジョイントオッケー、脚の関節オッケー、股関節ジョイントと腰の関節もオッケー、準備運動終了……ご主人、なに顔を赤らめているのよ、えっ! ドールでも裸の女の子がラジオ体操しているのを見るのは恥ずかしいから? 服を着てくれって? しょーがないなぁ、確か購入時の標準オプションの下着と洋服が箱の中に……あっ、エコな紙袋の中に入っていた」


//SE・エコな紙の袋を破って、下着と洋服を取り出す音。


「最初の標準オプションだから、同封されていた下着はこんなもんか……色気ねぇ。ご主人の手で楽しみながら、あたしの体に下着を穿かせてみる? 冗談だよ」


//・とりあえず着衣するアリエス。


「ご主人、服着たからこれで。部屋にドールがいても、恥ずかしくはないでしょう」

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