第2話
「え?ええとあなたはもしかしてあっち側の人ですか?」
声が聞こえたと思い、目を開くとそこには1人の少女がいた。
少女と言うには少々体つきが良すぎる気もするが、顔つきにどこか幼さを感じさせる。
自分を見下ろすような形で心配そうにこちらを見つめている。
さっきまで話していたのだ間違えるはずがない。声も顔もそのままだ。
驚きのあまり声は出なかったが肯定の意味で首を縦に振った。
「えーっ!すごい!こんなことあるんですね!こうしてお会いできて嬉しいです!」
彼女はなだれこむようにしてこちらへ抱きついてくる。しっかりとした重さと柔らかな身体を感じる。
突然のことに対応できず体が後ろに仰け反り頭を打った。
痛がるこちらとは対照的に彼女は「んー!」と顔をこちらの胸に擦り付けながら出会えたことをとても嬉しく思ってくれている。
「あ、ごめんなさいひとりで盛り上がっちゃって、立てますか?」
こちらに手を差し出す彼女の腕は壊れそうなくらいにとても細く、透き通るくらいに白く儚い。
「ありがとう」とその手を取ると、当たり前だが壊れたりはせずにこちらの身体がふわりと持ち上がる。
「えへへ、お会いできて嬉しいです。貴方とは一度でいいからお話してみたかったんです。」
彼女はゲームの画面より自然にあざとく笑いかけてくる。
「ところで貴方はどうやってこっちに来たんですか?アバターですか?それとも……魔法とか?」
このゲーム内で彼女はアバターという絵(仮想の肉体)に声をあて、ネットを介して配信活動を行っていた。おそらくそのことを言っているのだろう。
もちろん、こっちの世界にはゲーム内に入れるツールも無ければゲームに人を追加できるようなアバターもない。
首を横に振り「君が連れてきてくれたんじゃ?」と聞いた。
「そんな!私にそういう力はありませんよ!でも、貴方がなにかをしたわけではないとして、もし理由をつけるとしたら……。」
「神様が私たちを繋げてくれたのかもしれませんね?」
彼女は微笑む。明るくて素敵な子だ。
「神様」と言う言葉を反芻して辺りを見渡す。そこはゲーム内で見たまんまの彼女の部屋だった。家具の配置やごちゃついたパソコンの配線ケーブルもそのままだった。好きなキャラクターの部屋に入れたとなるとやはり緊張する。
しかし、その緊張はこの光景の前に吹き飛ぶ。それ以外の景色を見ると全てが白一色で埋め尽くされていたのだ。
何もない空間が先も知らない彼方へとどこまでも繋がっていた。
彼女の部屋は切り取られたようにその空間にポツンとある。テレビや舞台のセットのように用意されたという言葉がしっくりきた。
「ん?どうしたんですか?急にほうけちゃって、心当たりでもありましたか?」
「……それとも私に見惚れちゃいましたか?」
「それはそう。」と言うと、彼女は両手で口を押え恥ずかしそうだ。
「え、ちょっとそれは不意打ちすぎますよ。いや、そこはあなたが頬を赤らめて恥ずかしそうにするところでしょ?なんで私がこんな……。あっつー。」
パタパタと手で顔をあおぎ、ごまかす姿は新鮮な表情でとてもかわいかった。
しかし、一度気になったことが脳裏から消えることはなく、この場所について尋ねる。
「え?この白い空間ですか?私の部屋ですし、いつも通りですよ?」
彼女は当たり前のようにそう言った。この切り取られた無機質な空間が普通なようだ。
「そんなことより、せっかく神様が時間をくれたんですからお話しましょう?」
「ほら、私の部屋で!お茶もお菓子も用意しますから」
「さあ!」
手を引かれ、促されるがままに席についた。
先ほどの白い空間にいたときとは違いどこか甘い香りがする。
彼女は対面に座り、人差し指で白い丸テーブルを2回叩いた。すると2つのコップと茶請けに山盛りに入った煎餅が出現した。
彼女は煎餅を1枚手に取り対面にあるベッドへと腰掛ける。
煎餅を口にするとパリッという音がしてボリボリという音がした。
「自分の家だと思って楽にしてくださいね!煎餅はどれだけ食べちゃってもいいので。遠慮しないでくださいね?」
「え?なに不思議そうな顔してるんですか?」
「どこから煎餅をだしたか?って……。ほらいくらでも出ますよ?」
マジックでも見ているような気分になる、なにも持っていなかった彼女の手に煎餅が出現した。
「もしかして?あっち側ではできないんですか?」
「へー、それはなんだか不便ですね。はいどうぞ。」
一枚手渡されたそれを、おそるおそる口に運ぶ。
「うまい。」普通においしいしょうゆ味の煎餅だった。
「でしょー!」と足をばたつかせながら彼女が言った。ベッドに座っていることもあってか、短い制服のスカートから下着が見えそうで目を逸らす。
そういえば、彼女のプロフィールの好物に煎餅とあった。間違いなく彼女は彼女だ。
「ところで貴方は最近ゲームを起動すらしてくれなくなってしまいましたけど。それはどうして?」
「やっぱり……飽きちゃいましたか?」
反射的に「それは違う!!」と否定した。
彼女は目を丸くして驚いている。
語気が強かったことに気づき「ごめん。」と誤り、言い訳をした。
「そうでしたか、最近忙しくてまともに自分の時間も作れなかった……。」
「言われてみれば、目にクマができてるし、若干やつれているように見えなくも……ないですかね?」
「ごめんなさい、お顔は初めて拝見するのでこれくらいしか言えなくて……でも、そうですね……。」
彼女はしばらく考えこむようにして、そして太ももをペチペチと叩く。
なんだろうと首を傾げた。
「ひざまくら、やってあげましょうか?」
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