快速娘と無関心男子~私の楽しそうなとこ、見たいって言ったよね?~

こばなし

第1話 ねえ、ちゃんと見て。

「おーい、向井くん」


 教室で読書をしていると、本を取り上げられた。

 僕の世界に入り込んだ声の主は、ジャージ姿の女子。

 彼女の名は島村透子とおこ

 面倒見がよく、誰彼分けへだてなく話しかけるタイプだ。


「ちょっとは関心持とうよ。皆もう校庭に出てるよ?」

「いや、無関心さは優しさだから」


 関心を持って人に近づくと、互いにどう傷つくか分からない。

 なので他者に関心は抱かず、ひたすら内面と向き合うことこそが優しさなのだ。


「何それ」


 彼女みたいな人種には理解できないのだろう。

 困り眉毛で小首を傾げると、後ろでまとめたポニーテールがふわりと揺れた。


「小難しいこと言ってないで、早く行くよ!」

「分かってるって」



 放課後の校庭はオレンジ色の夕陽で染め上げられていた。

 彼女に半ば強引に連れだされたのは体育祭の練習である。

 クラスで自主的に練習することになったのだ。


「はー、疲れた」

「え、向井くん何かした?」

「走っただろ徒競走」


 影の薄さには定評がある。

 1着でゴールしているにもかかわらず、2着のヤツが1着だと勘違いされるくらいには。

 あまりにもクラスメイトと関わらなさ過ぎて、存在を認識されていない可能性もある。


「冗談だって。まあ、走ったのか分からないくらい速かったってこと」

「見え透いたお世辞をどうも」


 島村に言われてもさして嬉しくはない。

 一緒に走ったメンバーが遅かっただけだ。

 あと、他にも理由がある。


「最後、選抜リレーやるぞ」


 音頭を取る体育委員の声に数人が返事を返す。

 既に一通りの練習を終えており、残るはクラスの選抜メンバーによる選抜リレーだ。

 その中には島村も含まれている。


「本番を意識して他クラスのメンバーを連れてきた」


 そう言って体育委員はB組の連中を連れてきた。


「しまむー、ウチと勝負だね」


 我らがA組と対するB組の選抜メンバーが準備をする中、島村に話しかけてきたのはB組の中でもひときわ目立つ女子だった。


「ふふ。負けないよ、かねみー」


 島村がかねみーと呼んだ彼女は兼見かねみひかる

 明るい金髪に青い瞳は、彼女の出生のルーツが海の向こうであることをものがたっている。


「皆の期待、背負っちゃってるからさ」

「……しまむーは相変わらずだね」


 両者の間に軽く火花が散ったように見えた。

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