第7話
「着きましたねー。」
公園を出るとそこは大きなショッピングモールだった。
本屋や、服屋、電化製品売り場など様々な店が大きな通りにはみ出ることなく並んでいる。
扉はなかったが1階から3階が吹き抜けになったエントランスのような場所が迎えてくれる。
「一度やってみたかったんですよね!デート……というか誰かとの買いものに憧れがあって。」
「服とか選び合ったり、クレープとかシェアしたり、普通の学生みたいな関係性ってやっぱり素敵ですよね?」
頷き、「そうだね。」と言った。
「さっそく、回りましょっか。……と言っても見どころはあまりないかもしれませんが。」
チラリと見た視線の先にはどこかで見たような名前をした店舗達が並んでいる。
「ここも、ここも、入ることはできないんですよね。」
壁のような。しかし質感はガラスの扉がある、先には行けず、ぼやけて中に何かがある程度はわかる。
「物が欲しいときはどこでも出せるし。どこかに行かなくてもなんでもできる。だから私ができるのはここの案内ではなく場面の転換なんですよね……。こう言っては失礼かもしれませんけど。ほんとは普通の人みたいな生活に憧れるんですよね。」
その表情は物憂げで切実で、だけど、どうしようもないともわかっていて寂しげだった。
なんとかしてあげたくて提案した。
「え?あなたの記憶からこのショッピングモールを再現するですか?さっきのゲームみたいに……。うーん……できるかな?」
「そうですよね。やる前から諦めるのは私らしくありませんよね!」
「よし、気合いれました!頭かしてください。」
彼女がこちらの頭を抱える。
おでこがぶつかり、彼女は目を閉じた。
先ほどより長い時間このままだった。呼吸が止まったように静かだ。
彼女の真剣な表情がだんだんと険しいものへ変わっていく。唸り声を出しながら汗を浮かべている。
「はぁ、はぁ……終わりました。でも……できるかは別ですね。全部そのまま出してしまったら歪んでしまうと思います。それぞれが。」
「感覚の話なんですけどこれだけ大きなものを映すのは難しいです。画面くらいなら大丈夫だったんですけど……。」
「無理はしないでほしい。」自分から言ったことなのに負担をかけただけだった。汗を拭う姿に目を背けたくなる。
「でも、ですね。」
「一軒ずつならいけそうです!」
彼女がひとつの店舗の扉に触れると。一瞬、淡く光った気がした。
自動ドアがあたりまえに開いた。中に進めそうだ。
「やりました!さぁ、早く早く!」
急に元気になった姿を見て安心する。
続いて中に入ると「わあーー!」と彼女は声を漏らしていた。
「服ってこんなに柔らかいんですね。制服と私が持っている一着以外に触るのは初めてです!これがニットですね!」
店内は季節など知らないと言わんばかりに多種多様な服が並んでいる。
「こっちはなんだかサラッとしてますね。あ!これかわいい!」
「そうだ!せっかくだから着比べてみますね!いいですか?」
「いいよ。」と言うと「ありがとうございます!」と走ってフィッティングルームの方へ向かった。入り際に言う「覗かないでくださいね?」はさっきも聞いた気がする。
程なくしてカーテンが開かれる。
「どうですか?」
彼女は薄手のシャツとロングスカートというシンプルな恰好で姿を現した。
服のあちこちをつまみながら不安そうに後ろと前を見回している。
「かわいい。」ゲーム内では絶対に見ることができない姿に感動を覚えた。
「ほんとです?似合っていますか?」
「ふふ、嬉しいです。」
「じゃあ、次はコレとコレで。あ、でも今着てるやつとコッチを合わせるとまた違う雰囲気になるかも……。」
「あ!あなたも一緒に着替え合いましょうか?試着室はもう一つありますから。ほら、コレなんかあなたに似合うと思うんです。どうですか?」
「やった!そうこなくっちゃ!」
勧められるままにたくさんの服に着替えた、彼女は彼女で気に入った服に着替えた。
それが何時間も続いた。
「楽しかったー!付き合ってくれて、ありがとうございます。じゃあ、次行きましょうか!」
「こっち、こっち!」
楽しそうで無邪気な彼女についていく、どうやらしばらく振り回されることになりそうだ。
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