4・落ちてきた人
俺は少女に船旅の途中で嵐に襲われた事、ここが無人島である事を話した。
「そうやったんか~、2人もウチと同じ目におうて無人島に流れ着いたんか……」
「同じ?」
「ウチも船旅で嵐に襲われたんや。貨物室の檻の中におるトモヒロ……あ、あのイエティの名前な」
『ウホッ』
イエティが右手を上げて、歯茎が見えるほどの笑顔を見せた。
トモヒロってまたすごい名前だな……。
「の事が心配になって急いで駆け付けたら、床が浸水し始めてて……慌てて檻を開けた瞬間に、ものすごい勢いで海水が流れ込んで来て流されてしまったんよ。で、気が付いたら砂浜にうちあげられていたわけや」
「確かにわたくし達と同じですね」
「そうね」
この少女は俺達と同じ船に乗っていたみたいだな。
だとすればお父様、お母様、ヨッセル、他の乗客もこの島の別の場所に流れ着いている可能性があるぞ。
水を探すよりも先に島の外周をぐるっと回った方が良いかな?
うーん……難しい判断だ。
「無人島とはいえ、命が助かったから良しとするか……あ、自己紹介がまだやったね。ウチはユキネや」
ユキネにトモヒロか。
和風の名前に関西の方言のような口調。
ユキネちゃんは俺が住んでいる、ヴルッシュア大陸の東北地方の出身か。
おっと、こっちも自己紹介をしないとな。
「私はアン・ヴァンストル。そして……」
「侍女のケイトリンです。ケイトとお呼びください」
「アンにケイトね。よろしゅうな」
「はい。あのユキネさんってヴルッシュア大陸の東北地方の出身ですか?」
「そうやで~。とは言っても、住んでたのは幼い頃まででな……住んどった村がモンスターに襲われて、ウチは孤児になってしもうたんよ」
「えっ……あ、すみません……」
やってしまった。
地雷を踏み抜いてしまったぞ。
「謝る必要はないよ、辛い思い出やけどウチはちゃんと受け入れてるから……で、その時またまた通りかかった座長に拾われて、今はサーカス団の一員としてショーをやっとるんや」
なるほど、だからそんな派手な格好をしているわけか。
「あのイエティも、サーカス団で飼われているという訳ですか?」
「そうや、トモヒロが赤ちゃんの時に親とはぐれてしもうたのを、ウチが拾って育てたんや。ウチまだ18やのにもう息子がおるみたいやわ」
それで助けようとしたわけね。
にしても、でっかい息子だな。
全長2mちょいくらいあるんじゃないか。
「……ん? ちょっと待って18……? えっ! ユキネちゃ……さんは18歳なの!?」
「そうやで~。まぁ見た目のせいでよく10歳前後に間違えられるけども……」
そうでしょうよ、身長が俺より少し高いくらいだし子供体型。
幼さもあったから勝手に俺と同世代と思っていた。
まさか年上だったとは。
「ユキネ様。確認しておきたいのですが、あのイエティは無害……ですよね?」
「うん、大丈夫やで。10年間一緒に居るけど1度も暴れたり人を傷付けた事はあらへん」
で、このイエティの方は俺と同じ歳なわけか。
「……そう……ですか……」
なんか妙に引っかかる言い方だな。
「ケイト、どうしたの?」
「あ、いえ……あのイエティ、ずっとわたくし達を見ているのが気になりまして……」
「私達を……?」
あーそう言われると、妙な視線を感じてはいたけどトモヒロだったのか。
トモヒロの方を見ると目と目が合った。
『……ピィーピィー』
するとトモヒロは目線をそらして、口笛を吹き始めた。
人間の様な下手な誤魔化し方をしてやがる。
……何を考えているんだ?
「トモヒロの奇行はいつもの事やから気にしやんでええよ。で、アンとケイトはこれからどうするつもりやったん?」
「あ、水を探そうと……」
いや、やっぱり島を回るべきかな。
「水? それなら、あっちに川があったで」
川だって!
「ここから近いですか!?」
「うん、近いよ」
なら、まずは水の確保が優先だ!
「案内してもらってもいいですか!」
「ええよ。こっちやで」
ユキネさんの後を追うと、30cmくらいの幅がある沢が流れていた。
石がゴロゴロと落ちている割に、今流れている水の量はそこまで多くない。
雨が降ったらここに水が集中して、結構な量になるみたいだな。
俺は沢に近づき水を手にすくってから臭いを嗅いだ。
変な臭いは無し、濁ってもいないが……。
「水は透明やし、そんな警戒しやんでも……」
「いえ、川は下流に行くほど細菌が増えてあまり良くないんです。より安全性の高い水を確保する為には、水源に近い上流に向かわないと」
「そうなんか? でも、そんな面倒な事……」
「ここは病院も薬もありません。念には念をが大事なんです」
「なるほどな~。アンってすごい考えてるんやね」
「流石お嬢様、素晴らしい判断です」
これも動画で得た知識だ。
この調子でどんどん思い出して活用していかないとな。
上流に向かってしばらく歩いていると、ギャーギャーと何かの鳴き声が聞こえてきた。
「……? 鳴き声?」
なんだなんだ。
モンスターか?
「上です。2羽の大型の鳥が威嚇し合っている様です」
空を見ると、巨大な鷲と鷹の様な鳥が威嚇し合っていた。
「1羽が持っとる獲物を、もう1羽が奪おうとしているみたいやな」
鷹の様な鳥の足には掴んでいる物がある。
あれを鷲の様な鳥が狙っているわけか……はた迷惑な話だな。
自分のエサは自分で獲れっての。
『ギャア!』
『クワッ!』
「あっ」
2羽の鳥が激しくぶつかりあった。
その瞬間、鷹の様な鳥が足を開いたせいで掴んでいた獲物が落ちてきた。
「――――――――あああああああああああれえええええええええぇ~!!」
「…………ええっ! 人!?」
声も出しているし紛れもなく人間だ。
そのまま、掴まれていた人は近くの森の中へと落ちてしまった。
「た、大変だ!」
「急ぎ向いましょう!」
「トモヒロ! 一直線に進むで!」
『ウホッ!!』
トモヒロが前を走り、茂みをかき分けて道を作っていった。
まるでブルドーザーだな。
おかげですぐに落下地点についたぞ。
「この辺りに落ちたはずなんだけど……」
「あのぉ~助けてもらえますかぁ~?」
上から声が聞こえ見上げてみると、白い服とロングスカートをはいた女性が宙吊り状態になっていた。
服の襟が木の枝に引っかかって助かったのか。
こんなの漫画以外で見た事が無いぞ。
「トモヒロ、助けてあげて」
『ウホッ』
トモヒロが背伸びをして女性を掴み、木の枝から外して地面へと降ろした。
女性はウサギの耳を生やし、青髪でふんわりとした三つ編みをしたスタイルのいい糸目をしたウサギの獣人だった。
「助かりましたぁ~。ありがとうございます~」
「いえ、無傷でよかったです」
にしても、女性を掴んだ時のトモヒロの顔がにやけていた。
さっき俺等を見ていた事も考えると……こいつ、もしかして女好きなのでは?
「わたし急いで帰らないといけないので、ここで失礼しますねぇ」
そう言うと女性は駆け足で俺達から少し離れ、立ち止まり、また駆け足で戻ってきて首を傾げた。
「……あのぉ~ここって、どこですかぁ~?」
やっぱりな、そんな事だろうと思ったよ。
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