第6話 まだ道連れ中です

 どうやらエアハルトは私達の話しを聞いていたようでした。耳聡いですね。

 

「ネーポムクはロータルに魔法を教えるのか、何だか楽しそうだな。どこで教えるんだ?家は無いんだろ、どこか借りるのか?」

 

 何故かエアハルトが私達の事に興味を持ち色々と聞いてきます。

 

「いんや、旅を続けながらの方がいいだろ。ロータルには追手がかかるかもしれん」

 

 そこのリスクを背負ってでも魔法を教えてくれるとは、良い人のように見えます。さてここから上手くエアハルトを引き込まなければいけません。

 

「旅か、それもいいな。俺は村から出たことが無かったから凄く楽しみだよ。エアハルトは泥棒あいつを引き渡した後は何処へいくつもりなんだ?」

 

 世間知らずを装って聞いていますがこの場所からしばらく主要な道は一つしかありません。今いる所は国の中でも極東と言われるほど辺鄙な所で街道を西へ向かわなければ村もない深い森や山を越える事になります。そこを行くのは逃亡者くらいでしょう。

 

「特に決めて無いんだ」


 エアハルトはクスッと笑って答えました。きっと私が道が一つしか無い事を知らないんだなと思っているんですね。ロータルもそれくらいの知識は持ってますよ。


「だったら一緒に行かないか?俺は旅に不慣れだから一人でネーポムクに毎日肉を食べさせられるか心配なんだ」


 ちょっとお馬鹿なふりをして身を乗り出し誘ってみました。待っているばかりではパーティを組めないですからね、ここは積極的に出ましょう。


「俺はかまわないよ。ネーポムクもいいかな」


 視線を向けられたネーポムクはフンッ鼻を鳴らします。


「最初からそのつもりだったろ?」


 私とエアハルトの両方を見てそう言われました。この爺さん何を知ってどこまで先を読んでいるのでしょうか?不思議な人です。


「あぁ、バレたか。悪いな、実は一人だとちょっと行き詰まってて」


 答えたのはエアハルトでした。彼の話によると冒険者の一人旅は余程の功績が無ければ結構不自由らしい。辺鄙な村ではそもそも入ることを拒まれたり、入れたとしても監視下に置かれたりとゆっくりと体を休めるつもりが逆に気疲れすることもあるらしい。

 それでも時々は魔物に怯える事無く過ごす時間や、食べ物や物品の購入のために村や町に入らなくてはいけない。


「小さい村ならまだましかと思ってこの辺りへ来たんだけど余計に閉鎖的な所もあって少し中央へ向かおうかと思っていたんだ」


 エアハルトはギルドに登録した冒険者だけどランクがC級だから身分証明は出来てもそこまで信用がないようです。人は自分達の役に立つかどうかで判断する時もありますからね。


「そんな裾が破れドロドロに汚れたマントに何度も修繕した事がわかる革靴。シャツもズボンも汚くて髪もボサボサで金も持って無さそう。村で悪さでもするんじゃないかと疑われても仕方がない格好だの。

 パーティでも組んでいればダンジョンからの帰りとか、頑張って難しい依頼をこなしたのか、なんて思ってもらえて怪しまれなくなるからの」


 ネーポムクがそう私に向かって話してくれました。

 なるほど、同じ人物でも同行者がいるのといないのとでは受け止め方が変わるんですね。人って不思議です。


「人間というのは厄介な生きもんだ。時々関わるのが面倒になる」


 ネーポムクも一人で旅をしていて同じ様な思いをしてきたのでしょうか?それなのに私に魔法を教える気になったのはエアハルト同様やはり少し行き詰まっていたのかもしれませんね。


「今はたまたま川が見つけられなくて汚れてるけど、いつもはもう少しましなんだ。でもさすがに我ながら酷いな」


 ネーポムクにボロくそに言われてエアハルトが自分の服装を改めて見ていました。


「大丈夫さ、ボロさなら俺も負けてない。この服だって村のやつが捨てたのを拾ってきたやつだから」


 フォローするつもりで笑顔でそう言うとエアハルトがため息をつきました。


「やっぱり村へは帰らない方がいいな」


 思っていたのと違う反応でしたがそれ以上何も言ってきませんでしたから大丈夫なのでしょう。



 夜明けを待って出発しました。ここから次の町まで丸一日だそうです。日が暮れるまでに到着するよう街道をひたすら歩いていました。

 エアハルトが泥棒を見張って繋いであるロープを持ち、私とネーポムクは少し後ろからついて行きながら魔法について教わっていました。


「お前にはどこから話せばいいかの」


 ネーポムクは少し悩んだ後先ずは適正かと呟き私に拾った小枝を渡して来ました。


「魔力を使って様々な現象を起こすことを魔法と呼ぶ」


「はい」


 知ってますよ、勿論。


「魔力には限界があるものだから上手く操り最低限の魔力で最大の効果を出せる者が上級魔法師に近づく第一歩だ。くれぐれも使い切らないようにな、魔力切れは命にかかわる」

「なるほど、調節が必要なんですか」


 魔王って膨大な魔力を誇っていましたからこれまで魔力の調節とかあまり考えたことが無かったです。いつも思いっきりブチかませば良いと思っていましたから新鮮な話ですね。


「では早速この枝に火をつけろ。"燃えろ"と唱える時に己の身の内にある魔力を言葉に乗せ狙った物をどう変化させたいのかしっかりと意識するんだ」


 なるほど、これが人が魔法を覚える初歩のやり方ですか。私はいつから魔法を使えるようになったのか、どういう風に覚えたのかも記憶にありませんから興味深いですね。


「えぇっと、魔力に、詠唱に、狙って、変化と……」


 何だか少し面倒くさいですね。これはもう適当に誤魔化して言葉だけ言っておけばいいでしょうか?


「"燃えろ"」


 魔力を少し放出し握った小枝に向かって詠唱しましたが一向に変化は見られません。当然ですね、私は攻撃魔法は使えませんから。ロータルの体ならもしかしたら使えるかもなんて思いましたが無理でした。


「うむ、次は"凍てつけ"だ」


 ほほう、火魔法が使えなくても氷魔法なら使えるかもと言うことですね。


「"凍てつけ"」


 はい、やっぱり無理です。

 こうやって一つずつ"爆ぜろ"だの、"穿て"だのと色々と攻撃魔法を詠唱してみましたがことごとく無反応で、エアハルトが声をかけてきたので一旦魔法の訓練は止めました。


「そろそろ昼だから休憩しよう」


 皆でエアハルトが持っていた僅かな干し肉をかじるだけの食事をとっていました。


「ロータルは攻撃魔法が使えないのか、残念だったなって言えば良いのかな?」


 エアハルトが気遣うように言いました。冒険者からすれば攻撃魔法が使える魔法師の方がダンジョンや戦いに目に見えて使えますからそっちの方が上だと見ているようですね。

 ですけど違います、違いますよ。補助魔法があってこそ攻撃魔法はより有効に思う存分使えるのです。これだから素人は困るんです、わかっていませんね。


「何にもわからんくせにいらぬ口をきくな。魔法の種類に優劣は無い。あるのは使い手の技量だけだ」


 流石ネーポムク、良いこと言いますね。勿論私には最高の技量があります、魔王ですから。


「そうだよ、攻撃魔法は一見派手だけど攻撃だけじゃ強敵には勝てない。補助魔法があってこそなん……と、思うよ」


 おっと、危うく魔法での戦いを事細かに説明しそうになってしまいました。ネーポムクも少し驚いた顔をしていますね、気をつけなければいけません。


「なかなか見どころがあるな、ロータル。確かにお前の言う通りだ。魔法師は敵を倒す為にいかに効率的で的確な攻撃を仕掛けるかで戦闘時間や状況が変わってくる。その為、攻撃魔法の使い手は課せられた仕事を全うするために言わば全力で敵に相対している。だからこそ自分の背中を任せる補助魔法の使い手には優秀な者が必要なんだ。パーティ全員の命が掛かっとるからの」


 そう!そうなんです!補助魔法は味方の命は勿論、それぞれが最高のパフォーマンスを出せるよう戦況を整える為の唯一無二の存在なんです。

 まぁ、魔王である私はそれら全てを自ら行い常に勝利していましたけどね!……あっ、常ではありませんでしたね。だからここにいるんですから。



 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る