第2章 無人島の日々
5・生活開始
「そうだったのぉ……ここは無人島で、皆さんは遭難された方々だったんですかぁ」
まさか同じ説明をまたする事になるとは思いもしなかった。
「そういう事や。あ、ウチはユキネで、あの子はトモヒロです」
『ウホッ』
「私はアン・ヴァンストルです」
「侍女のケイトリンです。ケイトとお呼びください」
この自己紹介もちょっと前にやった。
「ユキネちゃん、トモヒロちゃん、アンちゃん、ケイトちゃんねぇ~。わたしはベルル・ハリスですぅ~。でも困ったわねぇ……わたし、お使いの帰りだったのよぉ、明日には帰れるかしらぁ?」
いつ帰れるかどうかは運しだい、俺も明日帰れるなら帰りたいよ。
それにしても、お使いの帰りで鳥に連れ去られたのに動揺した感じが無いってすごいな。
肝が据わっているのか超マイペースなのか……このおっとりした感じだと後者っぽい。
「それは難しいと思います。ですから、救助される日までお嬢様の知識でこの島で生活をするつもりでした。ですよね、お嬢様」
「え? あっ……そ、そうね」
人が増えると出来る事も増えるから、協力してくれると助かるんだけどな……。
果たしてこの小娘の意見を聞いてくれるのだろうか。
「アンの知識? さっきの水みたいな事?」
「はい、そうです。お嬢様は幼い頃より本を読みかなりサバイバルの知識もかなり豊富なんです」
ケイト、かなりは盛りすぎ。
確かに本はたくさん読んだけど、サバイバル関係は前世で見た動画の内容を思い出しているだけなんだよ。
「先ほども枝と枝を擦り合わせて、見事に火をおこしました」
それはケイトがいたおかげ。
俺1人だったら絶対に火をおこせてなかった。
「枝と枝でぇ? すごいじゃない~」
「火……あ~、あの煙は2人がおこした奴やったんか。ウチ等、あれを目印にして山を登ったんや」
それであの場所で鉢合わせしたのか。
……あっユキネさんが煙を目印にしたのなら、この島に流れ着いた他の人も煙を目印に進んでいたかもしれないじゃないか。
しまったな、そこまで考えが及ばなかった。
「ですので、ここはお嬢様を中心に事を運ぶべきだと思います」
ケイトが推薦してくれたけど、2人はどうかな。
生き抜く為には、みんなの力を合わせないといけない。
受け入れてくれればいいが……。
「うん、ウチはそれでええよ。サバイバル知識なんて0やし」
「わたしもそれでいいわよぉ~」
よっ良かった。
否定的な意見は一切なかった。
「わかりました。精いっぱいやらせていただきます」
人が増えた分、よりがんばらないとな。
「では、さっそくどうしましょうか。水は見つかりましたけど……」
「そうね……」
出来れば水源にたどり着きたかったけど、ユキネさんの様な件もある。
今日はこれ以上大きく移動をしない方が良いかもしれんな。
「先ほどの沢の近くまで戻って、火をおこしましょう」
「わかりました」
「決まりやね」
俺達は沢の方へ戻ろうとすると、ユキネさんがトモヒロを呼び止めた。
「あ、トモヒロちゃんちょっといいかなぁ~?」
『ウホッ?』
ベルルさんはトモヒロの両肩をつかんだ。
どうかしたのだろうか。
「え~とねぇ……」
ニコニコしていたベルルさんの顔が真顔になったかと思うと、うさぎ耳がねじれて鬼の角の様になり、糸目がカッと見開きギョロリと茶色の瞳でトモヒロを睨みつけた。
「「「『――っ!?』」」」
その姿に俺達は全員絶句し、固まってしまった。
「助けてくれた事には感謝しているわ」
「「「『――っ!?』」」」
ベルルさんの優しくのんびりとしたお姉さんボイスは何処へやら。
ものすごい低音の声で同じ人物が発したとはとても思えない。
「けど、そのどさくさに紛れて胸やお尻を触るのは良くないわよ」
目の前にいるのは本当にベルルさんなのか?
別人にいれかわってないか?。
「また触ったら……わかっているわよね?」
『ウヒイイイ!! ウホウホウホうご!!』
トモヒロは頭が取れるんじゃないかってくらい上下を繰り返した。
「わかればよろしい…………さっみんな、いきましょうかぁ~」
ベルルさんの目は閉じられ、ウサギ耳と声が元に戻った。
トモヒロは腰が抜けたのか、その場に座り込んでしまった。
こっこわい! おとなしいとはいえモンスターのイエティを、圧で倒してしまった。
「ベッベルル姐さん、恐ろしい人や……」
「怒らせてはいけないタイプですね……」
「そ、そうね……気を付けましょう……」
この島で最初の共通ルールがさっそく出来た。
【ベルルを怒らせてはいけない】
※
俺達は乾いた落ちている木の枝や枯れた草を集めつつ、沢の近くまで戻った。
「ん~……よし、ここにするか」
そう広くはないけど、いいスペースを発見。
地面は平らだし、焚き火の火が燃え移りそうな場所でもない。
雨が降って来て増水してもここまでは水は来ない。
「ここで焚き火をしましょう。トモヒロ、火をおこすのを手伝ってくれないかな?」
『ウホ?』
「アンちゃん、トモヒロは細かい作業は苦手やけど大丈夫なん?」
「大丈夫です、ひみぞ式は簡単なので」
俺は拾った太めの木の枝をナイフで半分に割り、別の細い枝の先端部分を軽く削って尖らせた。
「この半分に割った太めの枝を地面において、その上に細い枝の先端を斜めにセット。後は、細い枝を前後に動かすだけです……こんな風に」
俺はゴシゴシと枝を前後に動かした。
ふぅ……手本を見せる為にやったけど、もう腕が痛いし疲れた。
これは力と体力もしくは手慣れた人でないと火はおきんな。
「へぇ~それで火がつくんか」
「はい、これならトモヒロの力で楽につくと思います。枝を折らない様に加減はしないとですけど」
「よし、トモヒロ! 腕の見せ所やで!」
『ウホッ! ウホオオオオオオオオオオオオオオオ!』
トモヒロは高速で枝を上下を動かした。
予想通り、あっという間に太い枝に摩擦で焦げた黒い溝が出来上がり、小さくて赤く光る火種が出来た。
「ストップ! ストップ!」
トモヒロの手を止めて、出来た火種をもみほぐした枯れ葉と木の皮に落としてた。
そして包み込んで……。
「ふぅ~……ふぅ~……」
優しく息を吹きると、もみほぐした枯れ葉と木の皮火が燃え上がった。
急いで燃え上がった火の上に枝を乗せていって、無事に火おこし完了。
いやはや、ケイトとやった時は大変だったのに一瞬で出来たよ。
「おお! 本当に火がついた!」
「へぇ~こんなやり方があるのねぇ」
普通の人にはお勧めしませんけどね。
「火おこしは、これでよし……次なんですけど、ユキネさんとトモヒロはざっとで島の周りをぐるっと回って、他に人がいないか確認をしてもらえませんか?」
この島はそこまで大きくないし、日が落ちる前には十分戻ってこれるだろう。
焚き火の煙で迷う事も無いだろしな。
「ええで、まかしとき。トモヒロ、行くで!」
『ウホッ!』
トモヒロは肩にユキネさんを乗せ、颯爽と森の中を駆け抜けて行った。
「お嬢様、残ったわたくし達はどうすれば?」
「火の番をしながら沢の石を拾って、石器を作ろうと思うの」
「石器ぃ?」
「はい、ナイフは1本だけなので出来る限り消費を抑えたいんです。となれば、石でナイフを作るのが良いかと思いまして」
「アンちゃんって石器も作れちゃうんだぁ」
「作り方を知っているだけで、作るのは初めてですけどね……」
石器の種類はナイフの他にも槍や斧がある。
槍は漁、いるかどうかわからないけど動物の狩りで使うし、斧は木材を手に入れる為には絶対に必要だ。
生活に欠かせない物だから、ちゃんと作りあげなければいけないな。
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