21・舟の完成
ひたすら石器で丸太を叩き続けて約1ヶ月。
だいぶ船の形になって来た。
「ふぅ~……」
もうすぐ完成だな。
この島から海へ出る日も近いぞ。
「あのお嬢様。一つ疑問があるのですがよろしいですか?」
「?」
だいぶ船が完成して来たのに、今更疑問ってなんだろうか。
「なに?」
「この船をどうやって海まで運ぶのですか?」
「どうやってって……あっ……」
丸木舟の作っていた場所は木を伐り倒したところ、つまり山の上だ。
海からかなり離れている。
こんなでっかい舟を運ぶとなると……担いでか?
いや、流石のトモヒロの力でも山の頂上から海まで担いで運ぶのは無理がある。
女性3人に力も体力も全くない女の子が1人が手伝ったところで焼け石に水だ。
じゃあ押していくか?
んー……それも無理だよな。
動きはするだろうが、地面を引き摺るのは良くない。
摩擦や落ちている石で船が傷ついてしまう。
それが元で沈没とかシャレにならんぞ。
………何も考えず、ここで船作りを始めたのは失敗だったかもしれん。
「う~ん……」
こういう時は車がすごくほしい。
まぁこの世界には車なんて無いから馬車になるんだが、どっちにしろここには無いから排除。
無人島で手に入って、大きな船を運べる方法……何かないか……何か……周辺にあるのは木と葉っぱくらいしか……。
「……木……あっそうだ! 丸太!」
「え? 丸太ですか?」
「そう! 出来る限り真っ直ぐで丸い木を何本か伐り倒すわよ」
「何や何や? また木を伐るって聞こえたけど……」
「ちゃんとぉわたし達にも説明してくれるぅ?」
木を伐るというワードに反応して、ユキネさんとベルルさんが傍に寄って来た。
おっと、2人を外している状態で話しを進めるのは駄目だな。
みんなで力を合わせないといけない事だし。
「この丸木舟を海まで運ぶ方法を話していたんですよ」
「海まで運ぶって、そんなんトモヒロに任せたら……ってのはちょっと無理か」
「それを話していたわけねぇ。でぇ~どうやって運ぶのぉ?」
「丸太を何本か地面に並べて、その上に丸太舟を乗せて後ろから押します。そうすると地面の丸太が回って、舟を前に運べる事が出来ます」
エジプトのピラミッドや、日本の石垣を作る時にこの方法で大きな石を運んでいたらしい。
あんな大きな石を運んでいたのなら、この丸木舟くらいなら問題はないはずだ。
「へぇ~そんな方法があるんだぁ」
「はい。丸木舟が完成し次第運びましょう」
ただ、完成した時に雨が降らなきゃいいけどな。
地面がぬかるんでいたら丸太が埋まってしまうし……。
※
「丸木舟の完成です!!」
形はだいぶ歪だけど、とうとう丸木舟が完成した。
「「「わあ~!!」」」
大変だった……本当に大変だった……。
マジで途中からいかだでも良かったんじゃね? と頭の中を過ぎったが完成したのを見るとこっちでよかったと思える。
……まぁまだここから海へと運ばないといけないという、これまた大変な作業が残っているがな。
まずはテコの原理を使って丸太舟の先端を上げて、横向きに丸太を差し込む。
そして差し込んだ丸太の上に丸木舟を降ろす。
後は丸太を並べていき、舟を押せば丸太全体に舟が乗った状態に出来る。
これで運ぶ準備は完了。
「それじゃあいきます! せ~の! んんっ!!」
「んぎぎぎぃ!」
『ウウウウウウウウ!』
トモヒロと俺以外のメンバーの力はほとんど変わらず。
そこで体格の差からケイト、ユキネさん、トモヒロが丸木舟を押す係に。
「はいっ! はいっ! はいっ! はいっ!」
「よっ! よっ! よっ! よっ!」
俺とベルルさんは丸木舟を押して後ろから出てきた丸太を前に戻す係だ。
丸1日かけて丸木舟を海の傍まで運び終えると、全員ぶっ倒れる様に眠りにつくのだった。
翌日、ユキネさんの元気な声で目が覚めた。
「よおし! さっそく島から脱出やね!」
「……うう」
1日寝ただけでこんなにも元気だなんて羨ましいな。
俺なんてまだ疲れが取れないよ……今日1日は寝て居たい気分だ。
けど、そうも言っていられないのがまた辛いところだ。
「ふあ~……海の上に船を浮かべますけど、島からの脱出は後日になります」
眠たい目を擦り、伸びをしながら立ち上がった。
いててて……腕が痛い……。
「えっ? なんで?」
ちゃんと説明するからそう慌てない。
起きたらまずは火おこしから始めないと。
「まずは海に浮かべてみて、どんな感じになるかを見ます……海に浮かべた早々に沈んだらシャレになりませんからね」
でも、ここまで頑張ったから絶対沈んでほしくはない。
けど海の上を行く以上、絶対に確認しないといけない事だ。
命に関わるからな。
「確かにアンちゃんの言う通りねぇ」
「そ、そうやな……気がはやってしもうたわ」
その気持ちはよくわかるさ。
俺も出来ればすぐ行きたいもの……。
「さっさと朝ご飯を食べて、海に浮かべましょう」
山から運んだ時同様に丸太を並べても丸太が砂に埋まってしまい意味がない。
だから海へと運ぶ手段は……。
「それじゃあいきますよ! せ~の! んんんんんんん!!」
「ふうううううううううううううううう!!」
「んぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!」
「くうううううううううううううううう!!」
『ウホオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
全員の力を合わせて根性で砂浜から海に浮かべる……これしかない。
「んんんんんんんんんんんんんんんん!!」
「うううううううううううううううう!!」
「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!」
「うううううううううううううううう!!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
全員顔を真っ赤にさせて、必死に丸木舟を押し続けた。
少しずつ丸木舟は砂をかけ分けて行き、先端部分が波に当たった。
「っ! もう! ちょい! です! んんんんんん!!」
「うううううううううううううううう!!」
「ぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎぎ!!」
「うううううううううううううううう!!」
『オオオオオオオオオオオオオオオオ!!』
俺達は渾身の力を込めて丸木舟を海へと押し込んだ。
勢いがついた丸木舟は砂浜を離れ、スゥーっと海の上を少しだけ走った。
「はぁ……はぁ……やった……ふぅ……」
あー疲れた。
さて、どうなるか……ドキドキの瞬間だな。
水漏れとかマジでやめてくれよ。
「「「「…………」」」」
俺達は固唾を飲んで浮いている丸木舟を見守った。
「「「「…………」」」」
5分くらいはたっただろうか。
丸木舟は波でゆらゆらと揺れるだけで、浸水する気配は全くなかった。
「……これって……大丈夫……でええんかな?」
「船の中にぃ水は全く入ってはいないわねぇ」
「という事は……」
3人の目が俺に向けられた。
「……ですね、成功で――わっ!」
言葉を言い終わる前にユキネさんとベルルさんが俺に抱き付いて来た。
「やった! やったで!」
「これでお家に帰れるのねぇ!」
いやいや、まだ助かったわけじゃないんだけどな。
まぁこんなに喜んでいるし、それを言うのは野暮ってもんか。
ここは喜びを分かち合おう。
「はい、本当に良かっ……あっ」
喜びを分かち合おうとした途端に強風が吹き、横波を受けた丸太舟がクルンと綺麗にひっくり返ってしまった。
「「「「…………」」」」
その光景を見たケイト、ユキネさん、ベルルさんは固まってしまい、俺は新たな問題発覚のせいで頭が痛くなって両手で頭を抑え、その場でうずくまってしまうのだった。
嘘だろ……マジかよ……。
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