第5話

「私はコレとコレでいつも通りのカスタムでいきます!あなたはどうしますか?」


フレーム、タイヤ、などが5種類ほど並び、そこから選択するようだ。


「ふむふむ、えー!全部スタンダードですか?面白みがないですね。でも、初めてなら仕方ないですよね。」


「じゃ、さっそくやっていきますか!準備完了!」


画面が二分されレース場に8台のレーシングカーが並ぶ、そのうち二つが自分たちの物で他は賑やかしのNPCだ。NPC……?


「さあ!始まりますよ!3、2、1……。」


「スタート!ああ!スタートダッシュ、ミスったー!」


スタート直後の彼女の車体から煙があがる。

自分は無難にスタートの文字が現れてからアクセルを吹かした。


「あちょ!ちょっと待って!ちょっとだけ待ってください!置いてかないでー!」


ゲーム上で彼女の車体が遠くなる。隣にいるはずの彼女が遠くに感じた。


「もおー!待ってくださいよ。」


彼女はゲームが下手だ。ゲーム内の配信ではミスをしたときの叫び声をよく聞かされた。

しかし、知ってはいたが本当に楽しそうにゲームをする。


「よしよし、スタートダッシュこそ失敗したけど、いい感じに走れてる。今からでも遅くないはず!あなたには負けませんからね!いいアイテムこい!」

「えー!キノコぉー!これじゃ追いつけないよ!」


キノコは少しの間だけ加速できるアイテムだ。

コースのショートカットでよく使われるものだが、彼女はそういうことは考えずにすぐに使ってしまう。


「あー!壁ぇぇぇ!キノコ苦手なんですよね。急に速くなるのに対応できなくって」

壁にぶつかり勢いがなくなる。彼女がアイテムを使うと距離が広がった。

遠慮なくゴールに向かって進んでいく。


「あ、ここカーブか。S字のカーブは苦手なんですよね。」


「おおーー!よぉー!」


ゲームをしていると身体が揺れる人がいるというが彼女はそれがすごく酷かった。

倒れそうなくらいに右へ左へと揺れている。


「ああ!」


アクセル踏みっぱなしでS字を走る車体は無情にも奈落に落ちてしまう。


「もう!こんなところ走らせるから。」


それはそう。


「どうしよー!もう追いつけないよ!」


「……ちょーっと待ってくれないかなぁ?」


ゲーム配信者としてはたしてそれでいいのだろうか?

しょうがないので少しだけ待つことにした。NPCの車に次々と抜かされていく、途中妨害アイテムをぶつけられたりもした。


「ありがとうございます!ほんとに!」


10秒ほど待つと彼女の車体がこちらに追いつく。

通り過ぎる間際ぐらいで妨害アイテムをぶつけられる。


「あっはっはっは!この世は弱肉強食!隙をみせると狩られるんですよ!じゃあねー!」

「あ……。」


コース取りを間違え、また奈落へと落ちる。ちゃんと彼女は狩られる側だった。


「落ちゃった……。あー……。いまのなかったことにできませんかね?」


「できない。」と答える。


「ですよねぇ……。」


その後並んで走っていく。プレイヤー同士の最下位争いが始まった。

集中してお互いに無言になる。ゲームの音だけがなっていた。


「さあ!ここが最後の直線です、ここまで私も安定して走れてます。そして、最高速は私の方が上。この意味がわかりますか?」


「そう、私の勝ちです。ってあー!」

「負けちゃった。」


最後に獲得できたアイテムはキノコだった。少しだけスピードが上がり彼女の車体を抜かす。


「でも、楽しかった。こんなのは初めてです!」


「それにしても!あなた。ゲームうまいですね。なんで初めてなのにそんなにできるんですか?」


「はへー!あなたの世界にも同じようなゲームがあったんですね。というか作者がそっちにいるから、そっちのほうがオリジナルなんですよね?なんか不思議。」


「よければ、教えてくれませんか?」


つめるようにこちらへと寄ってくる彼女の顔が近い。隣に座っているのだから当たり前だ。

動揺を隠すように「もちろん。」と言った。


「やったー!……ところであなたの世界にも同じようなゲームがあるんですよね」


「よければ……そのよければなんですけど、そっち側にあるゲームについて教えていただけませんか?」


「わかった。」と頷いた。


「よかった!」と言い。


「じゃあ!頭かしてくださいね。」


彼女はそう言った。腕をこちらの頭に回し、抱えるようにされ。

彼女と自分。ふたりの額がぶつかった。

目を閉じ真剣な表情をする彼女の顔が近い。


「動かないでくださいね。」


「……。」


「……。」


「ふぅー!ありがとうございます!」


額が離れ


「かなりおもしろいですね!こっちにあるのとはだいぶ違う感じかなぁ?絵もきれいだし……。」


「もしかして……。おもしろくなかったですか?」


「そんなことないよー!」と全力で否定してみた。


「ふふ、そんなに慌てて弁解しないでも、冗談ですよ。冗談。それに!今あなたからデータをもらいましたのでここにあるゲームもバージョンアップですよ!」


彼女はそういうが目の前にあるのはやはり少し古めのゲーム機だ。変化はない。

いや、変化しているのは画面の方だった。

解像度が上がり動きが滑らかになる。それに先程は見なかったキャラクターも追加されていた。「すごい……。」


「ふふん、そうでしょ!私は賢いのでこんなのはお手の物ですよ!」


「さ!」


「?」


「なに不思議そうな顔してるんですか?……教えてくれるんですよね?」


「もちろん。」と答える。

教えを乞う彼女の顔つきはそっけなく、少し控えめで、なによりとても可愛らしかった。

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