20・舟作り
ふぅー食った食った、大満足だ。
このまま昼寝を……といいたいところだが、そうもしていられない。
肉が新鮮なうちに干し肉を作らないと。
「よいしょっと……」
後ろ髪を引かれつつも立ち上がり、解体されたボアモスの肉の塊を手に取った。
「お嬢様、干し肉を作るのですか?」
「うん、新鮮のうちに作ろうと思ってね」
「でしたらわたくしも手伝います」
「あ、ウチも手伝うで」
「わたしもぉ」
んーみんなが手伝ってくれるというのはありがたいけど、ナイフは1本しかないんだよな。
石器だと綺麗に切れないし……あっそうだ、干し肉にする為に必要な物があったからそれを用意してもらおう。
「ありがとうございます。では、肉の作業は私とケイトがやりますので、お2人は木と木の間に蔓を何本か張ってください、その蔓に肉を干していきますので。あ、場所は直射日光が当たらない日陰でお願いします」
「日陰やな、了解」
「たくさん干せる様に張らないとねぇ」
干す場所の確保はこれでいい。
さっさと肉の処理を始めるか。
干し肉を作る為にはまず脂身を出来るだけ取り除く。
脂身は水分が多くて、脂身が多いと腐りやすくなってしまうからだ。
これは豚でも牛でも鳥でも、どんな肉でも必要な作業だ。
そして肉の脂身を取り除いたら、干しやすいように薄切りにする。
肉が厚すぎると、ちゃんと乾燥することができずに腐ってしまう事もあるじゃらな。
「お嬢様、このような感じでよろしいでしょうか?」
ちょっと分厚い気もするけど、ケイトは石器を使っているからしかたない。
脂身の部分はちゃんと取れているからまあ大丈夫だろう。
「うん、それでいいわ。じゃあこの蔓の籠の中に入れていって」
「? 干すのではないのですか?」
「海水に一晩つけておくの。だから干すのは明日になるわ」
あとは肉が重ならないように吊るして干して乾燥させれば干し肉の完成だ。
そういえば、干す場所はどうなっているだろう?
「蔓はどんな……って……なにこれ……」
ユキネさんとベルルさんが作業している方を見ると、夥しいほどの蔓が張られていた。
ぱっと見、ここにデカイ蜘蛛のモンスターが居てここを住処にしている様だ。
「どう? これなら何枚肉があっても干せるで」
どう考えても、そこまで吊るすほど肉の量はないんだけどな。
まぁ魚や他の干物作りでかける事が出来るし……別にいっか。
※
「倒れるでぇ!!」
ユキネさんの声と共に、俺達は急いで木の傍から離れた。
木を伐り始めてから1週間ちょっと。
「……ついにこの時が来たわ」
何百回、石斧を振っただろうか。
木はメキメキと鈍い割れる音をたて、地響きを鳴らしてようやく倒れた。
「……やった! やりました! 木が倒れましたよ!」
「うんうん! いや~大変やったな~……手にマメが出来て痛かったわ」
「本当に苦労したわぁ……もう何十本のぉ石斧を作ったのか覚えていないものぉ……」
『ウホウホッ』
「……」
木を伐り倒すのが大変だったからなのか、なんかみんなからやり切った感がすごく漂っている。
いやいや……大変な事はまだまだ続くっての。
手のマメもまだ出来るし、石斧作りも終わりませんから。
「コホン……それじゃあ枝打ちしてから、この木を船の形に加工していきましょうか」
みんなに一声をかけてから、俺は石斧を手にもって枝を落とし始めた。
「「「あっ……はあ~……は~い……」」」
俺の言葉に、作業がまだ続く事を思い出した3人はそれぞれ石斧を手にして枝を落とし始めた。
はい、ため息なんてつかず頑張りましょう。
丸木舟は丸太をくり抜いて船にする。
しかしそのままの丸い状態で船にしても、波で回転して簡単にひっくり返ってしまうだろう。
本当ならカヌーみたいな形に加工するのが理想的ではあるけど、そこまですると相当時間がかかってしまうのは目に見えている。
船作りにこだわり過ぎて、冬が来てしまったとかシャレにならないからな。
加工するにあたって必要最低限やらないといけないのは4つ。
1つ、俺達が乗る場所の確保。
無ければ丸太の上にまたがって海の上を進む羽目になるから絶対に必要だ。
2つ、船の前の部分は三角形に尖らす。
効率よく水を切って進むために必要な加工だ。
古代で使われた丸木舟もちゃんと船の前は三角形になっているのには驚いたな。
3つ、船の両側を削って全体の形を逆三角形の形にする。
これも波からスムーズに進むために必要な事だ。
石斧でどこまでその形に出来るのか不安なところではある。
4つ、船の厚みを確認する。
これが一番大事だろう。
薄すぎると強度が弱くなってしまって壊れてしまう。
だから常に意識して作業しないと。
俺はどのような感じで加工するのか地面に絵を描いてみんなに説明し、船作りの作業へと入った。
カンカンと木を叩く音が無人島に響き渡る。
無人島では絶対に鳴らない人工的な音だ。
「ふん! ふん! ふん!」
ユキネさんが力いっぱい石斧を振りかぶって木に叩きつけている。
あれじゃあすぐにへばってしまうぞ。
「ユキネさん、そんなに力いっぱいに叩かなくても楽な方法がありますよ」
「ふん! ……へっ? 楽な方法?」
「はい。こんな感じで切れ込みを入れて……」
この時、石斧を垂直じゃなくて斜め方向に打ち込むのが大事だ。
垂直だと次の作業で木が割れてしまう可能性があるからな。
「この斜めに入れた切れ込みの部分に、木の杭を差し込んで上から叩きます」
落とし穴作りの時に余っていた木の杭を切れ目に差し込んで、杭の上を石でコンコンと叩いた。
杭を打つたび木の表面がメキメキと音をたてひび割れてきた。
「この状態になったら杭を抜いて、出来た隙間に手を入れて持ち上げれば……んんっ!」
持ち上げた瞬間、木の表面がメリッと剥がれた。
よしよし、うまくいったぞ。
「おおっ!」
「こんな感じで、大きな木の破片を剥ぎ取ることが出来ます。ただ、これは大まかな部分でしか使えませんので注意してくださいね」
じゃないと余計な部分も剥がれてしまって、取り返しがつかなくなってしまうからな。
「うん、わかった。気いつけるわ」
「……本当に気を付けて下さいね……」
「わかったわかった」
「……本当の本当に……」
「わかったってば! うちを信じてよ!」
信じたいけど、木は1本しかないからどうしてもな。
けど、これ以上言うとユキネさんが気分を悪くしそうだからやめておこう。
「アンちゃん~ちょっといいかしらぁ~?」
「あ、はい」
「すみません、お嬢様。その後はこちらに来ていただけますか?」
「あ、うん、わかった」
俺、大人気だな。
自分の作業も進めたいんだが……こればかりは仕方ないな。
『ウホウホ』
「はいはい、後でね……」
トモヒロに呼ばれると、なんか複雑な気分になるんだよな。
俺の中身が男だからだろうか……それとも……。
『ウホッ……ウホホォ』
隙あらばベルルさんの胸をジッと見つめている、あの眼で俺の体を見て来るからだろうか。
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