6・1日目の終わり

 石器の作り方としては大まかに2種類。

 石を他の石や硬い物で叩いて、加工したり割れた破片を作る打製石器。

 平べったい石、もしくは加工した石を他の石で研いで刃を作る磨製石器。


 理想としては磨製石器になんだけど、研ぐとなるとどうしても時間がかかってしまう。

 磨製石器を作るならまともな拠点が出来て、腰を据えられる状態の方が良いだろう。

 となれば、今作るのは打製石器だな。


「まずは手ごろなサイズの石を選びます」


 俺は手のひらに収まる大きさの石を拾い、大きな石の上へと置いた。

 そして、別の石を拾いコンコンと叩いた。


「そして、こんな感じで石が割れない様に気を付けつつ、端の部分を叩いて削っていきます」


「なるほど……わたくしもやってみます」


「石はなんでもいいのぉ?」


 あー……黒曜石みたいな硬い石で作ってたらしいけど、石の知識はないからどれがいいのかわからない。

 とりあえず、硬い石と言っておくか。


「硬い石でお願いします」


「硬い石かぁ……あ、これなんて良さそうだわぁ」


 ケイトとベルルさんも俺と同じ様に石を叩き始めた。


「……あっ」


 俺の叩いていた石が真っ二つに割れてしまった。

 力が強すぎたか? それとも石が柔らかかったか?

 どっちにしろ失敗は失敗、次だ次。

 俺は気を取り直して別の石を拾い、叩き始めた。


「あっ! ……これ、難しいですね」


 ケイトも石が割れて失敗した様だ。


「そうね……でも、やるしかないわ」


 でないと今後の生活に響く。

 せめて1つは完成をさせ……。


「アンちゃん~、これでいいのぉ~?」


「えっ?」


 ベルルさんから受け取った物はまさに石器のナイフ。

 刃先もちゃんと尖っていて、これならなんの問題も無いだろう。


「で、出来上がるの早くないですか!?」


 初めてで1個目の石で出来上がりって、どういう事なの。


「わたし、手芸職人ですから手先は器用なのぉ~」


「そっそうだったんですか……」


 いくら手芸職人で手先が器用でも即出来るのは……いや、これが才能って奴かもしれん。

 となれば、道具作り等はベルルさんに一任した方が良いな。

 その方が確実に効率が良い。


「ベルルさん、石器は消耗品なので引き続き何個か作ってください」


「うん、まかせてぇ~」


 ベルルさんは石を拾い、鼻歌交じりで叩き始めた。

 打製石器は完全に任せて俺は磨製石器を作る事にしますか。

 その方がまだ作れるだろう。


「あの……お嬢様」


 ケイトの声に振り向くと、悲しそうな顔をしたケイトと周りには割れた石が散乱していた。

 どうやら俺以上にうまく作れなかったらしい。


「……一緒に別の作業をしようか……」


「はい……」


 俺とケイトは仲良く磨製石器を作り始めた。



「ただいま~」


 一心不乱に石で石を研いでいると、島を周っていたユキネさんとトモヒロが帰って来た。

 思ったより帰ってくるのが早かったな。


「おかえりなさい。どうでしたか?」


「他に人はおらへんかったわ」


「……そうですか」


 焚き火の煙でここへと来る人は来なかった。

 となれば、この島に流れ着いた人はいないと考えていいだろう。


「あの、日が沈む前にユキネさんが流れ着いた砂浜に移動しませんか?」


「? ここやとあかんの?」


「ケイトが船らしきものを見つけたのが、ユキネさん達が流れ着いた島の北側になります。その浜辺の付近に拠点を置けば、焚き火の煙が船側に見えて救助される可能性が高いと思います」


「船だと断定は出来ていませんが……わたくしはお嬢様の意見に賛成です。救助される確率は少しでも上げるべきかと」


「わたしも賛成ぃ~潮風は気持ちいしねぇ~」


「理由はわかった、ウチもトモヒロも異存はなしや」


『ウホッ』


 1人だけ理由がおかしかったような気がするが……満場一致だな。

 俺達はさっそく北側の砂浜へと向かった。




 北側の砂浜に着く頃には日はだいぶ傾き、焚き火を起こした頃には辺りは薄暗くなっていた。

 今からシェルターを作るのは到底無理だし、今日は簡易的な寝床を作っておしまいにするか。


「なあ~なあ~……お腹空いたわ……なんか食べ物ないかな?」


 あーそれを言わないでくれよ。

 俺だって腹が減ったのを我慢しているんだからさ。


「残念ながら通った場所には食べられる物は見つかりませんでした……今日の所は我慢をするしかないです」


「やっぱそうやな~……はあ~……」


「今日最後の作業をしてから、休みましょう」


「まだやる事あるんかあ~!」


 そう文句言わないの。

 寝床確保は大事なんだから。


「お嬢様、何をやればよろしいのですか?」


 率先して行動してくれるケイトが本当にありがたいよ。

 俺は焚き火の近くにある大き目の木の下へと向かった。


「ケイト、木の枝のしなり具合を見せて」


「しなりですか? ……こうでしょうか」


 ケイトは背伸びをして、ぐっと木の枝を下の方へと曲げた。

 うん、幹からも途中で折れる事もなさそうだな。


「じゃあ、この蔓を枝の先に固く結んでくれるかな」


 ケイトに蔓を手渡し、ケイトは言われるまま枝の先に蔓を結んだ。


「蔓を引っ張って枝を曲げて、もう片方の蔓の先に重石を結ぶ……こうすれば枝が曲がった状態で固定されて簡易な屋根の完成ってわけ」


「おおぉ~これなら雨を防げるわねぇ」


 流石に強い雨だと無理だけどな。

 でも何も無いよりはマシだ。


「本当はこの下にベッドみたいなのを置いて、直接地面に振れないようにしたいんですけどね……」


 今から作る事は出来ないから、硬くて冷たい地面で寝るしかない。


「ベッドならあるで?」


「へ? もっもしかして、何処かの砂浜の上に布団みたいな物が――」


「トモヒロのお腹の上や! フカフカで気持ちええで」


 ……。

 確かにフカフカだろうけど。


『ウホッウホッ』


 うわー自分の腹を叩きながら手招きしているよ……しかも、ものすごい笑顔で。

 何を考えているのか丸わかりだ。


「ん~わたしはぁ……絶対にイヤ、地面で寝るわ」


『ウホーン!』


 速攻ベルルさんに拒絶されてトモヒロがショック受けてるよ。

 ここは俺がと言った方が良いかもしれんが。


「えと……私も遠慮します」


 男としてなんか嫌だ。


『ウホーン!!』


「トモヒロ!? どないしたん!」


 トモヒロが膝から崩れ落ちた。

 そんなにショックを受けるほど期待していたのか。


「お嬢様」


 ケイトがいきなり両手を広げだした。


「……? 何しているの?」


「わたくしの腕の中でお休みください」


「はあ!?」


「お嬢様を硬い地面の上に寝かせるわけにはいきません。ですので、わたくしの腕の中でゆっくりとお休みください!」


 外は少女でも中身は男だ。

 だから、その申し出は非常にうれしい。

 嬉しんだけど……。


「さあ! わたくしの腕の中に飛び込んできてください!」


 目が血走っていて、鼻息が荒いのが非常に怖い!

 頭から食われるんじゃないかと思うほどに!


「だ、大丈夫。私の事は気にしないで」


 身を引いておこう。

 その方が良い気がする。


「えっ! でっですが!」


「あ、明日はシェルター作りをします! 私はもう眠いから……おやすみなさい!!」


 俺はサッと体を横にして寝たふりをした。


「そんな! お嬢様!!」


「トモヒロ! お腹でも痛いんか!?」


「ふあ~……わたしも寝ようっとぉ」


 ……ああ、星が綺麗だ。

 そういえば、前世も含めてまともに星空を見るのはいつ以来だろう。


「お嬢様あああああああああああ!!」


「トモヒロ! トモヒロオオオ!!」


 心が穏やかで辺りが静かな時に見たかったな。

 そう思いつつ俺は耳を塞ぎ、無理やり眠りにつくのだった。

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