7・朝ご飯

 無人島の朝は早い。

 というより、硬い地面の上でまともに寝られなかったから日が昇ると同時に起きてしまった。


「おはようございます、お嬢様」


「あ、うん、おはよう」


 ケイトは俺よりも早く起きていたようだ。

 まぁ早起きの習慣があるから別におかしくないけど、なんか目が腫れている様に見える。

 ……昨日の夜の事がそれほど悲しかったのか?

 ちょっと罪悪感を関してしまう。


「んん……あいたたぁ……2人ともおはよぉ~……ふあ~」


 ベルルさんがアクビをしつつ、腰をさすりながら起きてきた。

 あの感じだと、俺同様にまともに寝れなかったようだな。


「おはようございます」


「おはようございます、ベルル様」


「野宿って初めてだったんだけどぉ~地面って硬いのねぇ~」


 そりゃそうだ。

 このまま地面の上で寝ると安眠も出来ないし、地面に体温が持っていかれていく。

 そのせいで体力の消耗がより激しくなってしまう。

 だからベッドみたいなのを置いて、その上で寝たかったんだよな。

 シェルター作りと同時に、すのこの様な簡易なベッドでもいいからさっと作ってしまったほうがいいかもしれん。

 その為には今すぐ行動を開始したいんだが……。


「す~す~」


『ぐごぉーぐごぉー』


 ユキネさんがトモヒロの上で気持ちよさそうに寝ている。

 トモヒロも地面の上なんて関係なく爆睡しているし。

 うーん、あれを見ると拒否した事を少し後悔している自分がいるな。

 まぁそれは置いておいて……気持ちよさそうなところ申し訳ないが起こさせてもらおう。


「ユキネさん、トモヒロ、起きて下さい」


「す~す~」


『ぐごぉーぐごぉー』


 起きる気配がまったくない。

 声をかけるくらいじゃ駄目だな。

 もう、仕方がない。


「ユキネさん、トモヒロ、起きて下さい!」


 今度は声を張り上げつつ、トモヒロの体を揺らした。


『ンー……』


「あっ」


 すると、トモヒロが寝返りをうった。

 当然その上で寝ていたユキネさんは体勢を崩し、思いっ切り頭から地面に落ちてしまった。


「――プギャッ!!」


 うわー今のは痛そう。


「あたた~……もう~なんなの?」


 ユキネさんは顔を押さえながら起きてきた。


「あの、ユキネさん、大丈……」


「もうううう! トモヒロ!!」


 怒ったユキネさんがトモヒロの上にまたがり、胸ぐらをつかむ感じでトモヒロの毛を引っ張った。


「あんた、またウチを落としたな!? いつも言うとるやん! ウチが寝てる時は寝返りをうつなって!」


 ブンブンと揺さぶっているが、トモヒロは起きる気配がまったくない。


「この! この! 呑気に寝てやんと起きいや! トモヒロ!!」


 今度はトモヒロの顔を往復でビンタをし始めた。

 それでも寝ているトモヒロ。

 ユキネさんの力が弱いのか、トモヒロの皮膚が分厚いのか。


 その後、ユキネさんの手が真っ赤に腫れ始めた頃にトモヒロはようやく目を覚ました。

 頬をポリポリとかきながら……。



 トモヒロが起きたのでようやく焚き火をおこせることが出来た。

 さて、今日のやる事を話すとするか。


「え~と、今日やる事ですけど……」


 ――ぐぅ~


 俺の声をかき消すように、お腹の虫が鳴る音が聞こえてきた。

 その音の主であろうユキネさんが、恥ずかしそうに両手でお腹を押さえた。


「あははは……お腹がペコペコで大きな音が出てしもうたわ」


「そうねぇ~わたしもお腹が空いたわぁ……」


『ウホ……』


 まずいな、2人と1匹の士気がめちゃ下がっているのが目に見えている。

 ケイトだけならともかく、この状態でシェルター作りを優先しますとは非常に言いにくい。

 これは士気をあげる為にも、食料を手に入れる方が良いか。


「……食料か……」


 問題はどうやって手に入れるかだ。

 昨日、森の中を歩いた時には食べられるものは見つからなかった。

 森が駄目なら海でってなるけど……魚が獲れる釣り竿、網、罠といった道具はない。

 手掴みで捕まえられる気もしない。

 それが出来るとすれば貝と海藻くらいだけど、果たしてどの位の量が捕れるかだよな。

 けど、何も口にしないよりかはマシか。


『ウホー……ウホ? ッウホウホ!!』


「ん?」


 トモヒロが急に騒ぎ始めた。

 なんだ、どうしたんだ。


「なんや、そんなに騒いで? なんか見つけ……ああっ! みんな、あれ見て!」


 ユキネさんが木の上に向かって指をさした。

 その先を追ってみると10mほどの高い木の先に1粒1粒が大人の拳サイズ位で、大きなブドウの様な実がなっていた。


「あっあれは……」


「まだ青いですが、グレップルの実ですね」


「グレップルゥ! なら食べられるじゃなぁい」


 この世界の果物の1つグレップル。

 見た目は大きなブドウだが、皮は黄色でリンゴの様な食感がする甘い果物だ。

 高い場所にあったのと緑色、来た時は辺りが暗くなってきていたから気が付かなかったな。

 ただ、まだ熟していないのが気になる所だ。


「食べられますけど、熟していない物は食べた事が無いので味の方は何とも……」


「でもぉ毒は無いでしょぉ?」


 屋敷で呼んだ図鑑には未熟の状態でも毒は無いと書かれてはいた。


「そうですね、毒はないですが……」


 大抵、未熟の状態って美味しくないんだよな。


「そんなの食べてみればいいだけやん、ウチに任せて!」


 そう言うとユキネさんが石器ナイフを口にくわえて、スルスルと木を登っていた。

 すげぇーヤシの木みたいに途中で枝がないタイプの木なのによく登れるな。


「……じゃあ落とすで~」


「あ、ユキネさん! 1房だけお願いします。残りはそのまま置いておいてください!」


 これも大事な事。

 実は刈りとってしまうと、実はどんどん痛んでいく。

 だから保存できない場合は必要以上に採らずに木に残して置く。

 そうすればある程度保存できるわけだ。

 まぁその間に虫や鳥、熟しすぎとかで食べられなくなる可能性もあるが。


「わかった~! トモヒロ、ちゃんと受け取ってな! よっ」


『ウホッ!』


 ユキネさんが石器ナイフでグレップルの実を切り落とし、トモヒロが受け取った。

 ここで朝ご飯ゲットできたのは大きいぞ。

 いや、果物だからデザートか?

 まぁどっちでもいいか、食料を手に入れた事には間違いないしな。


 俺達は手に入れたグレップルの実を分け合い、同時にかぶりついた。


「「「……」」」


 そして、しかめっ面になり無言。

 まだ熟していないから、硬いのは仕方ないとして……全く甘味がなくて非常に渋味が強い。

 グレップルって熟していないとこんな味だったのか。


「……これ……食べやなあかんの?」


 言いたい事はわかる。

 けど、ここは我慢をするしかないんだ!


「き、貴重な食べ物ですから、食べないと駄目です! ハグッ! ハグッ!」


 俺はほぼ噛まずに、無理やりグレップルを胃の中へと押し込んだ。


「……そうですね……モグモグ」


「うう……苦いのは平気だけどなぁ……はむ……」


 ケイトとベルルさんもグレップルを口へと運び食べ始めた。


「…………うううう……ええい! ままよ! ハグハグハグ!」


 ユキネさんも泣きながら食べ始めた。

 そう、それでいい……生き残る為には我慢も必要なんだ。


『ムシャムシャ……ウホホー』


 と俺達が苦しんで食べてる中、トモヒロだけは笑顔でうまそうに食っている。

 モンスターだからなのか味覚音痴だからなのかわからんが……どっちにしろ笑顔で食べるな! 非常に腹が立つ!

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