第8話
窓の外から眩い光がレースのカーテンでいくらか遮られて柔らかみのある温かさで私を起こしてくれた。
だが、どんなに素晴らしいお天気でも私の憂鬱さは解消できない。
「私の回避能力が甘かったわけね……なんとかしなくちゃ」
呟きながら私は窓を開けて、木々の葉がキラキラと輝いてているのを少し憎らしく思いながら見つめた。
すぐに召使達が私の身支度を整えにきた。
晩餐会でマナー無視してふざけまくる?
いや、たしかエリザベートの美しい外見と無垢で自由な感じに惚れてたはずよ、あの皇帝は!
なら、完璧なつまらない令嬢になればいいんじゃないかしら?
そうよ、高慢ちきな悪役令嬢っぽくなれば皇帝もへレーネがいいってわかるはずよ、そうなればたくさん厚化粧して香水もたくさんつけて最悪な令嬢になってみせましょう。
方針が決まれば行動も早くなるもので、一番派手で酷い服(そんなもの私が持ってる訳ないから、ちょっと流行遅れてて子供っぽい服)をチョイスして、みるも無惨なプリンセスに大変身。
これなら、皇帝も好きにならないに決まっているわ。
私って天才じゃないかしら?
となれば、晩餐までは温泉に浸かってのんびりしようかしら?
のんびりって言ってもこれは治療で時間決められてるから自由ではないんだけどね。
外に出ていけるならツァウナーでケーキとコーヒーをいただきたいところだけど、知らない場所で迷子になりそうだし怖いからな……。
誰かに買ってきてもらうしかないかしら?
待って、男爵夫人も暇なんだから出かけたいんじゃないかしら?ならば男爵夫人にハプスブルク家と地理の勉強だとか言ってついてきてもらえるかも知れないわ。
「お母様にバートイシュルの歴史を知りたいから男爵夫人に付き添いを頼めないか聞いてきてくれないかしら?」
「かしこまりました」
召使いに託けすると私はお出かけ用のドレスに着替えることにした。
シンプルなすみれ色のドレスにしましょう。
ドレスが決まると召使い達が瞬く間に着付けして身支度は完了。
着付けが終わると召使いが戻ってきて1時間くらいなら良いということで警備の者付きだけど男爵夫人と出歩くことが許可された。
帽子に手袋をつけてレディキュールを持つと男爵夫人が迎えにきて私達はバートイシュルの街中へ繰り出していった。
歩いてもいけそうなのに馬車で行く。
ガタゴト揺れる馬車はこれでも揺れない方なんだろうけど現代の車に慣れてるとかなり揺れを感じてしまう。
「先生、せっかくだから私、ツァウナーに行きたいのだけれど……」
「そうだと思いましたよ、1時間しかないしツァウナーでお菓子を食べて少しだけ歴史とお作法を復習しましょう」
すんなり男爵夫人が言うってことはお母様にも本来の目的はバレバレだったってことだわね。
まぁ、今夜逃げ出されるよりかはわがままを聞くほうが良いと判断したんでしょうね。
窓の外には川が流れていてエメラルドグリーンに輝いているように見えた。
「塩を川を使い運んでいたのですよ」
「塩業は国家収入の五分の一を占めてましたわね」
「よく、復習してますね、18世紀には国のなかにある別の国と言われたくらいですから、ハプスブルク家にとって重要な地の一つなのですよ」
岩塩だからか分からないけど海塩よりなんか塩っぱさが強く感じる塩なのよね。
高級スーパーで丸い水色の筒に入って売ってたやつ、昔使ってたなぁ。
懐かしいけどまだ、この時代にはあの形で売ってないだろうな。
可愛らしい町の中にあるこれまた可愛い建物の前で馬車は止まった。
「ツァウナーに着いたみたいね!楽しみだわ」
「お姫様、お行儀を忘れずに淑女らしくしましょう」
「はーい」
私は軽く返事をしてツァウナーに入った。
まず何にするか悩むわよね。
アインシュペナー、つまり生クリームをのせたコーヒーに飲み物はするとして。
ケーキは何にしようかしら、悩むわ、悩むのよ。
ツァウナーシュトーレンって言うのにしようかしら、なんかツァウナーに来てるわけだから、ツァウナーらしいケーキにしましょう、どんなのか分からないけど楽しみ。
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