第2話 期待には、応えなきゃ。

 その後、A組とB組の選抜リレーの練習は大詰め。

 B組がややリードしている状態で、アンカーにバトンが渡される。


「任せた兼見かねみ!」

「グッジョブ、中川!」


 兼見かねみはバトンを受け取ると、すさまじいスピードで駆け出した。


「うわ、さすが陸上部の次期エース候補」

「金髪美女で足も速いとか完璧かよ」


 僕の周囲の男子たちが盛り上がる。


「待ちなさいよ男子たち。ウチにはしまむーが居るじゃん!」


 委員長の言葉が彼らの盛り上がりを制す。

 それと同時に、我らがA組のバトンはアンカーの島村へ渡った。


「ゴメン、しまむー。縮められなかった!」

「後は任せなさいッ!!」


 バトンを受け取ると同時にスタートダッシュを切る島村。

 優雅に、それでいて風のようにトラックを駆ける姿は、まるで競走馬のようだ。


「いや~、やっぱしまむーだな」

「さすが全中出場者は訳が違うな」


 高校では陸上部に所属していないものの、彼女は中学校時代に全国大会出場という華々しい記録を残していた。

 それを知らない誰かが彼女の走りを見ても、きっと目を奪われることだろう。

 それほどまでに美しい走りだった。


「しまむ~! がんばれ~!」

「いっけー島村ー!」

「あとちょっとだぞー!」


 クラスメイトたちの声援が大きくなっていく。

 それもそのはず、島村は前方にリードする兼見かねみとの距離を、あと少しで並ぶところまで詰めていた。

 トラックの距離は残り半分。あと半分で兼見かねみを島村が追い越せば我がA組の勝利だ。


 島村は鬼気迫るような表情で兼見かねみに迫る。追い越させまいと兼見かねみもスピードを維持する。見ようによっては加速しているようにも見えた。

 彼女たちと、彼女たちの激闘を眺める僕らとの距離は遠く離れているが、息遣いがこちらまで聞こえている気がした。

 トラックの距離は残り四分の一。島村はほぼ拮抗する位置にまで兼見かねみを追い詰めている。

 ゴールは目前。その時だった。


 島村が盛大に転倒したのだ。


 頭から飛び込むようにゴールに突っ込もうとするも、伸ばした手の先端はわずかにラインに届かない。

 その間にトップスピードまで加速した兼見かねみがゴールテープを切り、勝者はB組となった。


「あ~、しまむー惜しかった!」

「ははは!」

「ちょっとしまむーらしいかも」


 落胆と安堵が入り混じった声。

 負けたとは思えない和やかな空気が広がった。


「たはは。転んじゃった……」


 メンバーに囲まれ、頭を掻きながらクラスのまとまりに戻る島村。


「本番はきっと大丈夫だよ!」

「しまむーなら何とかできるって」

「転ばなきゃ追い抜いてた」


 クラスメイトに囲まれる彼女。


「ありがと。本番は転ばないから!」


 そうやって周囲の励ましに力強く応えたかと思えば、

「あ、用事思い出した」

 と唐突に手を振って駆け出し、校舎の方へ走り去った。

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