第9話

しばらく男爵夫人とお行儀についてレクチャーを受けていたら、アインシュペナーとツァウナーシュトーレンが到着しました!!


「何これ?」


「お姫様、食べ物に対して何これと言うのはétiquette違反です」


「エチケットだけめっちゃ発音いいですわね」


私が何これって言ってしまったのは

15センチくらいのカブトムシの幼虫型、あるいはダイオウグソクムシとでも喩えようかと思う造形のケーキ。

見方によっては大人向けの玩具にも見える。

チョコレートでコーティングされてるからプラスチック感があるのよね。

私は恐る恐るケーキを食べ始めた。

中はスパイスとドライフルーツが入っているクリスマスによく出てるシュトーレンと同じ感じで、もっとウェッティな感じ、悪くはないわ。

食感が面白くてウエハースが入ってるのかサクサクするの、そしてチョコレートがいいアクセントになってるけど甘すぎるしお腹いっぱいになっちゃいそう、苦味のあるコーヒーにピッタリだわ。

ヴルフェン男爵夫人は栗のケーキにしたのね。

美味しくも不味そうでもない無心な顔で食べてるけど、黙々と食べてるから美味しいのね、私もそっちの方が良かったかもしれないわ。

私が最後の一切れをいただこうといたその時、店内が一瞬静かになり、ざわめき出した。

私が訝しげな顔したせいかヴルフェン男爵夫人も辺りを見回して状況を把握しようとしたがよく分からない。

ほどなくして、ショーケース側からカフェ店内へお供を連れて入ってくる見知った顔の男が見えた。


「げっ、皇帝陛下だわ、見つからないようにして頃合いを見て出ましょう」


「見つかっても恥ずかしくないようにエレガントで淑女らしくなさってください、お願いですから」


私は出来る限り目立たないように静かにして扇で顔を隠しつつ様子を伺った。

皇帝陛下グループは近くの席に腰を掛けた。


「おかしいな、ここにシシィが来ていると聞いたんだが……」


と言う皇帝の声が聞こえてきたのでますますどうするべきか悩む。

ルドヴィカお母様がおそらくご丁寧にカフェに行ってるはずと言ったに違いないわ。

お母様もお母様だわ、ネネーと皇帝をくっつけたほうがどう考えてもいいはずよ、なんでこんなことするのかしら。


「やぁ、シシィ奇遇だね」


ふと気づく目の前に皇帝陛下がにこやかに立っていた。


「これはこれは、皇帝陛下気づかず大変失礼いたしました、ご機嫌よう」


私達も立ち上がり、気づいてたけど白々しく知らなかったふりをして優雅なお辞儀をゆっくりとしてやったわ。


「もし良ければ一緒にいただいてもいいかな?」


「皇帝陛下のお申し出を断るものがいるでしょうか?しかしながら私達食べ終わり出なくては行けない時間ですの、母と一時間で帰るように固く言いつけられておりまして」


「ならば、お送りしようケーキはみんなの分をお土産にして持って帰ることにしよう」


「まぁ、カフェでいただく美味しいですし、御休憩に立ち寄られたのではありませんの?私達のことでしたらどうぞお構いなくゆっくりお過ごしになってくださいませ」


「いえ、実を言えばあなたと話しをしたくて、お母様にあなたがここにいるとお聞きして探しにきたんです」


「私にお話?一体なんでしょう?姉の好きなものでしたらピンクの薔薇ですわ、バラの砂糖漬けも好きみたいです、プレゼントしたらきっと喜びますわ、お見合いも進展するでしょう」


私は笑顔でそう言うと皇帝陛下は若干引き攣った顔をして私を見つめた。


「シシィは私がへレーネと結婚して欲しいと望んでいるんだね」


「もちろんですわ、そうすることが帝国を守る上で有益なことだと思います」


棒読みになってしまったがいいだろう。


「本心は?」


やばっ、バレてる。


「もう崩壊しつつある帝国の情勢は先行き不安だからネネーが嫁ぐのも心配だけど、皇帝陛下の代までは失策しまくりそうだけど、なんとかなりそうだから、止めなくてもいいかって感じです」


正直にゲロってしまったわ。

ここまで言えば小娘のくせにってキレるんじゃないかしら。


「逆に崩壊しつつある帝国はどうしたらいいと思う?」


皇帝はキレずに穏やかに聞いてきたので私も


「そうですね、英国みたいに議会を中心とした政治にゆっくり移動した方がいいわね、独立を叫ぶ国に対しては表向き認めて、中身としては対して今までと変わらず連合国みたいな感じでまとめ上げる方針にするといいかしらね、あとプロイセンがヤバいからみんなで止めた方が良さげだし、様々な法制度も見直した方がいいわ」


「君は王権反対派なのか?」


「まさか、国の象徴やリーダーは必要だと思っているわ、無政府主義や共和制の意義はわかるけど実現は無理よ、現実的ではないわ、でもワンマンで政治を行うのは歴史を見てもマズイことはわかるでしょ?だから身分にとらわれずに知性や経験、才覚があるものに判断させて国をよくする手法を取るべきじゃないかしら?世襲だからといって料理の才能がない子をシェフにはしないでしょ?」


「公爵はどんな教育を君に施したんだ」


やばっ絶対怒ってるよね?皇帝陛下鬼怒プンプンかしら?

どうしよう!?

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